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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・藍色録 4

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    晴奈の話、第333話。
    毒男。

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    4.
     パン、パンと銃声が響く。
    「……痛いですよ」
     青猫はフォルナに伸ばしていた手を引っ込める。その甲には銃弾が突き刺さっていた。
     フェリオがいつの間にか、銃を構えている。
    「それ以上動くな、『猫』」
    「あなたも『猫』じゃないですか。……そう言えば、自己紹介がまだでしたね。
     僕の名前はネイビー・『インディゴ』・チョウと言います。殺刹峰特殊部隊『プリズム』の中では、ナンバー3に入る実力を持っています」
    「チョウ? ドクター・オッドと何か関係が?」
     尋ねてきたバートに、ネイビーは短くうなずいた。
    「ええ、実父……、って言えばいいのかな。それとも実母……? あの人、ややこしい性別ですからねぇ。
     ……いや、僕自身もややこしい人間ですし、どう言ったらいいのかな」
    「何をゴチャゴチャ言ってやがる。つまり、ドクターの息子なんだな」
    「あ、はい。そうですね、そう言った方が分かりやすかったですね、すみません」
     ネイビーは殺気立つ公安組に対し、はにかんでみせる。それがバートとフェリオの癇に障ったらしく、二人は晴奈と同様に憤る。
    「ふっざけんじゃ……」「ねえぞコラあぁ!」
     バートとフェリオは同時に銃を乱射するが――。
    「当たるわけないじゃないですか。言ったでしょう、ナンバー3だって」
     いつの間にか、二人のすぐ目の前にネイビーが立っていた。
    「いっ……」
     フェリオは慌てながらも、銃を構え直す。
    「それ以上撃っても無駄ですよ」
     ネイビーはフェリオの左手首を、そっと握った。
    「何すんだ! 離せ!」
    「分かりました」
     ネイビーは何故か素直に、握っていた手を離した。
    「くそっ……! 余裕見せやがって」
    「そりゃ、見せますよ。もうあなた、おしまいなんですから」
    「え……?」
     次の瞬間、フェリオは声にならない叫び声を上げる。
    「……~ッ!?」
     自分の左手が、ぼとっと落ちたからだ。
    「なっ、な……、なに、をっ……」
    「見ての通りです。腐って落ちたんです、僕の毒で」
     にっこりと笑ったネイビーに、フェリオはガチガチと歯を鳴らし、体を震わせていた。

     フェリオの手首が落ちたのを見て、その場にいた全員がぞっとする。ネイビーは依然ニコニコと笑いながら、自分の能力について説明し始めた。
    「実を言えば、厳密には僕、人間じゃないんですよ。ドクター・オッドの血と人形から生み出された、半人半人形の存在なんです。
     それでですね、半分人形ですから、体をある程度自由にいじれるんです。自分の両手に、強い腐敗性を持つ毒をしみこませ、それを使って戦う。それが僕の戦闘スタイルなんですよ」
    「あ……、あっ……」
     自分に起こった事態が呑み込めないらしく、フェリオはうずくまって自分の腐り落ちた手を呆然と眺めている。
    「だからですね……」
     ネイビーはそっと、フェリオの顔に手を伸ばす。
    「こうやって手を触れるだけで、誰でも一瞬で殺せるんです。
     あなたたちは武器や魔術を使わなきゃ人を殺せませんが、僕は素手で十分なんですよ。それがあなたたちと、僕との絶対的な差なんです」
    「やめろーッ!」
     シリンが駆け出し、あと少しでフェリオに触れるところだったネイビーに、ドロップキックを喰らわせた。
    「わっ」
     ネイビーは吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転げ回る。
    「フェリオ、大丈夫か!? 気ぃ、しっかり持ちや! な!」
    「お、オレ、オレの、手、手が」
     フェリオの目は焦点が定まっていない。自分の手を失った異常な事態に、錯乱しかかっているらしい。
    「しっかりせえって!」
     シリンがバチ、と音を立ててフェリオの頬を叩く。
    「あ、あ……」
    「こんなん治る! 治るて! ほら、立ってって!」
    「治るわけないじゃないですか」
     転げ回っていたネイビーはフラフラと立ち上がり、いまだのんきな口調でしゃべっている。
    「腐ってるんですよ? くっつくわけが無い」
    「治る!」
    「あなた、本当に頭悪いんですね。くっつきようがないって、分かりそうなものですけど」
    「うるさい! 治る言うたら治るんや!」
     シリンは怒鳴りながら、ネイビーに襲いかかった。
    「……馬鹿すぎて呆れようがありませんけど」
     ネイビーは拳法の構えを取り、シリンの蹴りを受け流そうとする。
    「この手に触ったら、そこから腐り落ちます。僕がその脚を手で受けたら、どうなるか分かるでしょう?」
    「うるさいわボケぇぇぇッ!」
     シリンは飛び上がり、ソバット(空中回転蹴り)を繰り出した。ネイビーはため息をつきつつ、その脚をつかもうとした。
     ところが向かってきた右脚はそのまま前を通り過ぎ、軸足になっていた左脚が飛んでくる。
    「あっ」「だらっしゃあああッ!」
     ネイビーの両手をすり抜けて、シリンの太く大きな足が、ネイビーの顔面にめり込んだ。
    「う、が、か……ッ!」
     ネイビーはのけぞり、縦回転しながら、4回転ほどグルグルと回って地面に突き刺さった。
    「手がなんやっちゅうねんや、このゲス!」
    「あ、は……はは、油断、しました。……あれだ、け激昂し、てフェイ、ントをか、けるとは、恐れい、りました、よ」
     地面に突っ伏したまま、ネイビーがボソボソとしゃべっている。
    「帰れ! 消えろ!」
     シリンはフェリオのところに戻りつつ、ネイビーに向かって罵声を浴びせた。
    「……そうしま、す。ちょっ、と顔が、見せら、れないことに、なってしま、いましたから」
     ネイビーはヨロヨロと立ち上がる。確かにその顔は、筆舌に尽くしがたい「壊れ方」をしている。どうやら半分人形と言うのは、本当らしかった。
    「ああ……。あごが、半分なくなっ、ちゃって話しに、くい。それ、じゃ、失礼し、ます」
     ネイビーは顔を布で隠し、そのまま立ち去っていった。
    「え、ちょ、ちょっと『インディゴ』様!? 待ってくださいって! 俺、どうすれば!?
     ……あっ」
     いまだ晴奈に擬装していたカモフは、目の前にいる本物に気付いた。
    「さて、カモフとやら」
    「……はい」
    「まずは、私の顔と声で話すのをやめろ。話はそれからだ」

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    2016.08.04 修正
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