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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・緑色録 8

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    晴奈の話、第343話。
    痛み分け。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     楢崎、バート、ジュリア、モールの4人が兵士を蹴散らし、晴奈とヘックスが打ち合っていたちょうどその頃、小鈴とフォルナもレンマと戦っていた。
    「『ハルバードウイング』!」「『ホールドピラー』!」
     だが、風の魔術は土の魔術に対して相性が悪い。風使いのレンマは、土を得意とする小鈴とフォルナに苦戦していた。
     レンマの放った風の槍は、まずフォルナの作った石柱に阻まれて威力を削がれる。ただの強風になったところで、小鈴が土の槍を作って応戦する。
    「『グレイブファング』!」
     実体ある槍に対して、風の術では防ぐことも流すこともできない。
    「うわっ!」
     レンマはバタバタと転げ回り、小鈴の槍をかわす。
    「ハァ、ハァ……」「『ストーンボール』!」
     避けたところで、今度はフォルナが攻撃する。
    「ひえっ……」
     レンマは飛翔術「エアリアル」で上空に飛んでかわそうとしたが、ここは広いとは言え建物の中である。
     すぐ目の前に天井が迫り、焦っていたレンマはぶつかってしまう。
    「ぎゃっ!?」
     顔面から衝突し、バランスを失ったところで小鈴の第二撃が来る。
    「『ホールドピラー』!」
     地面からにょきにょきと生える石柱が、レンマの体を絡め取る。
    「く……、くそッ! 『ブレイズウォール』!」
     風の術では分が悪いと悟ったらしく、レンマは火の術を使い始めた。
     が、それも状況にそぐわず、レンマの足をガッチリとつかんでいた石柱は急速に熱され、バンと破裂音を立てて弾ける。
    「いた、たたた……、うぅ」
     破裂の衝撃で足を痛めたらしく、レンマは床にべちゃりと張り付くようにして倒れる。
    「くそ……、何でこんなに苦戦するんだ!?
     僕は、僕は『プリズム』の、レンマ・アメミヤだぞ……!」
     倒れ伏し、わめくレンマを見下ろし、小鈴はにんまりと笑った。
    「んふふ、相手が悪かったわね」

     楢崎たちも、兵士たちと応戦していた。
     兵士たちは魔術対策としてミスリル化合物製の盾を装備していたが、その純度は低く、主成分は柔らかい銀である。物理的な攻撃には弱く、ジュリアたちの弾丸や楢崎の腕力には耐えられなかった。
     一方、兵士自体は薬品や術によって強化されており、物理攻撃には十分に耐えられる。しかしそれに対してはモールの術が真価を発揮し、次々撃破していく。
     モールと楢崎たちの長所を活かし合った連携が功を奏し、小鈴たちがレンマを下したのとほぼ同じ頃に、楢崎たちも敵を制圧し終えていた。
     その状況を見て、ヘックスがうめく。
    「こらアカンわ……、プラン09や」
    「え……」
    「悔しいけど……、みんな助けてられる余裕、無い」
     ヘックスはそう言うなり、ジュンのベルトをつかんで2階への階段を走り始めた。
    「あ、待て! 『フォックスアロー』!」
     モールがヘックスに向かって魔術の矢を放つ。ヘックスに抱えられていたジュンが何発か弾くが、それでも1、2発命中し、ヘックスは短くうなる。
    「う、ぐう……っ」
     だが、ダメージを受けながらもヘックスは走り切り、そのまま2階へ駆け上がった。
    「りゃーッ!」
     ヘックスはまるでタックルでもするかのように、2階の床全体に描かれていた移動法陣に滑り込んだ。

    「ダメだね、反応しない。向こう側を消されたみたいだね」
     モールは足でペチペチと床を踏み叩き、移動法陣を指し示した。
    「こちらからつなぐことはできないの?」
     ジュリアの質問に、モールは馬鹿にしたような顔をしながら答える。
    「何言ってんの、赤毛眼鏡。
     向こう側から縄を切られた橋を、こっちがどうこうできるワケないじゃないね」
    「なるほど……」
     ジュリアががっかりした表情を浮かべている向こうでは、晴奈が頭をかきながら、床に座り込んでいる。
    「つまり、潜入失敗か」
    「そうなるな。くそ……」
     側にいたバートがいらだたしげな顔で煙草をくわえ、火を点けた。



    「……そうか。兵士13名が負傷し、そして残り11名とレンマ君も敵の手に落ちた、と」
     ヘックスとジュンからの報告を受けたモノはそれだけ言うと、机に視線を落とし黙り込んだ。
    「その、すんません……」
    「……」
     申し訳無さそうにするヘックスたちを前に、モノはじっと机を見たまま考え込む。
    「オレがヘタクソな指揮してしもたせいで……」
     謝るヘックスに、ジュンも頭を下げる。
    「い、いえ! 僕も、何もできなくて、その……」
    「ええんやジュン、お前は何も言わんで。あそこの責任者はオレやったんやから」
    「ヘックスさん……」
     二人のやり取りが続く中、ようやくモノが口を開いた。
    「いや、部隊編成を行ったのはこの私だ。これで十分と考えて、たった3部隊で撃退しようと甘く見ていた。その結果が、この体たらくだ。
     この大敗の責任は、私にある」
    「え……」「いや、そんな」
    「二人とも、もう下がっていい。ご苦労だった」
     モノはそれ以上何も言わず、あごに手を当てて黙り込んでしまった。
     重苦しい雰囲気のため、ヘックスもジュンも、晴奈から聞かされたこと――「モノが世界各地から誘拐により人員を集め、洗脳している」と言う話の真偽を、モノに確かめることはできなかった。

    蒼天剣・緑色録 終

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    2016.08.04 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    主人公の思い通りに万事が進むような物語は、ただのご都合主義の演劇ですね。

    NoTitle 

    勝つも負けるも常ですけどね。
    あの織田信長も「是非もなし」が口癖で、伊勢神宮に行ってお参りしていましたからね。自分が最強と思っている人でも願掛けや仕方ないと思うことがあるのは間違いないですね。
    • #942 LandM(才条 蓮) 
    • URL 
    • 2012.06/10 12:50 
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