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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・指導録 5

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    晴奈の話、35話目。
    不毛な情熱。

    5.
     座り直したところで、重蔵が満足気に感謝の意を表す。
    「まあ、それでも最初の頃に比べれば幾分、様変わりしたのう。ようやった、晴さん」
    「はい、ありがとうございます」
     晴奈たちも元の位置に戻り、揃って頭を下げた。
    「まあ、後何年か、じっくり修練を積みなさい」
    「はい。それでは、失礼……」「待った」
     と、もう一度頭を下げ、立ち上がろうとした良太を、晴奈が止めた。
    「何でしょう、姉さん」
    「一つ聞いてもいいか?」
    「……はい?」
     座り直した良太をじっくりと見て、尋ねる。
    「お主の経緯を聞いたが、嘘をついているだろう」
    「えっ」
    「両親が殺された時、お主はその場にいなかったと言ったな?」
    「え、ええ、はい」
    「本当は、いたんじゃないか?」
    「……!?」
     良太の目が見開かれる。晴奈は続いて尋ねる。
    「あの、家元を待ち構える際の、怯えにも似た鬼気迫る気配。何の危難にも出会わず、安穏と生きてきた者が出せるものでは無い。
     よほど己の身が危機にさらされなければ、得られぬ類のものだ」
    「……」
     良太の額に汗が浮かぶ。二人の様子を見ていた重蔵が、はーっとため息を漏らした。
    「流石じゃな、晴さん。その通りじゃよ」
    「おじい様!」
     良太が止めようとしたが、重蔵は片手を挙げ、それをさえぎる。
    「心配するな、良太。雪さんも晴さんも、口は堅い。周りに吹聴して、お前の秘密を暴くようなことはせんよ」
    「……」
     重蔵は座り直し、ゆっくりと語り始めた。
    「まあ、その。始めはわしと、わしの娘のいさかいが原因じゃった。
     わしも娘も、あの頃はひどく頑固じゃった。娘には剣術やら作法やら色々と教えたが、それをすべて、『私はもっと別な人生を歩みたいの』と言って捨て去った。そして口喧嘩の末に、娘は塞を離れた。
     それからしばらくして、娘から手紙が届いた。『ある街でいい人と出会い、結婚した。男の子が生まれたのだが、名前を考えてくれないか』、とな。正直、わしは少し複雑な気分じゃった。娘が勝手にどこの馬の骨とも知れぬ輩と、と怒った反面、反目していたわしを頼ってくれたその気持ちを嬉しくも思った。……結局、わしは和解した。『良太』と一筆したため、娘に送り返したのじゃ。
     その後、何度か手紙でやり取りし、そしてつい最近、『戻ってみてもいいか』と返事が来た。わしは喜んでそれを了解した。で、どうせなら迎えに行ってやろうとそう考えて、娘夫婦のいる天玄に向かった。じゃが……」
     重蔵はそこで言葉を切る。その顔はいつもよりしわが深くなり、くぼんだ目がひどく悲しそうに光っていた。
    「襲われておった。
     家は扉も、窓も破られ、娘も、夫と思われる男も、むごたらしく殺されておったのじゃ。そしてわしは、今まさに良太に襲いかかろうとしていた男を見つけた。考える間も無く、わしはそいつを斬った。腕は落としたものの、そいつは逃げてしまった。
     後に聞けば、そいつは人さらいだったそうじゃ。央南や、央中で暗躍する人身売買の組織があり、良太はそやつらに狙われたのじゃと。わしは良太を連れて急いで天玄を離れ、ここに戻ってきた」
    「……」
     すすり泣く声が、良太から聞こえてくる。晴奈が振り向くと、良太がボタボタと涙を流しているのが見えた。
     その様子を眺めながら、重蔵は晴奈に礼を言った。
    「鍛えてやってくれてありがとう、晴さん。この調子なら、良太はいつかきっと、大願を成就できるじゃろうな」
    「大願?」
     良太はグスグスと、鼻をすすりながら答えた。
    「仇を、取りたいん、です。僕の両親を、殺した、その男を、討ちたい」
    「……そうか」
     晴奈はなぜか、良太がそんな言葉を吐いたことにひどく、胸が痛んだ。
    (優しいこいつが、そんな悲壮な決意を抱く、……のか。私はもしかしたら、こいつが歩むべきだった人生を、曲げてしまったのでは無いだろうか。
     本当にこいつを、鍛えて良かったものか)



     晴奈の心境とは裏腹に、晴奈の評判は大きく上がった。
    「あの『坊ちゃん』を見事に鍛えるとは、なかなかに優れた練士では無いか」と評され、晴奈に指導を請う者、晴奈を慕う者が多くなった。
     勿論、良太もその一人である。
    「晴奈の姉さん、また今日もお願いしますねっ」
     子犬のように晴奈を慕う良太を見て、晴奈は心の奥にわだかまりを覚えずにはいられない。
    (……しかし)
    「ああ。今日も厳しく行くからな。頑張れよ」
    「はいっ!」
    (こいつがそれを望み、全うしようと言うのならば、応えてやらねばなるまい。
     姉弟子として、また、教官としても)
     晴奈は深呼吸し、雑然とした思いを頭から払いのける。
     良太と、前にいる門下生たちに向かって、大声を上げて指導を始めた。
    「では、今日も行くぞ! まずは柔軟からだ! はじめッ!」

    蒼天剣・指導録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.08 転載及び加筆修正
    2016.02.10 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    その可能性は少なくなかったですね。
    でもできるなら、もっと早く来てほしかったと、良太は思っているかも知れませんね。

    NoTitle 

    じいちゃんが遅かったら良太も今頃v-399

     

    晴奈の弟子じゃなくて、雪乃の弟子ですw
    晴奈が雪乃の一番弟子、良太が二番弟子ですね。

    この時の大願は、その後に紆余曲折があります。
    またお読みくださいね。

    弟弟子登場ですね。 

    ようやく晴奈にも弟子ができるんですね。
    結構早い月日ですね。
    色々弟子にもあるようで……その後の話で大願が成就するときが来るんでしょうかね。
    また、読ませていただきます。
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