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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・藍色録 5

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    晴奈の話、第334話。
    ドS&ドS。

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    5.
     ネイビーとの戦いが終わってから、1時間後。
     フェリオとシリンは、まだ街外れにいた。いまだフェリオに、平静さが戻ってくる様子は無い。自分の体から離された左手を、呆然とした顔で見つめたままだ。
    「手……、手が……」
    「フェリオ……」
     シリンは泣きそうになり、フェリオの肩に手を置いた。
     と――。
    「はいはいはーい、賢者登場だね」
     先程のネイビーに勝るとも劣らない、のんきな声がかけられる。
    「誰や!?」
    「晴奈の知り合い。ほれ、手ぇ見せろってね」
     突然現れたモールは、ひょいとフェリオの左手を取った。
    「うわぁ……、グロいね」
    「何してんねんや、自分」
     シリンはモールの剣呑な振る舞いに怒りを覚え、つかみかかろうとした。
    「どけってね、デカ女」
     が、モールは杖をひょいとシリンに向ける。するとシリンはまるで鞠のように、斜め上へと飛んでいった。
    「うひゃああ!?」
    「治療してやるね。……『リザレクション』!」
     モールは腐り落ちた手とフェリオの手首とを持ち、呪文を唱える。すると腐りきっていた手に、いかにも健康そうな、桃色の肉が盛り上がり始めた。
    「あ……、あ……!?」
     その様子を見ていたフェリオの目にも、ようやく正気の色が戻ってくる。
    「手がまだ残ってて良かったね。じゃなきゃ、流石の私でも治せなかったね。あのデカ女が守ってくれてなきゃ、危ないところだった。感謝しときなよ」
     そう言ってモールは手を離す。完全に腐っていたフェリオの左手は、元通りに治っていた。
    「あ、……ありがとうっス、えっと」
    「私? 私の名はモール・リッチ、旅の賢者サマだね。……んで、それよりもだ。
     晴奈たち、ドコに行ったね?」

    「モール殿!」
     シリンたちと共に宿に向かったモールは、晴奈に歓迎された。
    「ちょうどいいところに! 私の仲間が、手首を落とされて……」
    「あー、コイツのコト? とっくに治しといたね」
    「あっ、……おお!」
     晴奈はフェリオの左手を取り、軽く握る。
    「いてて、痛いっス」
    「良かった、本当に……! かたじけない、モール殿!」
     頭を下げる晴奈に、モールは嬉しそうにはにかみながら手を振った。
    「いいっていいって、んなコト。いやぁ、ちょっとばかり手間取っちゃってね、こっちに来るのが遅れちゃってねぇ」
    「もしや、襲われたのですか?」
     晴奈にそう問われ、モールは肩をすくめて返す。
    「当たり。みょーな女でね、突然目の前に現れては魔術をバカスカ撃ってくる、かなりヤバ気なヤツだったね。……何とか撒いたけどさ」
     そう言ってモールは、「よっこいしょー」とため息をつきながら椅子に腰掛ける。
    「(所作は本当に老人だなぁ、この人は)モール殿でも倒せないような敵がいるとは」
     晴奈にそう言われ、モールは口をとがらせる。
    「だってね、いきなりポンって現れるんだよ!? あっちに出たかと思ったらこっち、こっちかと思ったらあっちって、んなもん相手しきれるワケないよね!?」
    「あ、し、失敬」
     余程執拗に狙われていたらしく、いつもに増してモールは、剣呑な態度を取ってくる。
    「んでさ、何があったのか教えてよ、晴奈」
    「あ、はい」
     晴奈は敵、カモフが仲間の一人に化けていたこと、カモフがネイビーと連絡を取ろうとしていたこと、そしてネイビーと戦って撃退し、残ったカモフを捕まえたことを説明した。
    「なるほどねー」
    「その敵が、あれです」
     晴奈は部屋の片隅を指差し、椅子に座るカモフを示した。
     目隠しと猿ぐつわをされ、縄で何重にも縛られているため、変身能力以外は普通の兵士と何ら変わりないカモフはまったく動けないでいる。
    「うぐー、うー」
    「コイツがその、カモフ?」
    「はい」
    「どんな顔してるね?」
     そう言ってモールは目隠しと猿ぐつわを外す。
    「……ふーん」
     見た途端、モールは非常に不機嫌になった。
     カモフはモールを見た途端、自分の顔をモールのものに変えたからである。
    「こーゆーふざけたヤツってさー、徹底的にいぢめ倒したくならないね?」
    「なるっ」
     モールの問いかけに、小鈴が即答する。その返事を聞き、モールはニヤッと笑った。
    「小鈴、キミは分かる子だねー」
    「モールさんもねっ」
     小鈴とモールはガッチリと握手を交わし、同時にカモフの方をにらんだ。
    「いいね? ……で、……して、……ね」
    「りょーかいっ。……で、……なって、……なるのね」
    「お、おい? 何する気だ?」
     まだモールの顔のままのカモフは、二人の異様な気配に震え出した。
    「よし、それじゃいっせーのせで」
    「いっせーの」「せ」「『シール』!」
     モールと小鈴は同時に呪文を唱える。
     するとカモフの顔がみるみる変形し、非常にのっぺりとした、特徴の無い男になった。
    「みっ……、見るなっ!」
    「へーぇ、見られたくないんだー、じゃーガン見しちゃうー」
    「見ろってコトだよねー、誘ってるよねー、変態さんだねー」
    「やめろおおおお!」
     カモフは顔を変えようとしているようだが、どうやっても術が発動できないらしく、顔は一向に平面のままで、何の変化も起こらない。
    「な、何で術が……!?」
    「『シール』は世間一般の術とは、ひと味違うからねー」
    「あたしたちが解除しようとしない限り、絶対術は使えないのよー」
    「そんな、バカな……っ! くそ、くそーッ!」
    「頑張ってる頑張ってる、絶対できないって言ってんのにー」
    「わー必死だ必死、ちょー焦ってるねー」
     はやし立てるモールたちに、能面のようになったカモフの顔が真っ青になっていく。
    「やめろ、やめてくれぇぇ! 俺の顔を見るなああぁ!」
    「きゃー叫んでるやだーきっもーい」
    「そんなに煽っちゃうと私ら本気出しちゃうよねー?」
    「ひいいいいいいっ……」
     その後小一時間、モールと小鈴のカモフいじりは続いた。

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    2016.08.04 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    自分もリアリティありき路線ですが、
    やっぱり「夢」がないとなー、と。

    こちらこそ、うちのキャラをご登用いただきありがとうございました。
    また次回も、よろしくお願いします。

    NoTitle 

    おお=====!!!!!!
    斬れている手が復活!!
    凄い!!!すごいファンタジーですね!!
    う~~む、なんだかリアリティあるファンタジーしか書いていないですから、こういうのも必要ですね。勉強になります。

    改めて。
    お蔭様でゲーム化あいなりました。
    キャラクター提供・監修ありがとうございます!!
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