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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・九悩録 7

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    晴奈の話、第327話。
    二転、三転の人生。

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    7.
     部下を全員失った、満身創痍のドミニクに待っていたのは、軍の冷たい反応だった。
     軍の支援でやってきた「RS作戦」は、いつの間にかドミニクの独断専行、軍の命令を無視した勝手な行動とされていた。大火からの報復を恐れての、軍本営の工作である。
     自分にかけられていた期待は罪に変わり、それを咎められ、罰を受けることになった。刑は禁固9ヶ月、その後に強制除隊。
     また現れた「9」の呪いに、ついにドミニクの心は歪んだ。



     それからしばらく後、央北では「カツミ・タイカを称えると殺される」と言ううわさが流れるようになった。ドミニクが大火の信奉者を次々と襲撃し、殺害していたからである。

     ドミニクは強制除隊後、裏の世界へ墜ちた。軍を追い出され、札付きとなった男が活躍できる場は、そこしかなかったからである。
     いや、それ以上にドミニクの中に、大火に対する憤怒や恨みが強かったのだ。部下を殺され、さらに軍人であった自分に対してこれ以上無い辱めを与えた大火に、ドミニクは偏執的とも言っていい執着を感じていた。
     そしてその狂気は親大火派の貴族や官僚、大臣たちに向けられた。大火に取り入り、彼が握る利権や財産などを狙う者、または有事の際に守ってもらえるようにと画策している者たちをドミニクは執拗に狙い、暗殺し続けた。
     軍の方も、狙われた者たちの殺され方といくつかの情報網から、犯人はドミニクであると割り出していた。しかし、相手は大火に多少ながらも打撃を与えたほどの実力を持つ男である。警備に向かわせた兵士たちはまるで相手にならず、犠牲者が増えるばかりだった。

     そして、ドミニクが9件目の暗殺に向かった時――彼に人生の転機が訪れた。



     窓をぶち破り、ドミニクはその屋敷に侵入した。途端に辺りは騒がしくなり、屋敷中に灯りが灯される。だがドミニクは一向に意に介さず、標的の部屋へと足を進める。
    (この廊下を進み、右だったな)
     廊下の曲がり角から、先の様子を確認する。ところが予想に反し、警備兵も使用人もいない。
    (……?)
     後ろからも、人が来る様子は無い。妙な雰囲気を感じ取り、ドミニクは警戒していた。
     と――。
    「入ればーぁ?」
    「!?」
     誰もいなかったはずの背後から、妙に甘く伸ばした男の声が聞こえてきた。
    「だ、誰だ!?」
    「アタシ?」
     振り向くとそこには、白衣を着たオッドアイの猫獣人が立っていた。
    「アタシはシアン。アンタ、今世間を騒がせてる『阿修羅』よねーぇ?」
    「……お、女? それとも?」
     格好や仕草、背丈を見れば女なのだが、声と体型を考えれば男としか思えない。今まで出会ったことのないタイプの人間に出会い、ドミニクは困惑した。
    「どっちでもいいじゃなぁい。
     それよりもーぉ、アンタのコトずーっと待ってたのよぉ、アタシたち」
    「な、に?」
     シアンと名乗った猫獣人は、ドミニクの手を引いて奥の部屋へと進む。
    「旦那様――バニンガム卿がお待ちよーん」

     アドベント・バニンガム伯爵。彼は今日、ドミニクが狙っていた標的だった。だが、その本人がドミニクを待っていたと言うのだ。
    「……」
     バニンガム卿の部屋に通されたドミニクは、目の前に座る初老の短耳――バニンガム卿を奇異の目で見つめることしかできない。彼を前にしたドミニクの頭は、非常に混乱していた。
    「そんなに不思議かね?」
     バニンガム卿が口を開く。ドミニクは何も言わず、黙り込む。
    「いや、そう思うのも無理は無いだろうな。まさか暗殺しようとしていた相手から、こうして招待を受けるなど、誰も思わない」
     バニンガム卿はそう言って、紅茶に口を付ける。
    「さ、君も飲みたまえ。毒など入っていないから、安心していい」
    「……」
     ドミニクはなお、口を開かない。シアンから紅茶を渡されたが、手に持ったままだ。
    「シアン。周りに人の気配は?」
    「無いわぁ。さっき一人来たけど、追い払っておいたわぁ」
    「そうか。それなら、肚を割って話せるな。
     私の名と役職はご存知だろうから、君の知りえないことから紹介しよう。君は、私が親大火派と思っているのだろう。だからこの屋敷に侵入した。そうだね?」
    「……」
     ドミニクは短くうなずいた。その反応を見て、バニンガム卿はニヤッと笑う。
    「ところが実際は、まるで違うのだ」
    「違う?」
     ドミニクは思わず聞き返す。
    「私は実は、カツミを中央政府から排除しようと企んでいる。現在親大火派を装っているのは、擬装なのだ」
    「戯言を……」
     怒鳴りかけたドミニクの口に、シアンが指を当てる。
    「叫んじゃダ・メ。人が来ちゃうでしょーぉ?」
    「まあ、話を聞きたまえ。
     私の真意も君と同じなのだ。私も、カツミを中央政府から排除しようと画策している。そして――少し言い方は悪いかもしれないが――滅多やたらに動き回っている君よりも、もっと効果的で、もっと確実な方法で、カツミを倒そうとしている。
     そのために私は、秘密裏に人を集めている。カツミを倒すための、兵隊作りをしているのだ。その名も、秘密結社『殺刹峰』――カーテンロック山脈(峰)に集まる黒炎教団(刹)を、ひいてはカツミを倒す(殺)ための組織だ。
     そこで、だ。君に、その組織へ入ってもらいたい。どうかね?」
     突然の勧誘に、ドミニクは言葉を失った。
    「なっ……」
    「どうせ君も、カツミを倒そうとしているのだろう? 我々は、一騎当千の君が来てくれれば心強い。君も、単騎であの『黒い悪魔』に挑まずに済む。
     悪い話ではあるまい?」
     不敵に笑うバニンガム卿に気圧され、ドミニクは思わず紅茶をすすっていた。

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    2016.07.28 修正
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