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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・黄色録 2

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    晴奈の話、第345話。
    敵・味方、両者の疲弊。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     楢崎はレンマの驚きと怒りに満ちた目を見つめながら、ゆっくりと応対する。
    「えーと、まず聞くけど」
    「……はい」
    「君は、殺刹峰の人間だよね?」
    「そうです」
    「殺刹峰が何をやって来たか、知らないわけじゃないだろう?」
    「ええ。『黒い悪魔』を倒すために、地下活動を続けている組織です」
     それを聞いて、楢崎はいつの間にか1階に降りてきていたバートをチラ、と見た。
    (ふむ……。キャロルくんの推測は当たっていたみたいだ。しかし……)
     頭の中を整理しつつ、楢崎は質問を続ける。
    「それだけかい? 他には何も?」
    「ええ。それ以外に目的があるなんて、聞いたこともありません」
    「そうか。……僕の話を、聞いてくれるかい?」
     楢崎は自分の息子が殺刹峰にさらわれ、以来10年間ずっと行方を追っていること、そしてゴールドコーストでクラウンに指示し、大量に誘拐させていたことなどを話した。
     話を聞かされたレンマは驚いているとも、怒っているとも取れる、複雑な表情をしている。
    「……それは、本当に殺刹峰なんですか? 他の、どこかの組織と間違えてるんじゃ」
    「じゃあ、君の上官だと言うモノ――ドミニク元大尉との関係はどうなるんだい? 彼自身が、僕の息子を連れ去ったんだよ。これも、別人だと?」
    「そんな、……そんなこと、あるわけ、……そんな」
     レンマの顔色は真っ青になっている。
    「だって、僕たちは悪魔を、……なんで、先生がそんなことを、……そんな」
    「それに……」
     楢崎はバートとジュリアを指差し、レンマに尋ねた。
    「君たちの組織が本当に『悪魔を倒すため』だけだったら、財団の人間を襲ったり、拘束したりする理由があるのかい?」
    「だって、それは先生が、……先生が、『我々の組織を脅かす者たち』だと」
    「本当に悪魔を倒すための組織なら、財団がその存在を脅かすだろうか?
     財団は良くも悪くも、利益至上主義だ。そんな財団が山の向こうの、悪魔を倒そうとしている組織なんか――自分たちとまったく無関係な組織に攻勢を仕掛ける理由なんか、無いじゃないか。財団が動いたのは、君たちの組織が市国に悪影響を及ぼしているからだし」
    「……先生は、でも……」
     レンマはうつむき、またぶつぶつとうめきだした。
     そんな彼の様子に気付いたらしく、小鈴がそーっと楢崎たちを覗き見していた。
    「……橘くん」
    「あっ」
     楢崎に声をかけられ、小鈴は「えへへ……」と苦笑いしながら近寄ってきた。
    「ひどいじゃないか、困っている人間を放っておくなんて」
    「だって、めんどくさそーなヤツだったんだもん」
    「……」
     レンマは一瞬小鈴を見上げ、また視線を落とした。
    「えーと、話ちょこっと聞いてたけどさ、アンタ自分が犯罪組織にいるって、全然気付かなかったの?」
     小鈴にそう問われ、レンマは顔を伏せたまま答える。
    「僕がやってきたことは、魔術の修行と、組織からの命令に従ったことだけです。犯罪があったことなんて、知りませんでした」
    「モノが意図的に隠していたんだろうね。恐らくは、自分たちがやっていることは正義だと信じさせるために、大部分の兵士たちには汚い部分を隠していたんじゃないかな。
    『自分のやっていることは正しい』と信じさせれば、誰だって勇敢に……」「やめてくださいよッ!」
     楢崎の推察を、レンマががばっと顔を挙げ、泣きながらさえぎった。
    「じゃあ何ですか、僕たちはみんな、大陸を荒らしまわるような犯罪組織に加担し、育てられたって言うんですか!? そこを、絶対的正義だと信じさせられて!」
    「同じ議論を続けるつもりは無いよ。ただ、少なくとも殺刹峰に所属し、指揮を務めるモノと言う男は僕の息子をさらい、そしてもう一方の指揮官オッドは間接的にせよ、僕の親友を殺させたんだ。
     それは確かなんだ」
    「信じない。僕は信じないぞッ!」
     レンマはまたうつむき、そのまま何も言わなくなった。



     数日後、晴奈一行は財団から派遣された職員たちと一緒に、サウストレードへと進んでいた。ちなみにクロスセントラルへも同様の使いが来ており、シリンたちも合流していた。
    「どうやら無事なようだな」
    「えっへへー」
     半月ぶりに会ったせいか、シリンはとても嬉しそうな顔で晴奈に懐いてきた。それを布袋越しに眺めていたカモフはぷっと吹き出した。
    「そりゃカレシと毎日イチャイチャしてたんだから、疲れるも何もねーよ」
    「や、やかましわっ」
     シリンは顔を真っ赤にしてカモフに突っ込む。
    「そう言えば、フェリオは無事なのか?」
    「うん。ちょっと、腕の青いのんが広がってるっぽいねんけど、元気やで」
    「そうか……」
     バートたちと話しているフェリオをシリンの背越しに見て、晴奈は心配になった。
    「……ふむ……」
    「……半月くらいで……」
    「……はい……っスけどね……」
     フェリオは左腕をめくって見せている。
     その腕、いや、その体は半月前に比べ、明らかに痩せていた。
    (毎日見ているから、逆に気付かないものなのかも知れぬな)
     晴奈の視線に気付いたシリンが、ひょいとフェリオの方を見る。
    「なーなー、フェリオ」
    「でですね……、あん?」
    「やっぱ痛いん?」
    「……いや、別に。痛みもかゆみもねーから、心配すんなって」
    「あいっ」
     シリンの意識がフェリオに向いている間に、晴奈はカモフに小声で尋ねてみた。
    (それで、フェリオの容態は?)
    (今も、シリンがいる時も問題無いって言ってたけどな、普段から慇懃無礼で陰険な『インディゴ』の使う毒だ。痛みを与えずに、楽に死なせるとは思えない。それに一回だけ、夜中にひでーうめき声が聞こえたことがある。
     痛くないってことは無いと思うぞ)
    (そうか)
     晴奈はもう一度、シリンとじゃれあっているフェリオの顔を見た。
     その顔には――極めて、うっすらとだったが――死相が浮かび始めていた。

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    2016.08.13 修正
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