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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・緑色録 5

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    晴奈の話、第340話。
    九尾ホーミング弾。

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    5.
     イーストフィールドに到着した晴奈一行は、そのまま旧市街へと向かっていた。
    「この辺りに、カモフ氏から聞き出した移動法陣があるはずだけど……」
     ジュリアはそれらしい場所が無いか、あちこちを注意深く見渡している。バートも同じように周囲へ注意を向け、ジュリアに耳打ちする。
    「……嫌な気配がするぜ。どうやら待ち構えられてるみたいだ」
    「そうね。みんな、注意して」
     ジュリアがそう言うと同時に、パシュ、と言う音とともに何かが飛んできた。
    「危ないッ!」
     楢崎がいち早く気付き、小鈴を突き飛ばす。
    「つっ……」
     楢崎がうめき、肩を押さえる。そこには矢が突き刺さっていた。
    「瞬二さん!? だ、大丈夫!?」
    「も、問題無いよ。……くっ」
     楢崎は肩から矢を抜き、刀を構えた。
    「襲ってきたぞ! みんな、武器を!」
    「はいっ!」
     各自武器を構え、周囲を警戒する。と、また矢が飛んできた。
    「『ウロボロスポール:リバース』!」
     モールが飛んできた矢に向かって魔杖をかざし、矢を来た方向へと戻した。
    「ぎゃっ!?」
     その方向から、驚いたような悲鳴が返って来る。どうやら射手に当たったらしい。
    「あっちだ!」
    「囲まれる前に破るぞ!」
     晴奈たち一行は声のした方向へ、一斉に駆け出す。もう一本矢が飛んできたが、これも先程と同様にモールが跳ね返した。
    「うっ……」
     また敵のうめく声が返ってくる。
     それを聞いて、晴奈は「ふむ?」とうなった。
    「あれだけ硬い敵だったと言うのに、攻撃が効いているようだな」
    「敵の攻撃をそのまま跳ね返してるからじゃないかしら?」
     ジュリアの推察に、バートが付け加える。
    「それにもしかしたら、薬だの術だのも弱めになってるのかも知れねーな。前回効かせ過ぎて自爆したっぽいし」
    「なるほど。……ならば、前よりは倒しやすそうだな」
    「私もいるんだ。十二分にサポートしてやるね」
     ニヤリと笑うモールに、晴奈は振り向かずに応えた。
    「頼んだ、モール殿」

     ジュリアたちの推察は、概ね当たっていた。
     前回起こった、肉体の限界を超える負荷・負担による自滅を防ぐため、敵は最初に晴奈たちを襲った時よりも若干、投薬量と魔術強化を抑えていた。それでも一般的な兵士よりはるかに身体能力は高くなってはいるが、前回のような並外れた頑丈さは発揮できない。
     とは言え「前回よりもダメージが残りやすい」と言う状況は、敵兵にそれなりの緊張感を与えており、敵は慎重に動いていた。
     彼らは晴奈の目の前に堂々と現れるようなことはせず、廃屋の物陰に隠れて魔術や弓矢、銃と言った遠距離攻撃を仕掛けてくる。
    「いってぇ!」
     バートの狐耳を銃弾がかすめる。
    「もう少しずれてたら頭やられてたな。いい腕してやがる」
     地面に落ちた帽子を拾ってかぶり直し、弾が飛んできた方向へ銃を向けて撃ち返す。
    「……」
     また矢が飛んでくる。今度は小鈴が魔術で防ぎ、土の術で応戦する。
    「……いらっ」
     敵の姿が一向に目視できないまま、晴奈一行へ向けられる攻撃は、じわじわと勢いを増していく。
    「……いらいら」
     と、モールの横にいたフォルナが、モールの苛立った気配に気付いた。
    「モールさん?」
    「……あーッ! うざーッ! みんなしゃがめッ、一掃するね!」
     モールは魔杖を振り上げ、怒りの混じった声で呪文を唱えた。
    「『フォックスアロー』!」
     唱え終わると同時に魔杖が紫色に光り、9条の光線が放射状に飛んでいった。
    「うわっ!?」「ぎゃっ!」「わああっ!」
     潜んでいた敵が一斉に叫び声を上げ、静かになる。それでもまだ残っているらしく、矢がもう一本飛んできた。
    「しつこいッ! もういっちょ!」
     モールはもう一度杖を掲げ、光線を飛ばす。
    「念のためもう一回!」
     合計27条の光線が辺り一帯に飛んで行き、敵は完全に沈黙した。
    「な、何、今の?」
     小鈴が目を丸くして驚いている。
    「火? いや、雷か? 何系の術だったんだ? あんなの見たことねえ……」
     バートも呆然としている。モールは魔杖を下ろし、深呼吸した。
    「はー……。すっきりした」
    「モールさん? ……私たちの援護が、本当に必要なの?」
     ジュリアも憮然とした顔で、眼鏡を直していた。



    「報告します!」
     移動法陣前に陣取っていたヘックス、レンマ、ジュンのところに、伝令が慌てた様子で現れた。
    「どしたん?」
    「包囲部隊、全滅しました!」
     青ざめた顔で報告した伝令に、のんきに座り込んでいたヘックスは目を丸くして飛び上がった。
    「はぁ!? 2部隊で囲んどったはずやで!? ありえんやろ、そんなん!?」
    「それが、敵の術で一気に……。どうやら敵の中に、『旅の賢者』がいる模様です」
     それを聞いたレンマも立ち上がる。
    「モール・リッチが!? そう言えば、ミューズさんがモールを追っていて撃退されたって聞いたけど、まさか公安と合流してたのか?」
    「な、何ででしょう?」
     ジュンがおろおろした顔でヘックスに尋ねたが、ヘックスも首をかしげるばかりである。
    「分からへんけど、そんだけ強いヤツがおるんやったら、のんきに構えてる場合ちゃうわ。真面目にやらんとな」
     ヘックスは緊張した面持ちになり、壁に立てかけていた長槍を手に取った。

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    2016.08.04 修正
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