「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・緑色録 6
晴奈の話、第341話。
対魔術物質。
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6.
モールの術で一掃され、襲ってくる敵の姿はまったくいなくなった。
一行は廃屋の陰に回り、脚を光線に撃たれたらしい兵士が倒れているのを確認する。
「おい」
「う……」
晴奈が敵の側に立ち、その脚を踏みつける。
「ぎゃっ」
「教えてもらおうか。移動法陣はどこだ?」
「お、教えるもん……、うああああ」
晴奈は足に力を入れ、きつく踏み込む。
「素直に教えれば介抱してやる。が、言わぬと言うのならばもっと痛めつけるぞ」
ここで力を抜き、兵士から足をどける。
「ひーっ、ひーっ……」
「教えるか? それとも……」
「い、言います言います! ここから東にまっすぐ700メートル辺りのところです!」
「よし」
兵士を治療し、縛り上げて、晴奈たちは東へ進む。
「あれかな?」
一行の先に、周りの廃屋に比べて一際大きい廃工場が目に入ってくる。蔦だらけになった工場の壁には、黄色と赤で彩られ「G」字形に丸まった狐の紋章が、うっすら残っている。
「金火狐マーク、ね。財団が昔所有していた工場かしら」
「恐らくニコル3世時代以前に作られた軍事工場だな。ここら辺に建ってたって話は、どこかで聞いたことがある」
警戒しつつ、一行は工場内に入る。中にあった作業機器や原料、資材の類はとっくに原形を留めておらず、広間になっていた。
「これだけ広けりゃ、バカでかい移動法陣も楽に描けるだろうね」
「ふむ。……ざっと見た限りでは、1階には無さそうだ」
一通り見回り、一行が2階へ上がろうとしたその時だった。
「セイナさーん!」
2階へと続く階段から、レンマが駆け下りてきた。
「……う」
晴奈はレンマの姿を確認した途端、ざっと後ろへ下がった。
「何で逃げるんですかぁ」
「敵が向かってくるのだ。警戒するのが当然と言うものだろう」
晴奈は下がりつつ、刀を構える。
「つれないなぁ。……ねえ、仲間になりましょうよー」
レンマが近寄ろうとしたところで、バート、ジュリア、楢崎が武器を構えた。
「なるわけねーだろ、バカ」
「それ以上近付けば、容赦なく撃つわよ」
「大人しくしろ」
途端にレンマは不機嫌そうな顔になり、杖を向ける。
「邪魔しないでくださいよ。それとも、あなたたちも仲間に?」
「話が聞けねーのか、そのちっちゃい耳はよ? ならねーっつってんだろうが」
そのまま対峙していたところにもう二人、階段を下りてくる者が現れる。
それと同時に、工場の入口や崩れた壁などからも、敵の兵士が進入してくる。
「レンマ、その辺でええで」
「ああ。包囲完了だな」
レンマはすっと後退し、やってきた二人――ヘックスとジュンの側に向かう。楢崎は前後を見渡し、ふーっとため息をついた。
「ふむ。敵は11人、こちらは7人。数の上では少々厳しいかな」
「フン。後ろは雑魚だから、私の術で一掃してやるね。それよりもだ、問題は前の3人だね。あいつらは桁違いに強い」
そう言われ、楢崎は前の敵3名に目を向ける。
「ふむ。あの緑髪の『狼』は確かに強そうだ。それにさっき黄くんに声をかけていた魔術師も、強いと聞いている。……でも、あの黄色い服の子もかい?」
「ココにいるんだ。強くないワケが無いね。……それにもう、攻撃準備は整ってる」
モールがそう言うと同時に、その黄色い服の少年は杖を掲げた。
「『サンダースピア』!」
ジュンの目の前に電気の槍が形成され、モールに向かって飛んでくる。
「甘いっ、『フォックスアロー』!」
先程と同様の、9本の紫色に光る矢がモールの魔杖から発射され、8本は背後の兵士たちに、残り1本はジュンの放った槍とぶつかり合い、相殺される。
「……りゃ?」
ところが先程と違い、兵士たちにダメージを受けた気配は無い。皆、ほんのり青みを帯びて光る銀色の盾を構えており、モールの矢はそれに阻まれたらしい。
「あの盾は?」
その盾をいぶかしげに見つめるジュリアに、バートが答える。
「ありゃ、ミスリル化銀ってヤツじゃねーか?」
「ミスリル?」
「魔術対策に良く使われる、魔力を帯びた金属の総称だ。加工次第で魔術の威力を増幅させる武器にも、逆に魔術を通さない防具にもなるらしい。
レアメタルだし精錬や加工も難しいって話だから、滅多に出回らないって聞いてるが……」
「全員持ってるわね。対策は万全、と言うことかしら」
モールがため息をつき、ジュリアに向き直った。
「ま、アレがさっき君が聞いてきたコトの答えさ。
あーゆーの用意されたら、私だけじゃ対抗できないんだ。でも、あの手の防具は直接攻撃には弱い。矢が貫通するくらいだしね。
だから、戦士タイプのヤツと一緒に来たかったんだよね」
そう言ってモールは、晴奈の方に目を向けた。
ところが既に、晴奈はヘックスと戦っている最中である。
「……あちゃー、あっちはアテにできないか。んじゃ頼んだ、筋肉」
「え? 筋肉って……、僕かい?」
ぞんざいに呼ばれ、楢崎は多少憮然としたが、素直に刀を構え、兵士たちに向き直った。
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対魔術物質。
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モールの術で一掃され、襲ってくる敵の姿はまったくいなくなった。
一行は廃屋の陰に回り、脚を光線に撃たれたらしい兵士が倒れているのを確認する。
「おい」
「う……」
晴奈が敵の側に立ち、その脚を踏みつける。
「ぎゃっ」
「教えてもらおうか。移動法陣はどこだ?」
「お、教えるもん……、うああああ」
晴奈は足に力を入れ、きつく踏み込む。
「素直に教えれば介抱してやる。が、言わぬと言うのならばもっと痛めつけるぞ」
ここで力を抜き、兵士から足をどける。
「ひーっ、ひーっ……」
「教えるか? それとも……」
「い、言います言います! ここから東にまっすぐ700メートル辺りのところです!」
「よし」
兵士を治療し、縛り上げて、晴奈たちは東へ進む。
「あれかな?」
一行の先に、周りの廃屋に比べて一際大きい廃工場が目に入ってくる。蔦だらけになった工場の壁には、黄色と赤で彩られ「G」字形に丸まった狐の紋章が、うっすら残っている。
「金火狐マーク、ね。財団が昔所有していた工場かしら」
「恐らくニコル3世時代以前に作られた軍事工場だな。ここら辺に建ってたって話は、どこかで聞いたことがある」
警戒しつつ、一行は工場内に入る。中にあった作業機器や原料、資材の類はとっくに原形を留めておらず、広間になっていた。
「これだけ広けりゃ、バカでかい移動法陣も楽に描けるだろうね」
「ふむ。……ざっと見た限りでは、1階には無さそうだ」
一通り見回り、一行が2階へ上がろうとしたその時だった。
「セイナさーん!」
2階へと続く階段から、レンマが駆け下りてきた。
「……う」
晴奈はレンマの姿を確認した途端、ざっと後ろへ下がった。
「何で逃げるんですかぁ」
「敵が向かってくるのだ。警戒するのが当然と言うものだろう」
晴奈は下がりつつ、刀を構える。
「つれないなぁ。……ねえ、仲間になりましょうよー」
レンマが近寄ろうとしたところで、バート、ジュリア、楢崎が武器を構えた。
「なるわけねーだろ、バカ」
「それ以上近付けば、容赦なく撃つわよ」
「大人しくしろ」
途端にレンマは不機嫌そうな顔になり、杖を向ける。
「邪魔しないでくださいよ。それとも、あなたたちも仲間に?」
「話が聞けねーのか、そのちっちゃい耳はよ? ならねーっつってんだろうが」
そのまま対峙していたところにもう二人、階段を下りてくる者が現れる。
それと同時に、工場の入口や崩れた壁などからも、敵の兵士が進入してくる。
「レンマ、その辺でええで」
「ああ。包囲完了だな」
レンマはすっと後退し、やってきた二人――ヘックスとジュンの側に向かう。楢崎は前後を見渡し、ふーっとため息をついた。
「ふむ。敵は11人、こちらは7人。数の上では少々厳しいかな」
「フン。後ろは雑魚だから、私の術で一掃してやるね。それよりもだ、問題は前の3人だね。あいつらは桁違いに強い」
そう言われ、楢崎は前の敵3名に目を向ける。
「ふむ。あの緑髪の『狼』は確かに強そうだ。それにさっき黄くんに声をかけていた魔術師も、強いと聞いている。……でも、あの黄色い服の子もかい?」
「ココにいるんだ。強くないワケが無いね。……それにもう、攻撃準備は整ってる」
モールがそう言うと同時に、その黄色い服の少年は杖を掲げた。
「『サンダースピア』!」
ジュンの目の前に電気の槍が形成され、モールに向かって飛んでくる。
「甘いっ、『フォックスアロー』!」
先程と同様の、9本の紫色に光る矢がモールの魔杖から発射され、8本は背後の兵士たちに、残り1本はジュンの放った槍とぶつかり合い、相殺される。
「……りゃ?」
ところが先程と違い、兵士たちにダメージを受けた気配は無い。皆、ほんのり青みを帯びて光る銀色の盾を構えており、モールの矢はそれに阻まれたらしい。
「あの盾は?」
その盾をいぶかしげに見つめるジュリアに、バートが答える。
「ありゃ、ミスリル化銀ってヤツじゃねーか?」
「ミスリル?」
「魔術対策に良く使われる、魔力を帯びた金属の総称だ。加工次第で魔術の威力を増幅させる武器にも、逆に魔術を通さない防具にもなるらしい。
レアメタルだし精錬や加工も難しいって話だから、滅多に出回らないって聞いてるが……」
「全員持ってるわね。対策は万全、と言うことかしら」
モールがため息をつき、ジュリアに向き直った。
「ま、アレがさっき君が聞いてきたコトの答えさ。
あーゆーの用意されたら、私だけじゃ対抗できないんだ。でも、あの手の防具は直接攻撃には弱い。矢が貫通するくらいだしね。
だから、戦士タイプのヤツと一緒に来たかったんだよね」
そう言ってモールは、晴奈の方に目を向けた。
ところが既に、晴奈はヘックスと戦っている最中である。
「……あちゃー、あっちはアテにできないか。んじゃ頼んだ、筋肉」
「え? 筋肉って……、僕かい?」
ぞんざいに呼ばれ、楢崎は多少憮然としたが、素直に刀を構え、兵士たちに向き直った。



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双月千年世界 3;白猫夢

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今日の旅岡さん

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おおう、楢崎さんが筋肉と呼ばれている・・・。
渋いキャラクターで私個人的には好きなんですけどねえ・・・。
まあ、グッゲンハイムで仮に登場させる場合はナイスミドルで!!
・・・・いつの話になるか。
分からないですけど。
進行が遅いですからね・・・。
渋いキャラクターで私個人的には好きなんですけどねえ・・・。
まあ、グッゲンハイムで仮に登場させる場合はナイスミドルで!!
・・・・いつの話になるか。
分からないですけど。
進行が遅いですからね・・・。
- #867 LandM
- URL
- 2012.05/25 07:48
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