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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・黄色録 5

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    晴奈の話、第348話。
    内部崩壊の前兆。

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    5.
     当初、モノの描いた筋書きはこのようになっていた。
     まず軍事演習を続け、「プリズム」を訓練する。十分に経験を積んだところで、ドランスロープ三名を筆頭にした大規模部隊を編成しさらに演習を続け、そこでその三名のリーダーシップを育成するとともに、残り六名の連携を密にする。
     これにより優れた指揮官と将軍の関係が築かれ、最終目標の達成に大きく貢献する――と言うものだった。

     だが想定外の事態が、彼を惑わせてしまった。優れた兵士を大量に集めるために、央中ゴールドコーストの闘技場であまりにも多くの人間をさらいすぎたことで、金火狐財団の公安局が動き始めてしまったことだ。
     このまま公安の動きを放置・傍観すれば、折角今まで秘密裏に進めてきた一連の作戦・計画が明るみに出てしまうおそれがある。そうなれば標的である克大火の耳にその情報が入り、彼自ら、まだ準備の整いきっていない自分たちを強襲してくる可能性も出てくる。
     入念な準備を積み重ねなければ勝てない相手であることは、モノ自身が痛いほどよく分かっていることであるし、モノは早急に公安を封じなければならなくなった。

     そこで考えたのが、実地での軍事演習である。
     少数精鋭で央北に入ってきた公安の捜査チームを「手頃な敵」と見なし、「プリズム」たちを実戦投入させることで、予定していた軍事演習を前倒しで進めると同時に、金火狐財団の調査を「調査員全員の失踪」と言う形で強制的に打ち切らせ、うやむやにさせることができる――一挙両得の手段であると考えたモノは、早速実施してみた。
     ところが、ここでまた予想外の事態が起こってしまった。十二分に制圧・拘束できると考えて投入した3部隊が、賢者モールの介入により全滅してしまったのである。
     実は以前にも、モールを自分たちの側に引き入れる、もしくは魔術を奪うことができれば、確実に大火に対する有効な武器になるとして、央北中を巡って追い回したことがあった。
     モールは魔術こそ強力なのだが、身体能力に関しては人並み以下であり、屈強な兵士に囲まれれば脆い。その弱点を突いた人海戦術で、後一歩と言うところまで追い詰めることができていた。
     だが、一体どんな手を使ったのか――モールは央北、いや、中央大陸から忽然と姿を消し、結局捕らえることができなかった。
     それ以来両者とも近付かず、自然に相互不干渉となっていたところに、今回の助太刀である。単なる「狩り」の対象でしかなかった捜査チームが突然侮りがたい難敵へと変化し、モノの焦りはさらに強まっていた。
     その焦りが、彼の手をより早めさせた。もっとじっくり構えて進めようとしていた前述の計画を、さらに前倒しすることにしたのである。
     そしてまだ、彼は心のどこかで「これはチャンス――『プリズム』の能力を上げる、絶好の演習だ」と、あくまでもポジティブに考えていた。

     だが、モノが関知していなかった、もう一つの想定外の事態――モノがヘックスたちを初めとする、大勢の兵士たちの記憶を封じ、洗脳していると言う事実をヘックスたちが知ってしまったことに、モノはまだ気付いていなかった。
     この「ほころび」に気付いていれば、モノは手を早めることはせず、内部の情報統制を行って関係修復に努めただろう。
     何故ならこれは彼の組織と、彼の計画にとって非常に致命的と言える、重大な亀裂だったからである。



    「……って、オレはそう思てんねや」
     ヘックスとジュンはモノたち幹部とドランスロープたちに知られないよう、他の「プリズム」に声をかけ、自分たちの懸念を伝えた。
    「そう」
     モエからの反応は特に無く、興味なさげな返答が返ってきた。
     だが、残る2名は真剣な表情で、ヘックスを見つめている。
    「それがホントならー、あたしたちはいずれ死んじゃうってコトじゃないですかー……」
    「そうね、確かにドミニク先生は、フローラさんたちと私たちを区別しているように感じる。私も薄々、そう思っていたわ」
    「せやろ、キリア。ともかくこのまま素直に従っとったら、踏み台にされんのは確実や。
     で……、どうした方がええと思う?」
    「どう、って」
     ヘックスの言葉に、モエを除く全員が黙り込む。
     そしてモエから、こう尋ねられた。
    「何か問題があるの?」
    「何がって、お前はええのんか? あいつらの言いなりになるんやで?」
    「だから、それがどうしたの? 今だって、同じじゃない。ドミニク先生に使われるか、フローラさんたちに使われるかの違いでしょ? 不都合があるの?」
    「せやから、このままやったら……」
    「私たちは兵士よ。いつだって死ぬ可能性はゼロじゃないわ。
     なのに『このままここにいたら死んでしまう』って、バカじゃないの?」
    「んな……」
    「死ぬ時は死ぬのよ。……私、もう寝るわね」
     そう言って、モエは席を立ってしまった。
    「あ、おい! ……行ってもーた」
    「でも、兄さん」
     ヘックスの義妹であるキリアも、立ち上がった。
    「モエの言うことも、もっともだと思う。
     例え先生が私たちの記憶を封じて使役しているとしても、目的はカツミ暗殺と言う、大義のためよ。正義のために戦うのなら、私は迷い無く殉じるつもりよ」
    「そら、理屈はそうやけど……」
    「それじゃお休みなさい、兄さん」
    「あ、ちょ、待てって……」
     ヘックスの制止も聞かず、キリアも部屋を出て行ってしまった。
     残った三人は顔を見合わせ、黙り込む。
    「……僕は、それでも」
     しばらく経ってから、ジュンが口を開いた。
    「正義のためなら何をしてもいい、って言うのはおかしいと思います。
     もっともらしい理屈、大義のために悪事を働くなんて、本末転倒じゃないですか」
    「……オレも、そう思う。もう一回、キリアだけでも説得してみるわ」
     ヘックスも席を立ち、その場から離れる。
     二人きりになったペルシェとジュンは無言で向かい合っていたが、ペルシェの方から話し始めた。
    「あたしはー……、どうしたらいいのかなー?」
    「それ、は……」
    「こう言うのー、苦手なんだよねー。みんなバラバラになっちゃうとー、本当に不安になっちゃうのー」
     ペルシェは突然、ジュンを抱きしめてきた。
    「な、ペルシェさん!?」
    「本当に、本当に不安……」
     耳元でそうつぶやかれ、ジュンは心に痛いものを感じた。
    「一体、誰を信じたらいいのかなー……」
     この時のジュンにもう少し度量や経験があれば、「自分を信じろ」とでも言えたかも知れない。しかしまだ14歳で、心中が不安で一杯だった彼には、こんな風にしか言えなかった。
    「僕は……、その、……僕も、分からないです」

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    2016.08.13 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    各人がそれぞれ正しい、最適と思えることを別々にやってしまうことで、全体の崩壊を招く。
    合成の誤謬ですね。
    殺刹峰にはリーダー、コーチ役が多すぎました。

    NoTitle 

    失敗が失敗を呼び結局収集がつかないということはありますからね。まあ、グッゲンハイムの話も個人がものすごくいろんなベクトルに動きすぎて収集がつかないようになっていますけどね。後は血となれ肉となれ。。。じゃないですけどね。
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