「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・黄色録 1
晴奈の話、第344話。
魔術電話。
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1.
イーストフィールドでの戦いで捕虜の数が増えたため、ジュリアとバートは本国、ゴールドコーストの金火狐財団と連絡を取り、央北のどこかに収容できないかどうか相談していた。
「……そうです、……はい、……ええ」
ジュリアたちの真剣な様子とは裏腹に、その相談の仕草はどこかユーモラスにも見える。
「何と言うか……、珍妙な」
「仕方無いじゃん、あーやんないと話せないんだから」
二人は通信用の魔法陣が描かれた布を頭に巻きつけ、揃って独り言のように虚空を見つめながら、ぶつぶつとしゃべっている。
その状態が5分ほど続いたところで、どうやら話がまとまったらしい。バートたちは布を頭からほどき、晴奈たちに向き直った。
「ここから西南西のサウストレードから、財団の央北支部が迎えに来てくれることになった。それまで俺たちは、この街で捕虜を拘束することになった」
「分かった。じゃあ迎えに来るまでの間、彼らはどこに閉じ込めておけばいい?」
楢崎の質問に、ジュリアが答える。
「この廃工場しか無いでしょうね。街中じゃ目立ちすぎるし」
「なるほど」
楢崎がうなずいたところで、バートが背伸びする。
「しばらくはここで寝泊りだな。……すきま風入ってくるし、風邪引きそうだ」
「気を付けてよ、バート」
「へいへい」
一方、1階では拘束した敵たちが、各個に縛られて座っている。
勿論、全員の装備を解除した上、小鈴とモールが魔術封じ「シール」を施した後であり、唯一現場に置いて行かれた指揮官レンマも、きっちり無力化されていた。
「……」
レンマは敗北したことが相当ショックだったらしく、半ば呆然としている。
ちなみに彼の側には敵、味方含め、誰もいない。晴奈からして彼を嫌悪しているし、彼女からエンジェルタウンでの破廉恥な行状を聞かされているため、彼女の仲間も近付こうとしない。そしてどうやら、敵の兵士たちも同様の評判を聞いているらしく、彼らまでもが「あの人に近付けないで下さい」と異口同音に願い出てきたため、距離を置かせている。
殺刹峰の精鋭「プリズム」としての誇りと威厳を失い、人格的にも著しく問題のある彼に、好き好んで近寄る者など誰もいなかった。
だから――レンマと、2階から降りてきた楢崎の目が合った時、楢崎は困った表情を浮かべたし、逆にレンマはほっとした顔になった。
「あの……、すみません」
「えっ? 何、かな?」
あまり近寄りたくないとは言え、目を合わせておいて無視できるような楢崎ではない。仕方無く、レンマのそばに向かった。
「どうかしたかい?」
「あの、えっと……、お名前、何でしたっけ」
「楢崎だ」
「あ、央南の方なんですね。……僕にはよく分からないんですよね」
「うん……? 分からない、と言うのは?」
尋ねた楢崎に、レンマは意気消沈した顔で、ぼそぼそと話し始めた。
「ドクター……、義父に央南風の名前をつけてもらったとは言え、僕は自分が何人で、どこの人間かさっぱり分かりません。央南の文化は好きですけど、ゼンとかジントクとか、何が何だか。央南人のセイナさんにアタックしたけど、どうして嫌われたのかも、全然。何で負けてしまったのかも、全然分からないんです。
もう、頭の中が混乱して、何をどう言えばいいのかすら……」
「そうか……まあ……その……うーん」
レンマの話は要領を得ず、楢崎は戸惑い気味に応じている。
しかし、そんな楢崎の様子に構う気配も無く、レンマは質問を重ねる。
「この後、僕はどうなります?」
「うん? ……ああ、聞いた話ではサウストレードにある財団の施設で拘留されるそうだ」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
「拘留された、その後です。処刑されるんでしょうか」
「それは、……うーん、どうなのかな」
楢崎は返答に詰まり、きょろきょろと辺りを見回す。
(キャロルくんとスピリットくんは……、2階か。どっちにしてもまだ話してるだろうし。
黄くん、……は来てくれないだろうな。モール殿は……、いないみたいだ。どこへ行ったのかな……?
お、橘くんはヒマそうだ)
楢崎は手を振り、小鈴に助けを求めた。
「んっ? ……んー」
が、小鈴は気付いたらしいものの、両手で☓を作る。
(お、おいおい)
(ゴメーン)
小鈴は困った顔を返し、ぷいっと身を翻して去ってしまった。
(参ったなぁ。となると残るはファイアテイルくん、……だけど、あんまり頼りたくないな。
仕方無いか……。とりあえず僕の予測って前提で話すしかないな)
「えーと、まあ、多分と言うか、僕の私見でしか無いんだけど、そこまではされないだろうと思うよ」
楢崎にそう返され、レンマはほっとしたような顔になる。
「そうですか?」
「確かに君たちは犯罪組織の一員だし、何も御咎め無しで釈放と言うことは無いだろうけど、だからと言って極刑にするほど、財団は乱暴な人たちじゃないからね」
「え……」
楢崎は極力やんわりと言ったつもりだったが、レンマはひどく驚いたような顔をする。
「な、何ですか、それ?」
「え? いや、だからひどいことはされないと……」「そ、そうじゃなくて!」
レンマは両手を縛られたまま立ち上がろうとして、ぺたんと転んでしまった。
「いたっ、たた……」
「大丈夫かい?」
「え、はい。……それよりも! 何なんですか、僕らが犯罪組織って!?」
「……えっ?」
思ってもいない相手の反応に、楢崎はまた、返答に詰まってしまった。
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魔術電話。
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イーストフィールドでの戦いで捕虜の数が増えたため、ジュリアとバートは本国、ゴールドコーストの金火狐財団と連絡を取り、央北のどこかに収容できないかどうか相談していた。
「……そうです、……はい、……ええ」
ジュリアたちの真剣な様子とは裏腹に、その相談の仕草はどこかユーモラスにも見える。
「何と言うか……、珍妙な」
「仕方無いじゃん、あーやんないと話せないんだから」
二人は通信用の魔法陣が描かれた布を頭に巻きつけ、揃って独り言のように虚空を見つめながら、ぶつぶつとしゃべっている。
その状態が5分ほど続いたところで、どうやら話がまとまったらしい。バートたちは布を頭からほどき、晴奈たちに向き直った。
「ここから西南西のサウストレードから、財団の央北支部が迎えに来てくれることになった。それまで俺たちは、この街で捕虜を拘束することになった」
「分かった。じゃあ迎えに来るまでの間、彼らはどこに閉じ込めておけばいい?」
楢崎の質問に、ジュリアが答える。
「この廃工場しか無いでしょうね。街中じゃ目立ちすぎるし」
「なるほど」
楢崎がうなずいたところで、バートが背伸びする。
「しばらくはここで寝泊りだな。……すきま風入ってくるし、風邪引きそうだ」
「気を付けてよ、バート」
「へいへい」
一方、1階では拘束した敵たちが、各個に縛られて座っている。
勿論、全員の装備を解除した上、小鈴とモールが魔術封じ「シール」を施した後であり、唯一現場に置いて行かれた指揮官レンマも、きっちり無力化されていた。
「……」
レンマは敗北したことが相当ショックだったらしく、半ば呆然としている。
ちなみに彼の側には敵、味方含め、誰もいない。晴奈からして彼を嫌悪しているし、彼女からエンジェルタウンでの破廉恥な行状を聞かされているため、彼女の仲間も近付こうとしない。そしてどうやら、敵の兵士たちも同様の評判を聞いているらしく、彼らまでもが「あの人に近付けないで下さい」と異口同音に願い出てきたため、距離を置かせている。
殺刹峰の精鋭「プリズム」としての誇りと威厳を失い、人格的にも著しく問題のある彼に、好き好んで近寄る者など誰もいなかった。
だから――レンマと、2階から降りてきた楢崎の目が合った時、楢崎は困った表情を浮かべたし、逆にレンマはほっとした顔になった。
「あの……、すみません」
「えっ? 何、かな?」
あまり近寄りたくないとは言え、目を合わせておいて無視できるような楢崎ではない。仕方無く、レンマのそばに向かった。
「どうかしたかい?」
「あの、えっと……、お名前、何でしたっけ」
「楢崎だ」
「あ、央南の方なんですね。……僕にはよく分からないんですよね」
「うん……? 分からない、と言うのは?」
尋ねた楢崎に、レンマは意気消沈した顔で、ぼそぼそと話し始めた。
「ドクター……、義父に央南風の名前をつけてもらったとは言え、僕は自分が何人で、どこの人間かさっぱり分かりません。央南の文化は好きですけど、ゼンとかジントクとか、何が何だか。央南人のセイナさんにアタックしたけど、どうして嫌われたのかも、全然。何で負けてしまったのかも、全然分からないんです。
もう、頭の中が混乱して、何をどう言えばいいのかすら……」
「そうか……まあ……その……うーん」
レンマの話は要領を得ず、楢崎は戸惑い気味に応じている。
しかし、そんな楢崎の様子に構う気配も無く、レンマは質問を重ねる。
「この後、僕はどうなります?」
「うん? ……ああ、聞いた話ではサウストレードにある財団の施設で拘留されるそうだ」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
「拘留された、その後です。処刑されるんでしょうか」
「それは、……うーん、どうなのかな」
楢崎は返答に詰まり、きょろきょろと辺りを見回す。
(キャロルくんとスピリットくんは……、2階か。どっちにしてもまだ話してるだろうし。
黄くん、……は来てくれないだろうな。モール殿は……、いないみたいだ。どこへ行ったのかな……?
お、橘くんはヒマそうだ)
楢崎は手を振り、小鈴に助けを求めた。
「んっ? ……んー」
が、小鈴は気付いたらしいものの、両手で☓を作る。
(お、おいおい)
(ゴメーン)
小鈴は困った顔を返し、ぷいっと身を翻して去ってしまった。
(参ったなぁ。となると残るはファイアテイルくん、……だけど、あんまり頼りたくないな。
仕方無いか……。とりあえず僕の予測って前提で話すしかないな)
「えーと、まあ、多分と言うか、僕の私見でしか無いんだけど、そこまではされないだろうと思うよ」
楢崎にそう返され、レンマはほっとしたような顔になる。
「そうですか?」
「確かに君たちは犯罪組織の一員だし、何も御咎め無しで釈放と言うことは無いだろうけど、だからと言って極刑にするほど、財団は乱暴な人たちじゃないからね」
「え……」
楢崎は極力やんわりと言ったつもりだったが、レンマはひどく驚いたような顔をする。
「な、何ですか、それ?」
「え? いや、だからひどいことはされないと……」「そ、そうじゃなくて!」
レンマは両手を縛られたまま立ち上がろうとして、ぺたんと転んでしまった。
「いたっ、たた……」
「大丈夫かい?」
「え、はい。……それよりも! 何なんですか、僕らが犯罪組織って!?」
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思ってもいない相手の反応に、楢崎はまた、返答に詰まってしまった。



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