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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・黄色録 3

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    晴奈の話、第346話。
    楢崎の懸念。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     サウストレードに到着したところで、晴奈一行は改めてカモフを交え、レンマと話をした。
    「……」
     レンマの目に生気は無く、楢崎から聞かされた話が相当ショックだったことがうかがえる。カモフはそんなレンマの様子をチラ、と見て、ジュリアに向き直った。
    「それで、俺に聞きたいことってのは何だ?」
    「いえ、聞きたいと言うよりも、あなたの口から詳しく説明して欲しいのです。
     殺刹峰がどんな組織であるか、と言うことを」
    「ああ……、そうか。そう言えばみんな、知らないんだよな」
     カモフのその言葉に、レンマの顔色がさらにひどくなる。
    「……」
     レンマの様子をうかがう素振りを見せつつ、カモフは説明を始めた。
    「みんなには、『殺刹峰はタイカ・カツミ討伐のための地下組織』と言ってある。確かに、それはモノさんとオッドさん、そしてバニンガム伯の最終目標だ。
     でも、そのためにやっていることは、明らかに犯罪だ。兵士を集めるための誘拐は言うに及ばず、強化薬・魔術開発とその実験データ収集のために麻薬と不法な魔術を売り、『親カツミ派を討伐』と言う名目で略奪行為を行い……」「嘘だッ!」
     レンマは目を剥き、縛られた状態でカモフにタックルしようとした。だが周りにいた公安と財団職員たちに取り押さえられ、床に押し付けられる形で鎮めさせられる。
    「うぅ……、うっ……」
    「お前は『プリズム』の中でも素直でバカ正直で愚直なヤツだから、こんな話すぐには信じられないと思うけど、本当のことだ。
     殺刹峰はずっと、正義を偽って悪事を働いてきたんだ。それが真実なんだよ」
    「……ううぅぅぅ」
     レンマは床に突っ伏したまま、まさに地の底から響いてくるようなうめき声を上げ、泣き始めた。

     レンマは錯乱しかねない状態だったので、とりあえず彼だけが先に部屋から出され、そのまま軟禁されることになった。
     残ったカモフに、楢崎が質問をぶつける。
    「その、カモフくん。大変私的なことを聞いてしまって、みんなには恐縮だけど」
    「何だよ、回りくどいな……?」
    「君は殺刹峰の内情に詳しいみたいだけど、誘拐されてきた子供たちのことも詳しいかい?」
     カモフは楢崎の顔を見上げ、間を置いてから答えた。
    「ああ。全員を知ってるわけじゃないが、少なくともアンタの聞きたいことは分かる。
     シュンヤ・ナラサキ――アンタの息子さんのことだろ?」
    「そうだ。無事なのか?」
    「恐らくはな。運び込まれ、洗脳されたことは知ってる。
     だけど、当時は俺自身も殺刹峰に連れて来られて間も無い時だったし、内情に関われるような地位にいなかった。
     だからその後どうなったか、良く分からないんだ」
    「……そうか」
    「でも」
     カモフは一瞬目線を下に落とし、もう一度見上げる。
    「その……、変な言い方だけど、モノさんは結構気に入ってたみたいだぜ。だからもしかしたら、『プリズム』か、その候補の中にいるのかも知れねえ。ただ、確か今は14のはずだったよな?」
    「ああ」
    「『プリズム』の平均年齢は大体20代前半くらいだ。14だと入れるかどうかギリギリ、……!」
     カモフは何故か、話の途中で黙り込んでしまった。
    「どうかしたのかい?」
    「……もしかしたら」
    「もしかしたら?」
    「いや……、何でも無い。
     一つ聞くけどよ、アンタの息子さん、魔力はある方と思うか?」
     楢崎はけげんな顔をしながらも、返答する。
    「ああ。僕も焔剣士だし、妻にも魔術の心得がある。多分、あるんじゃないかな」
    「そうか……」
     カモフはその後何度か、何かを言おうとする様子を見せていたが、結局何も言わず、そのまま話は終わった。



     殺刹峰アジト。
     敗走のショックを引きずったまま、ジュンはぼんやりと魔術書を読んでいた。
    「……雷とは央南名『いかずち』、央中名『フルミン』、央北名『サンダー』と言い、その性質は槍や鎚に似る。岩を砕き、高い木々に落ちることから土の術に対しては優位とされる。生物には微量であれば薬となるが、多量であれば毒となる。……はぁ」
     どうにも考えがまとまらないので、魔術書の中でも最も基礎の部類に入るものを読んでいたが、それも口に出して読まなければ頭に入ってこない。
    「ダメだぁ」
     ジュンは本を閉じ、机に突っ伏した。
     と、そこへヒタヒタと言う、いかにも亡霊か何かが立てそうな足音が近付いてくる。だがジュンは別段怖がりもせず、その足音の主に声をかける。
    「ミューズさん、ですか?」
    「ああ」
     いつの間にかジュンのすぐ側に、褐色の肌に長い黒髪の、そして真っ黒なコートを羽織った、長耳の女性が立っていた。
    「もう体の方は……?」
    「問題無い。私は人形だから、な」
     そう言ってミューズはマントをめくり、腕を見せた。
    「それよりジュン、お前の方こそ大丈夫なのか?」
    「え?」
    「お前のオーラ……」
     そう言いながら、ミューズはジュンに顔を近づけた。
    「え、えっ?」
    「沈んだ紫色だ。とても落ち込んでいる」
    「紫色?」
     ミューズの言っていることが分からず、ジュンはミューズの真っ黒な、黒曜石のように光る瞳を見つめ返した。
    「オーラには色が付いている。私にはそれが見えるのだ」
    「は、あ……」
     ジュンはミューズの言動に戸惑い、目を白黒させる。
    (相変わらず、この人は突拍子も無いなぁ)
    「ク、ク……、そんなに困らなくてもいいだろう?」
     ミューズはジュンの顔を見て、鳥のように笑う。
    「あ、いえ……」
    「お前は疲れている。顔色も悪いし、オーラも黒ずんでいる」
    「……そうですね。ちょっと、気分が優れない感じはあります」
    「休め。そんな状態では参ってしまうぞ」
     そう言ってミューズはジュンの手を取る。
    「いえ、でも」
    「何度も言わせるな。休め」
     ミューズはその外見に似合わない腕力で、無理矢理にジュンを椅子から引きはがした。
    「わ、わ、ちょっと」
    「連れて行ってやろう」
     次の瞬間、ジュンは体が浮き上がる感覚を覚えた。
    「……っと、と?」
     気付いた時には、ジュンは自分の部屋にいた。
    「気分が落ち着いたら、また頑張ればいい。
     では、失礼する」
    「は、はい」
     目の前にいたミューズはまたククッと笑って、すっとジュンの前から姿を消した――比喩ではなく、本当に一瞬で、その姿は虚空に消えてしまった。
    「……本当に脈絡も突拍子も無い人だなぁ。言動も、行動も。……存在も」
     ジュンはため息をつきながら、ミューズの言葉に従ってベッドに入った。

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    2016.08.13 修正
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