「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・緑色録 4
晴奈の話、第339話。
気のいい狼兄さん。
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4.
央北の都市、イーストフィールド。神代の昔からあると言われている街だが、その様相は時代によってコロコロと変わっている。
天帝が降臨する前はのどかな放牧地帯だったが、降臨後は天帝の教えを受け、大規模な農業都市になった。天帝が崩御してから数年経つと他地域からの移民でにぎわい、人が集まったことで工業が活発化。そこに央中からの商人たちが目をつけて、大規模な工場を次々建設。ところが黒白戦争の間に起こったいざこざで彼らは一斉に撤退し、工業はあっと言う間に衰退してしまった。
現在のイーストフィールドはそれらの栄枯盛衰が一周し、のどかな酪農都市に戻っている。
その活気のあった頃の名残は、あちこちに残っている。旧市街には何棟もの住居や工場の跡地が連なっており、盛況だった当時はさぞ騒々しかっただろうと思われる。
が、今はただの廃屋であり、不気味な静寂がその場を支配している。怪物が出ると言う噂もあり、街の者は皆近付こうとはしない。となると、こう言った場所には街に住めない犯罪者やごろつき、浮浪者などが集まるのが通例なのだが、そんな者もまったくいない。
なぜなら「彼ら」が自分たちの秘匿性、秘密性を守るために、それらを追い払い、消してしまったからである。
「ふあ、あ……。もうそろそろかな?」
待ちくたびれ、あくび混じりに尋ねてきたレンマに、ジュンは半ばおどおどとしつつ同意した。
「え? あ、そうですね。多分もうすぐ来るんじゃないですか?」
「ジュン、お前昨日も同じこと言ったじゃないか」
レンマはニヤニヤ笑い、ジュンの額を小突く。
「いたっ」
「たまには『そうですね』じゃなくて、違うこと言えよー」
「は、はい。すみません」
と、草色の髪をした狼獣人が、二人のところにやって来る。
「おーい、レンマ。あんまりジュン、いじめたらアカンでぇ」
「いじめてないよ、ヘックス。からかってるんだよ」
「やめとけって。ジュン、困った顔しとるやん」
狼獣人、ヘックスは膝を屈め、ジュンと同じ目線になる。
「ジュン、どや? 緊張しとる?」
「え、は、はい。してます」
「言うたら初陣やもんな、これ。でも心配せんでええで、兄ちゃんがついとるからな」
「はっ、はいっ」
ヘックスはジュンの反応を見て、ニコニコと顔を崩した。
「せや、リラックスやでー」
「ヘックス、あんまりそう言うのはよした方がいいと思うよ」
二人のやり取りを見ていたレンマがケチをつけてくる。
「なんで?」
「ドミニク先生も、『戦場では友人や兄弟、家族と言ったしがらみを抱えていては、弱みに変わる』って言ってたし」
「まあ、そーは言うてはったけどもな」
ヘックスは肩をすくめ、のんきそうに返した。
「オレは家族とか友達、大事にするタイプやねん。それに、いつでもどこでも先生が正しいって限らへんやん」
「何だと!」
ヘックスの言葉が癇に障ったらしく、レンマがヘックスにつかみかかる。
「もう一度言ってみろ、ヘックス!」
「おいおい、ちょい待ちいや。別にオレ、『先生は間違っとる』とか『先生はおかしい』とか言うてへんやろ?
先生の言葉借りるとしたら、『戦況は常に変わる。通常最善とされる策も、時には最悪の手に変わることもある』って、そう言う感じの意味合いで言うたんや。
先生やって聖人君子やあらへんのやし、言うこと言うこと一言一句、ギッチギチに信じとったらアカンと思うで」
「……ッ!」
レンマの顔に、さらに怒りの色が浮かぶ。それを見たヘックスは、「しまったな」と言いたげな表情を浮かべた。
「あー、まあ、人の意見は色々やし、な?」
「ふざけるなッ!」
レンマが怒りに任せ、ヘックスの襟をつかんでいた手に力を込めた。
「……ホンマ、悪いねんけどやー」
次の瞬間、レンマは1メートルほど吹っ飛んだ。
「うげ……っ!?」
どうやらヘックスが突き飛ばしたらしく、ヘックスは両掌を挙げたまま、困ったような顔で諭した。
「レンマよぉ、自分もうちょっと、冷静にならなアカンのちゃうん? 先生のだけやのうて、他の人の話も聞く耳持たんとアカンのちゃうん? それこそ先生やったらそう言うてきはると思うで」
「くそ……」
レンマは腹を押さえ、ヘックスを見上げている。
両者をおろおろと見つめていたジュンに、ヘックスはニコニコと笑いかけた。
「心配せんでええって。こんなん、じゃれ合いや」
「は、はあ……」
と、そこに兵士が現れた。
「失礼します! 公安がイーストフィールド北口3キロのところまで接近しているとの情報が入りました!」
「お、そろそろやな。……ほれ、レンマ。いつまでへたり込んでんねん」
ヘックスは突き飛ばされ、座り込んだままのレンマに手を差し伸べた。
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央北の都市、イーストフィールド。神代の昔からあると言われている街だが、その様相は時代によってコロコロと変わっている。
天帝が降臨する前はのどかな放牧地帯だったが、降臨後は天帝の教えを受け、大規模な農業都市になった。天帝が崩御してから数年経つと他地域からの移民でにぎわい、人が集まったことで工業が活発化。そこに央中からの商人たちが目をつけて、大規模な工場を次々建設。ところが黒白戦争の間に起こったいざこざで彼らは一斉に撤退し、工業はあっと言う間に衰退してしまった。
現在のイーストフィールドはそれらの栄枯盛衰が一周し、のどかな酪農都市に戻っている。
その活気のあった頃の名残は、あちこちに残っている。旧市街には何棟もの住居や工場の跡地が連なっており、盛況だった当時はさぞ騒々しかっただろうと思われる。
が、今はただの廃屋であり、不気味な静寂がその場を支配している。怪物が出ると言う噂もあり、街の者は皆近付こうとはしない。となると、こう言った場所には街に住めない犯罪者やごろつき、浮浪者などが集まるのが通例なのだが、そんな者もまったくいない。
なぜなら「彼ら」が自分たちの秘匿性、秘密性を守るために、それらを追い払い、消してしまったからである。
「ふあ、あ……。もうそろそろかな?」
待ちくたびれ、あくび混じりに尋ねてきたレンマに、ジュンは半ばおどおどとしつつ同意した。
「え? あ、そうですね。多分もうすぐ来るんじゃないですか?」
「ジュン、お前昨日も同じこと言ったじゃないか」
レンマはニヤニヤ笑い、ジュンの額を小突く。
「いたっ」
「たまには『そうですね』じゃなくて、違うこと言えよー」
「は、はい。すみません」
と、草色の髪をした狼獣人が、二人のところにやって来る。
「おーい、レンマ。あんまりジュン、いじめたらアカンでぇ」
「いじめてないよ、ヘックス。からかってるんだよ」
「やめとけって。ジュン、困った顔しとるやん」
狼獣人、ヘックスは膝を屈め、ジュンと同じ目線になる。
「ジュン、どや? 緊張しとる?」
「え、は、はい。してます」
「言うたら初陣やもんな、これ。でも心配せんでええで、兄ちゃんがついとるからな」
「はっ、はいっ」
ヘックスはジュンの反応を見て、ニコニコと顔を崩した。
「せや、リラックスやでー」
「ヘックス、あんまりそう言うのはよした方がいいと思うよ」
二人のやり取りを見ていたレンマがケチをつけてくる。
「なんで?」
「ドミニク先生も、『戦場では友人や兄弟、家族と言ったしがらみを抱えていては、弱みに変わる』って言ってたし」
「まあ、そーは言うてはったけどもな」
ヘックスは肩をすくめ、のんきそうに返した。
「オレは家族とか友達、大事にするタイプやねん。それに、いつでもどこでも先生が正しいって限らへんやん」
「何だと!」
ヘックスの言葉が癇に障ったらしく、レンマがヘックスにつかみかかる。
「もう一度言ってみろ、ヘックス!」
「おいおい、ちょい待ちいや。別にオレ、『先生は間違っとる』とか『先生はおかしい』とか言うてへんやろ?
先生の言葉借りるとしたら、『戦況は常に変わる。通常最善とされる策も、時には最悪の手に変わることもある』って、そう言う感じの意味合いで言うたんや。
先生やって聖人君子やあらへんのやし、言うこと言うこと一言一句、ギッチギチに信じとったらアカンと思うで」
「……ッ!」
レンマの顔に、さらに怒りの色が浮かぶ。それを見たヘックスは、「しまったな」と言いたげな表情を浮かべた。
「あー、まあ、人の意見は色々やし、な?」
「ふざけるなッ!」
レンマが怒りに任せ、ヘックスの襟をつかんでいた手に力を込めた。
「……ホンマ、悪いねんけどやー」
次の瞬間、レンマは1メートルほど吹っ飛んだ。
「うげ……っ!?」
どうやらヘックスが突き飛ばしたらしく、ヘックスは両掌を挙げたまま、困ったような顔で諭した。
「レンマよぉ、自分もうちょっと、冷静にならなアカンのちゃうん? 先生のだけやのうて、他の人の話も聞く耳持たんとアカンのちゃうん? それこそ先生やったらそう言うてきはると思うで」
「くそ……」
レンマは腹を押さえ、ヘックスを見上げている。
両者をおろおろと見つめていたジュンに、ヘックスはニコニコと笑いかけた。
「心配せんでええって。こんなん、じゃれ合いや」
「は、はあ……」
と、そこに兵士が現れた。
「失礼します! 公安がイーストフィールド北口3キロのところまで接近しているとの情報が入りました!」
「お、そろそろやな。……ほれ、レンマ。いつまでへたり込んでんねん」
ヘックスは突き飛ばされ、座り込んだままのレンマに手を差し伸べた。



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