「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・緑色録 2
晴奈の話、第337話。
敵の苦悩。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「うーん……」
モールがフェリオの左腕を見てうなっている。
「私の術だけじゃ、完治しないか」
「みたいっスね。……また手、取れたりするんスか?」
モールが使った癒しの術によって完治したはずの左腕に、真っ青な手形が浮き出ている。紛れも無く、ネイビーの毒である。
「取れるどころか、ほっといたら死んじゃうかも知れないね」
「げ……」
モールは指折りながら計算し、予想を伝える。
「でも、最初の毒とは違うタイプかも」
「そうなんスか?」
「こっちは多分、ゆるやかに全身を蝕んでいくタイプ。手ぇ落とされてガックリ来たところに、二番目の毒で苦しんで死亡。えげつないにも程があるね。
2日でそんだけ広がってるから、このペースで行くと数週間後にはその毒、全身に回るかも」
「マジっスか……」
「ともかく、だ。デカ目猫君はココで安静にしてなきゃダメだね。変に動き回ったらそれだけ、毒が早く回ってくる」
「……そうっスか」
フェリオはガックリとうなだれ、自分の腕をさすった。
イーストフィールドに向かう直前になって、フェリオが体の異変を訴えてきた。モールの診察により、彼はクロスセントラルで待機することになった。
「向こうのアジトに行けば、解毒剤も手に入るかも知れないからな。ここでカモフ見張りながら安静にしてろよ」
「了解っス」
意気消沈した顔で敬礼したフェリオを見て、シリンが手を挙げた。
「はいはいはーい。ウチもこっちに残りまーす」
「はぁ!? 何寝ぼけたこと言って……」「いいえ、バートさん」
却下しようとしたバートをさえぎり、フォルナが口を開く。
「シリンはこちらに残った方がよろしいでしょう」
「何でだよ?」
「考えてみなさい、バート」
ジュリアもフォルナの意見に同意する。
「敵がカモフを奪還しようと、ここに攻め入ってくる可能性もあるでしょう? そんな時に半病人のフェリオ君だけじゃ、心許ないわ」
「……そっか。言われりゃ、確かにな」
「ほな、そーゆーコトでよろしゅー」
嬉しそうにニコニコしているシリンを見て、バートはやれやれと言う感じでうなずいた。
「ま、しゃーねーか。……っと、そう言やセイナは?」
「バート班の部屋にいらっしゃいますわ。カモフ氏と話がしたいそうなので」
晴奈は椅子に縛り付けられ、布袋をかぶったカモフと二人きりで向かい合っていた。
カモフから「自分の扁平な顔は誰にも見られたくない」と懇願されたので、布袋に目出し用の穴を開け、それを彼にかぶせてあるのだ。
「俺に何を聞きたいんだ?」
「篠原一派のことだ。お前はあの時ロウ……、ウィルバーに倒され、あのまま焼け死んだものと思っていたが」
「ああ、何とか生きてた。で、その後来てくれたオッドさんとモノさんに助けてもらって、そのままアジトから脱出したんだ」
「なるほど。……と言うことは、行方不明になっていた篠原一派の者たちは、お前たちが?」
カモフはうつむきながら、その後のことを語った。
「ああ。俺たちが運び出して洗脳し、半分は売った」
「半分? 残りは?」
「殺刹峰の兵士になってる。洗脳で記憶を消し、無意識的に従うように暗示をかけてあるんだ」
「……反吐が出るな」
晴奈は首を振り、短くうめいた。
「人間を何だと思っているのか!」
「上の奴に取っちゃ、ただの収穫品。ジャガイモや大根みたいなもんさ」
「ふざけたことを……」
「俺もそう思ってるよ。……俺も、記憶が無いんだ」
「何?」
下を向いていたカモフが顔を挙げ、晴奈をじっと見る。
「俺は今24ってことになってるけど、12歳から前の記憶はまったく出てこないんだ。洗脳されたってことには20の時、アンタと戦う1年前に知ったんだ。
でもそれを知って、殺刹峰に憤慨しても、決別しようとしても……」
またカモフの頭が下がる。
「……何も持ってないから、逃げ場も行くところも無いんだ。
結局俺は真相を知ってからもずっと、殺刹峰にいる。俺も殺刹峰の、操り人形なんだ」
「そうか……」
「……そうだ、コウ。トモミのこと、覚えてるか?」
「トモミ? 楓井巴美のことか?」
「アンタ、記憶力いいなぁ。……そう、そのトモミだ。アイツも、殺刹峰の兵士になった」
「なんと。では、巴美も記憶を消されて?」
「ああ。しかも彼女、『プリズム』に選ばれた。今はモエと言う名前を与えられて、全然別の人間として存在している」
晴奈はそれを聞き、椅子をガタッと揺らして立ち上がった。
「何だと……!?」
「ど、どしたんだよ、コウ」
(ジュリア班が出会ったのは確か、モエ・フジタと言う女だったと聞いた。そしてその顔には、傷があったと……。
まさかそれが、巴美だと言うのか……!?)
晴奈の様子を見て、カモフはこんなことを言った。
「はは……。アンタもつくづく、殺刹峰と縁があるなぁ」
@au_ringさんをフォロー
敵の苦悩。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「うーん……」
モールがフェリオの左腕を見てうなっている。
「私の術だけじゃ、完治しないか」
「みたいっスね。……また手、取れたりするんスか?」
モールが使った癒しの術によって完治したはずの左腕に、真っ青な手形が浮き出ている。紛れも無く、ネイビーの毒である。
「取れるどころか、ほっといたら死んじゃうかも知れないね」
「げ……」
モールは指折りながら計算し、予想を伝える。
「でも、最初の毒とは違うタイプかも」
「そうなんスか?」
「こっちは多分、ゆるやかに全身を蝕んでいくタイプ。手ぇ落とされてガックリ来たところに、二番目の毒で苦しんで死亡。えげつないにも程があるね。
2日でそんだけ広がってるから、このペースで行くと数週間後にはその毒、全身に回るかも」
「マジっスか……」
「ともかく、だ。デカ目猫君はココで安静にしてなきゃダメだね。変に動き回ったらそれだけ、毒が早く回ってくる」
「……そうっスか」
フェリオはガックリとうなだれ、自分の腕をさすった。
イーストフィールドに向かう直前になって、フェリオが体の異変を訴えてきた。モールの診察により、彼はクロスセントラルで待機することになった。
「向こうのアジトに行けば、解毒剤も手に入るかも知れないからな。ここでカモフ見張りながら安静にしてろよ」
「了解っス」
意気消沈した顔で敬礼したフェリオを見て、シリンが手を挙げた。
「はいはいはーい。ウチもこっちに残りまーす」
「はぁ!? 何寝ぼけたこと言って……」「いいえ、バートさん」
却下しようとしたバートをさえぎり、フォルナが口を開く。
「シリンはこちらに残った方がよろしいでしょう」
「何でだよ?」
「考えてみなさい、バート」
ジュリアもフォルナの意見に同意する。
「敵がカモフを奪還しようと、ここに攻め入ってくる可能性もあるでしょう? そんな時に半病人のフェリオ君だけじゃ、心許ないわ」
「……そっか。言われりゃ、確かにな」
「ほな、そーゆーコトでよろしゅー」
嬉しそうにニコニコしているシリンを見て、バートはやれやれと言う感じでうなずいた。
「ま、しゃーねーか。……っと、そう言やセイナは?」
「バート班の部屋にいらっしゃいますわ。カモフ氏と話がしたいそうなので」
晴奈は椅子に縛り付けられ、布袋をかぶったカモフと二人きりで向かい合っていた。
カモフから「自分の扁平な顔は誰にも見られたくない」と懇願されたので、布袋に目出し用の穴を開け、それを彼にかぶせてあるのだ。
「俺に何を聞きたいんだ?」
「篠原一派のことだ。お前はあの時ロウ……、ウィルバーに倒され、あのまま焼け死んだものと思っていたが」
「ああ、何とか生きてた。で、その後来てくれたオッドさんとモノさんに助けてもらって、そのままアジトから脱出したんだ」
「なるほど。……と言うことは、行方不明になっていた篠原一派の者たちは、お前たちが?」
カモフはうつむきながら、その後のことを語った。
「ああ。俺たちが運び出して洗脳し、半分は売った」
「半分? 残りは?」
「殺刹峰の兵士になってる。洗脳で記憶を消し、無意識的に従うように暗示をかけてあるんだ」
「……反吐が出るな」
晴奈は首を振り、短くうめいた。
「人間を何だと思っているのか!」
「上の奴に取っちゃ、ただの収穫品。ジャガイモや大根みたいなもんさ」
「ふざけたことを……」
「俺もそう思ってるよ。……俺も、記憶が無いんだ」
「何?」
下を向いていたカモフが顔を挙げ、晴奈をじっと見る。
「俺は今24ってことになってるけど、12歳から前の記憶はまったく出てこないんだ。洗脳されたってことには20の時、アンタと戦う1年前に知ったんだ。
でもそれを知って、殺刹峰に憤慨しても、決別しようとしても……」
またカモフの頭が下がる。
「……何も持ってないから、逃げ場も行くところも無いんだ。
結局俺は真相を知ってからもずっと、殺刹峰にいる。俺も殺刹峰の、操り人形なんだ」
「そうか……」
「……そうだ、コウ。トモミのこと、覚えてるか?」
「トモミ? 楓井巴美のことか?」
「アンタ、記憶力いいなぁ。……そう、そのトモミだ。アイツも、殺刹峰の兵士になった」
「なんと。では、巴美も記憶を消されて?」
「ああ。しかも彼女、『プリズム』に選ばれた。今はモエと言う名前を与えられて、全然別の人間として存在している」
晴奈はそれを聞き、椅子をガタッと揺らして立ち上がった。
「何だと……!?」
「ど、どしたんだよ、コウ」
(ジュリア班が出会ったのは確か、モエ・フジタと言う女だったと聞いた。そしてその顔には、傷があったと……。
まさかそれが、巴美だと言うのか……!?)
晴奈の様子を見て、カモフはこんなことを言った。
「はは……。アンタもつくづく、殺刹峰と縁があるなぁ」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
あ~~やはりこの辺はリアリティありますね。
手が取れて、簡単に治ったら苦労がいらないですからね。
その辺が描かれているのが、
ファンタジーの中のリアリティというグッゲンハイムの世界と共通してますね。
手が取れて、簡単に治ったら苦労がいらないですからね。
その辺が描かれているのが、
ファンタジーの中のリアリティというグッゲンハイムの世界と共通してますね。
- #849 LandM(才条 蓮)
- URL
- 2012.05/20 18:10
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
余談ですが、基本的に作中では、
「魔法」と言う言葉は使わず、「魔術」としています。
これはソレが、人間が習得可能な「技術」であり、
決して人間が操ることのできない「法則」ではない、
と言う考えからです。