「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・緑色録 7
晴奈の話、第342話。
当惑する敵。
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7.
晴奈とヘックスは、激しい火花を散らして打ち合っている。
「このッ!」
「せいやッ!」
ヘックスも相当の達人らしく、晴奈は一向にダメージを与えられない。
とは言え晴奈も、今のところは一太刀も受けていない。
「流石に腕が立つ……!」
「アンタも相当やな。……名前、何て言うたっけ」
「晴奈だ。セイナ・コウ」
「オレはヘックス・シグマや。……ええなぁ、ワクワクしてきたわ!」
ヘックスは後ろへ一歩飛びのき、槍を構え直した。
「いっちょ本気見せたる――食らえッ!」
ヘックスの体全体が大きくうねり、槍がゴウゴウとうなりをあげて向かってきた。
「くッ!」
晴奈は槍が迫るよりも一瞬早く動き、水平に薙いだ槍を真上に跳んでかわした。
「……?」
その時、晴奈は何か嫌な予感を覚え、空中に跳んだままで刀を正面に構える。
次の瞬間、自分の真下にあったはずの槍に、刀ごと引っぱたかれた。
「な……!?」
工場の壁へ叩きつけられそうになったが、くるりと体勢を整え直して壁に張り付き、激突を避ける。
「コレも見切りよるんか、コウ。すごいなぁ、自分」
ヘックスは槍を構えたまま、驚きに満ちた目で晴奈を見つめている。
「今のは何だ? 私は確かに、槍を上にかわしたはずだったが」
晴奈が壁からすとんと床に降り立ち、刀を構え直しながらそう尋ねると、ヘックスは得意満面にこう返した。
「オレらの師匠、ドミニク先生の秘伝、『三連閃』や。
後ろにかわされたせいで三つ目は届かへんかったけど、決まっとったらバッサリいってたで」
「なるほど。私が一太刀目を避けた時、既に二太刀目、三太刀目を避けた先へと放っていた、と言うことか。
……しかし」
晴奈は刀を構えたまま、ヘックスと話をする。
「私の友人にもいるのだが、お前は妙な話し方をするな? もしかして央中東部の出身か?」
「へ?」
ヘックスはきょとんとし、続いて困った顔をした。
「えーと、うーん……。悪い、よー分からへん」
「何?」
「オレ、14から前の記憶無いねん。14の時、ドミニク先生に拾ってもろたんやけど、その前のことはさっぱり……」
「ふむ。お前も記憶を奪われた口か」
「……は?」
晴奈の言葉に、ヘックスはけげんな顔をして槍を下げた。
「ちょ、ちょっと!? ヘックスさん!?」
横で二人の戦いを見ていたジュンが慌てて声をかけるが、ヘックスは応じない。
「どう言う意味や、コウ?」
「捕虜から聞いた話だが、お前たちは皆、中央大陸各地から誘拐され、記憶を消された上で、兵士となっているのだそうだ。その、ドミニクと言う男によってな」
「何やと……」
ヘックスもジュンも、信じられないと言う顔をする。
「捕虜て、カモフさんか?」
「そうだ。奴も記憶を奪われたと言っていた」
「そんな……」
ヘックスもジュンも唖然とするが、ヘックスは慌てて首を振る。
「……ウソや! オレらを惑わせて、勝ち抜けようと思てんやろ!? だまされへんで!」
「嘘ではない」
「もうええ、話はしまいや!」
ヘックスは槍を構え直し、晴奈に襲い掛かる。だが、晴奈の話に少なからず動揺しているらしく、その動きにはキレが無い。
先程より大きくブレたヘックスの攻撃をかわし、晴奈は刀に火を灯す。
「『火射』ッ!」
「飛ぶ剣閃」がヘックスの槍を捉え、その柄を焼き切った。
「しま……っ」
晴奈の刀がヘックスの喉元に当てられ、ヘックスの顔にあきらめの色が浮かぶ。
だが――晴奈もこの時、ヘックス以外への警戒を怠っており、ジュンからの攻撃を見落としていた。
「『サンダーボルト』!」
「う……っ!」
ジュンの放った電撃が晴奈に当たり、彼女を弾き飛ばす。
その隙に、ジュンはヘックスの側に駆け寄り、袖を引っ張る。
「ヘックスさん! 退却しましょう!」
「は……?」
「僕にはコウさんの言葉が、嘘とは思えないんです」
「アホ言うな、先生はオレらを助けて……」
言いかけたヘックスの顔に、迷いの色が浮かぶ。
「……せやな、槍も折られたし。みんなダメージ濃くなってきたし、頃合かも知れへん」
その間に、電撃で間合いから遠く弾かれていた晴奈が起き上がる。
「う、く……」
よろよろとした足取りながらも、自分たちに迫ってくる晴奈を見て、ヘックスは折れた槍を捨てて、踵を返す。
「レンマ! 退却……」
ヘックスはレンマのいた方向を向き、舌打ちする。
「……くそ」
いつの間にかレンマは縛られており、その顔は憔悴しきっている。
その横には小鈴とフォルナが、得意げに佇んでいた。
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当惑する敵。
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7.
晴奈とヘックスは、激しい火花を散らして打ち合っている。
「このッ!」
「せいやッ!」
ヘックスも相当の達人らしく、晴奈は一向にダメージを与えられない。
とは言え晴奈も、今のところは一太刀も受けていない。
「流石に腕が立つ……!」
「アンタも相当やな。……名前、何て言うたっけ」
「晴奈だ。セイナ・コウ」
「オレはヘックス・シグマや。……ええなぁ、ワクワクしてきたわ!」
ヘックスは後ろへ一歩飛びのき、槍を構え直した。
「いっちょ本気見せたる――食らえッ!」
ヘックスの体全体が大きくうねり、槍がゴウゴウとうなりをあげて向かってきた。
「くッ!」
晴奈は槍が迫るよりも一瞬早く動き、水平に薙いだ槍を真上に跳んでかわした。
「……?」
その時、晴奈は何か嫌な予感を覚え、空中に跳んだままで刀を正面に構える。
次の瞬間、自分の真下にあったはずの槍に、刀ごと引っぱたかれた。
「な……!?」
工場の壁へ叩きつけられそうになったが、くるりと体勢を整え直して壁に張り付き、激突を避ける。
「コレも見切りよるんか、コウ。すごいなぁ、自分」
ヘックスは槍を構えたまま、驚きに満ちた目で晴奈を見つめている。
「今のは何だ? 私は確かに、槍を上にかわしたはずだったが」
晴奈が壁からすとんと床に降り立ち、刀を構え直しながらそう尋ねると、ヘックスは得意満面にこう返した。
「オレらの師匠、ドミニク先生の秘伝、『三連閃』や。
後ろにかわされたせいで三つ目は届かへんかったけど、決まっとったらバッサリいってたで」
「なるほど。私が一太刀目を避けた時、既に二太刀目、三太刀目を避けた先へと放っていた、と言うことか。
……しかし」
晴奈は刀を構えたまま、ヘックスと話をする。
「私の友人にもいるのだが、お前は妙な話し方をするな? もしかして央中東部の出身か?」
「へ?」
ヘックスはきょとんとし、続いて困った顔をした。
「えーと、うーん……。悪い、よー分からへん」
「何?」
「オレ、14から前の記憶無いねん。14の時、ドミニク先生に拾ってもろたんやけど、その前のことはさっぱり……」
「ふむ。お前も記憶を奪われた口か」
「……は?」
晴奈の言葉に、ヘックスはけげんな顔をして槍を下げた。
「ちょ、ちょっと!? ヘックスさん!?」
横で二人の戦いを見ていたジュンが慌てて声をかけるが、ヘックスは応じない。
「どう言う意味や、コウ?」
「捕虜から聞いた話だが、お前たちは皆、中央大陸各地から誘拐され、記憶を消された上で、兵士となっているのだそうだ。その、ドミニクと言う男によってな」
「何やと……」
ヘックスもジュンも、信じられないと言う顔をする。
「捕虜て、カモフさんか?」
「そうだ。奴も記憶を奪われたと言っていた」
「そんな……」
ヘックスもジュンも唖然とするが、ヘックスは慌てて首を振る。
「……ウソや! オレらを惑わせて、勝ち抜けようと思てんやろ!? だまされへんで!」
「嘘ではない」
「もうええ、話はしまいや!」
ヘックスは槍を構え直し、晴奈に襲い掛かる。だが、晴奈の話に少なからず動揺しているらしく、その動きにはキレが無い。
先程より大きくブレたヘックスの攻撃をかわし、晴奈は刀に火を灯す。
「『火射』ッ!」
「飛ぶ剣閃」がヘックスの槍を捉え、その柄を焼き切った。
「しま……っ」
晴奈の刀がヘックスの喉元に当てられ、ヘックスの顔にあきらめの色が浮かぶ。
だが――晴奈もこの時、ヘックス以外への警戒を怠っており、ジュンからの攻撃を見落としていた。
「『サンダーボルト』!」
「う……っ!」
ジュンの放った電撃が晴奈に当たり、彼女を弾き飛ばす。
その隙に、ジュンはヘックスの側に駆け寄り、袖を引っ張る。
「ヘックスさん! 退却しましょう!」
「は……?」
「僕にはコウさんの言葉が、嘘とは思えないんです」
「アホ言うな、先生はオレらを助けて……」
言いかけたヘックスの顔に、迷いの色が浮かぶ。
「……せやな、槍も折られたし。みんなダメージ濃くなってきたし、頃合かも知れへん」
その間に、電撃で間合いから遠く弾かれていた晴奈が起き上がる。
「う、く……」
よろよろとした足取りながらも、自分たちに迫ってくる晴奈を見て、ヘックスは折れた槍を捨てて、踵を返す。
「レンマ! 退却……」
ヘックスはレンマのいた方向を向き、舌打ちする。
「……くそ」
いつの間にかレンマは縛られており、その顔は憔悴しきっている。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
三連閃とか何気にカッコよい必殺技の名前ですよね。
そういうのが作れるのが羨ましいですね。
私はなかなかネーミングセンスがないですからね。。。。
そういうのが作れるのが羨ましいですね。
私はなかなかネーミングセンスがないですからね。。。。
- #897 LandM〔才条 蓮)
- URL
- 2012.06/01 17:36
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NoTitle
自分も子供の頃は物に対してそのまんまの名前しか付けられませんでしたが、
今は「いつかこの名前が使えたらいいなぁ」というストックが一杯あります。
あとは偶然の産物ですね。誤変換とか。