「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・緑色録 1
晴奈の話、第336話。
迎撃準備。
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1.
「ひっどいわねぇ……」
オッドが困った顔で診察台の前に座っている。
「すみま、せん、ドクター」
「しゃべらなくていいってばぁ。怖いじゃないのぉ」
診察台に横たわっているのはネイビーである。シリンの蹴りで顔を壊されたため、オッドの診察を受けている最中なのだ。
「コレが人間だったら、顔面裂傷、右眼球欠損、頚椎・顎骨・頭蓋骨骨折……、頭が弾けてる致命傷よぉ? ……ホントにもう、潰れたトマトみたいになっちゃって。
ともかくウィッチ呼んだから、安心しなさぁい」
「はい」
オッドはカルテを書きながら、ブツブツと愚痴をこぼす。
「ミューズも腕吹っ飛ばされて帰ってくるし……。
トーレンスがもっと積極的に集中攻撃やってくれれば、こんな風に大ケガ負うコト無かったのにねぇ」
「心配し、てくれ、るんですね、ドクター」
「しゃべんないでってばぁ」
「知ってるー?」
「プリズム」が集まる訓練場で、ペルシェとレンマ、そして黄色い僧兵服に身を包んだ短耳の少年が会話している。
「何を?」
「ネイビーさんとー、ミューズさんがー、大ケガ負っちゃったみたいー」
「大ケガって、どのくらいの?」
レンマが尋ねると、ペルシェは自分の顔に掌を乗せて説明する。
「何て言うかー、ミューズさんはドミニク先生みたいになっちゃってー。それとネイビーさんはー、この辺りがぜーんぶ壊れちゃったってー」
「どう言うこと?」
聞き返してきたレンマに、少年が答える。
「聞いたんですけど、何でもミーシャって女の人の、その、ソバットって言えばいいのかな、そんなのを顔に受けたみたいです」
「へぇー。でもネイビーさん、半人半人形(ドランスロープ)だったよね? 確か8割くらい人形だって。それなりに体もいじってあるんじゃ」
「それだけー、すっごい蹴りだったってコトだよねー」
「敵も、強いんですね」
少年が不安そうな顔をする。それを見たレンマがニヤニヤ笑って、少年の肩に手を置いた。
「大丈夫だって、ジュンなら。まだ子供だし、手加減してもらえるよ」
「こ、子供じゃないですよ。もう14です」
「まーだ、14だよー」
「もう、ペルシェさんまで……」
ペルシェにからかわれ、少年――ジュンは口をとがらせてうつむいた。
と、そこに彼らの教官であり総司令官でもあるあの片腕の男、モノが現れた。
「皆、少し時間が取れるか?」
「あ、ドミニク先生」
三人は敬礼し、足早にモノの前に集まった。
「どうしたんですかー?」
「カモフ君が敵の手に落ちた」
「何ですって?」
「『インディゴ』への連絡の際、敵に襲撃されたのだ。現在『インディゴ』は……」「あ、聞いてますー。大ケガしたってー」
ペルシェの言葉に、モノは小さくうなずく。
「そうだ。その際にカモフ君は正体が割れ、敵に拘束されたと言う。現在は恐らく、敵に情報を渡しているだろう」
「そんな……。カモフさんなら、そんなことしないと……」「レンマ君」
モノはレンマに顔を向け、無言・無表情でじっと見つめる。
「……はい」
「敵に関する物事は、常に最低最悪を想定しなければならない。楽観的観測は単なる願いや希望であり、事実をぼかしているだけだ。
状況が的確に判断できなければ、それはいずれ、己の足をすくうことになる」
「すみませんでした」
レンマが頭を下げたところで、モノは話を再開する。
「敵は恐らく10日以内に、イーストフィールドの移動法陣を襲撃してくるだろう。
敵が我々の陣地に近付いてくるのは結構だが、内部に踏み入られては困る。その一歩手前で倒すか、防がねばならない」
「つまりー、イーストフィールドの移動法陣の前でー、敵さんを撃退しちゃえばいいんですよねー?」
「そう言うことだ。
今回出向いてもらうのは3部隊。『マゼンタ』、『カーキ』、そして『イエロー』だ。ヘックス君をサポートする形で、レンマ君とジュン君に働いてもらう」
「了解しました!」
意気揚々と敬礼するレンマに対し、ペルシェはぶすっとした顔をする。
「えー、あたしは待機ですかー?」
「ああ。ジュン君の術との相性を考え、今回の出動は無しだ」
「……はーい、分かりましたー」
ペルシェはがっかりした顔をしたが、素直に引き下がった。
と、ここでモノはジュンの顔色が悪いことに気が付いた。
「不安か、ジュン君」
「は、はい」
「大丈夫だ。今回の任務はあくまでサポート、後方支援であり、君が前面に出張って戦うようなことは無い。安心して臨みたまえ」
「わ、分かりました」
そのやり取りを聞いていたレンマが、茶々を入れてくる。
「先生、最低最悪を想定しろって言ってませんでしたか?」
それに対し、モノはにこっと笑って返した。
「敵に関しては、だ。味方を信じなくてどうする?」
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迎撃準備。
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「ひっどいわねぇ……」
オッドが困った顔で診察台の前に座っている。
「すみま、せん、ドクター」
「しゃべらなくていいってばぁ。怖いじゃないのぉ」
診察台に横たわっているのはネイビーである。シリンの蹴りで顔を壊されたため、オッドの診察を受けている最中なのだ。
「コレが人間だったら、顔面裂傷、右眼球欠損、頚椎・顎骨・頭蓋骨骨折……、頭が弾けてる致命傷よぉ? ……ホントにもう、潰れたトマトみたいになっちゃって。
ともかくウィッチ呼んだから、安心しなさぁい」
「はい」
オッドはカルテを書きながら、ブツブツと愚痴をこぼす。
「ミューズも腕吹っ飛ばされて帰ってくるし……。
トーレンスがもっと積極的に集中攻撃やってくれれば、こんな風に大ケガ負うコト無かったのにねぇ」
「心配し、てくれ、るんですね、ドクター」
「しゃべんないでってばぁ」
「知ってるー?」
「プリズム」が集まる訓練場で、ペルシェとレンマ、そして黄色い僧兵服に身を包んだ短耳の少年が会話している。
「何を?」
「ネイビーさんとー、ミューズさんがー、大ケガ負っちゃったみたいー」
「大ケガって、どのくらいの?」
レンマが尋ねると、ペルシェは自分の顔に掌を乗せて説明する。
「何て言うかー、ミューズさんはドミニク先生みたいになっちゃってー。それとネイビーさんはー、この辺りがぜーんぶ壊れちゃったってー」
「どう言うこと?」
聞き返してきたレンマに、少年が答える。
「聞いたんですけど、何でもミーシャって女の人の、その、ソバットって言えばいいのかな、そんなのを顔に受けたみたいです」
「へぇー。でもネイビーさん、半人半人形(ドランスロープ)だったよね? 確か8割くらい人形だって。それなりに体もいじってあるんじゃ」
「それだけー、すっごい蹴りだったってコトだよねー」
「敵も、強いんですね」
少年が不安そうな顔をする。それを見たレンマがニヤニヤ笑って、少年の肩に手を置いた。
「大丈夫だって、ジュンなら。まだ子供だし、手加減してもらえるよ」
「こ、子供じゃないですよ。もう14です」
「まーだ、14だよー」
「もう、ペルシェさんまで……」
ペルシェにからかわれ、少年――ジュンは口をとがらせてうつむいた。
と、そこに彼らの教官であり総司令官でもあるあの片腕の男、モノが現れた。
「皆、少し時間が取れるか?」
「あ、ドミニク先生」
三人は敬礼し、足早にモノの前に集まった。
「どうしたんですかー?」
「カモフ君が敵の手に落ちた」
「何ですって?」
「『インディゴ』への連絡の際、敵に襲撃されたのだ。現在『インディゴ』は……」「あ、聞いてますー。大ケガしたってー」
ペルシェの言葉に、モノは小さくうなずく。
「そうだ。その際にカモフ君は正体が割れ、敵に拘束されたと言う。現在は恐らく、敵に情報を渡しているだろう」
「そんな……。カモフさんなら、そんなことしないと……」「レンマ君」
モノはレンマに顔を向け、無言・無表情でじっと見つめる。
「……はい」
「敵に関する物事は、常に最低最悪を想定しなければならない。楽観的観測は単なる願いや希望であり、事実をぼかしているだけだ。
状況が的確に判断できなければ、それはいずれ、己の足をすくうことになる」
「すみませんでした」
レンマが頭を下げたところで、モノは話を再開する。
「敵は恐らく10日以内に、イーストフィールドの移動法陣を襲撃してくるだろう。
敵が我々の陣地に近付いてくるのは結構だが、内部に踏み入られては困る。その一歩手前で倒すか、防がねばならない」
「つまりー、イーストフィールドの移動法陣の前でー、敵さんを撃退しちゃえばいいんですよねー?」
「そう言うことだ。
今回出向いてもらうのは3部隊。『マゼンタ』、『カーキ』、そして『イエロー』だ。ヘックス君をサポートする形で、レンマ君とジュン君に働いてもらう」
「了解しました!」
意気揚々と敬礼するレンマに対し、ペルシェはぶすっとした顔をする。
「えー、あたしは待機ですかー?」
「ああ。ジュン君の術との相性を考え、今回の出動は無しだ」
「……はーい、分かりましたー」
ペルシェはがっかりした顔をしたが、素直に引き下がった。
と、ここでモノはジュンの顔色が悪いことに気が付いた。
「不安か、ジュン君」
「は、はい」
「大丈夫だ。今回の任務はあくまでサポート、後方支援であり、君が前面に出張って戦うようなことは無い。安心して臨みたまえ」
「わ、分かりました」
そのやり取りを聞いていたレンマが、茶々を入れてくる。
「先生、最低最悪を想定しろって言ってませんでしたか?」
それに対し、モノはにこっと笑って返した。
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