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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・黄色録 4

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    晴奈の話、第347話。
    夢と悪寒。

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    4.
     ジュンは夢を見た。
     幼い頃、モノに手を引かれながらどこかの街道を歩いていた時の夢だ。
    「もうすぐ到着する」
    「うん」
     今でも、この時どんな状況にいたのか、「自分」には分からない。何故、モノが自分の手を引いているのか? 何故、彼と二人きりなのか? 何故、自分は家にいないのか?
     そして何故――父も母も、自分の側にいないのか?

     そこは、どこかの温泉街のようだった。硫黄の匂いと湯煙があちこちに立ち込めていたから、そうだと分かった。
    「いらっしゃい、モノさん」
    「お久しぶりです、ヒュプノさん」
     モノは入浴場の一つに入り、店先で虎獣人の店主と二言三言交わし、それから自分を呼び寄せた。
    「こっちに来い」
    「うん」
     幼かった自分は、素直にモノの言葉に従った。
    「ここの温泉はとても気持ちがいい。ゆっくり浸かるといい」
    「うん」
     また素直に、自分は店の奥へと足を進めていく。
     温泉に入ると、確かに心地よかった。温めの湯と、ほこほことした空気、そして静かにざわめく木々が、幼い自分の心をさらに幼く、無に帰していく。
    「気持ちいいか?」
    「う、ん……」
     浸かっていると、段々眠気が押し寄せてくる。自分は湯船の中でうとうとと、舟をこぎ始めた。
     ここでまた、モノが声をかけてくる。
    「さて、……君の名前は?」
    「しゅ、ん……」
    「それは違う」
    「え……」
    「君の名前はジュンだ」
    「じゅん……?」
    「そう、ジュンだ。さあ、復唱するんだ」
    「ぼくの……、なまえは……、しゅん……」
    「それは違う」
    「え……」
     モノは延々と、同じ言葉を繰り返す。自分の頭の中が、くつくつと溶け始めた。
    「君の名前はジュンだ」
    「じゅん……?」
    「そう、ジュンだ。さあ、復唱するんだ」
    「ぼくの……、なまえは……」



    「僕の、名前は……」「ジュンやろ?」
     目を開けると、すぐ側にヘックスの顔があった。
    「……わっ!?」
    「よぉ、おはよーさん」
     ジュンはそこで、どろどろとした夢から覚めた。
    「先生が呼んでるで。……でもその前に、ちょっと話してええかな」
     ヘックスはジュンを寝かせたまま、小声で質問し始めた。
    「なあ、ジュン。お前、ドコまで記憶残っとる?」
    「え?」
    「記憶や、記憶。オレは14からやけど、お前は?」
    「……3歳、かな」
    「うーん、ちょっと微妙やな。『プリズム』の、他のヤツにもそれとなく聞いてみたらな、みんな記憶がブッツリ途切れとるらしいわ、一人残らず」
    「みんな、ですか」
     そこでヘックスは、さらに声をひそめてきた。
    「正確に言うとやな、ドランスロープの三人以外やな。あいつらは何ちゅーか、オレらとは違うんですって感じしよるしな」
    「そう、ですね……。確かに三人とも、僕らを見下してると言うか、格下扱いしてると言うか」
    「せやろ? そう言う態度からしてあいつら、ホンマのこと全部知ってるんやないかなって」
    「知ってる、って?」
    「オレらに記憶が無い理由――先生が、オレらの記憶を消してたっちゅう話がホンマにホンマのことで、あいつらは最初っからそれを知っとったんかもな」
    「……ありそうですね」
     ヘックスの推測に、ジュンもうなずく。
     ヘックスはそっとジュンから離れ、背中を向けてぽつりと漏らした。
    「コウと戦ってからオレ、嫌な予想が止まらへんねや。
     もしかしたら『プリズム』って、ドランスロープのためだけにあるんやないかってな」
    「それは、どう言う……?」
    「オレら全員、あいつらの引き立て役っちゅーか、踏み台っちゅーか……、そんな感じがな。もしかしたらオレら、肝心なトコで捨て駒にされるかも知れへん」
     考えすぎですよ、と言おうとしたが、その言葉はジュンの口から出て来なかった。
     ジュンも同じような嫌な予感を、心の中から拭い去れなかったからだ。



     そして、ドランスロープ以外の「プリズム」たちがモノの元に集められたところで、ヘックスの懸念が的中しているとも取れる指令が下された。
    「前回の作戦で、『マゼンタ』以下20余名の兵士が敵の手に落ちた。これは憂慮すべき事態だ。よって、これまでのように軍事演習目的と言うような、相手を軽視したような作戦は全面的に停止し、確実なる殲滅へと切り替える。
     これより『ホワイト』『ブラック』『インディゴ』を筆頭とした大規模作戦部隊を編成し、サウストレードに拘置されていると言う兵士たちを救い出すと共に、そこにおける財団支部を壊滅させる。
     また、前述の3名以外の『プリズム』諸君らは、彼女らの支援に回って欲しい」
     この指令を聞いた時、思わずヘックスとジュンは顔を見合わせた。
    (やっぱり……?)
    (かも、な)
     そして他にもヘックスたちと同様、モノの指示に戸惑った者が若干名いたのだが――長年の悲願を達成するべく、少なからず焦りの色を見せていたモノには、そのわずかなざわめき、不協和音を感じ取る余裕も無いようだった。

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    2016.08.13 修正
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