「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・黄色録 7
晴奈の話、第350話。
晴奈への復讐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
恐らく巴美が記憶を取り戻したのは、ここ最近の作戦行動による刺激と、ヘックスとの言い争いによる言葉の反駁、そしてまだ洗脳されて1年、2年程度と、それほど時間が経っていなかったからだろう。
巴美は自分に与えられていた部屋に戻り、姿見で自分の顔を確かめる。
(アハハ……、ひどい顔じゃない! そうよ、この傷も全部思い出した! あのいけ好かないクソ猫女がつけた、この醜い刀傷!
……そうよ! そうよ、そうよ! 何故私はこんなところにいるのよ! 私が何で、腕なしオヤジやカマ野郎や、人形共なんかの言いなりにならなきゃいけないのよ!? はっ、バッカじゃないの!?
私がやらなきゃいけないことは、唯一つ……!)
巴美は剣を抜き、姿見を叩き壊した。
(あの女に復讐すること……! 黄晴奈をこの手で、殺すことよ!)
その瞬間、晴奈はぞくりと寒気を感じた。
「……っ?」
横にいた小鈴がきょとんとした目を向けてくる。
「どしたの、晴奈? 尻尾、ブワッてなってるけど」
「あ、いや。……妙だな、怖気が走ったと言うか」
「風邪でも引いた?」
「いや、まさか。まだ夏の盛りだし」
「でも央北って、夏が短いじゃん? ホラ、財団の人だって長袖だし」
小鈴はひょいと席を立ち、晴奈に茶を渡す。
「ここんとこあっちこっち動き回ったし、変に戦いもあったから、知らないうちに気疲れもしてんじゃない?」
「いやいや、これしきのこと」
「そー言わないでさ、今日はゆっくり休んじゃいなって」
「……ああ、そうさせてもらうか。こんなところで風邪など引いていられないからな」
晴奈は素直に茶を受け取り、ゆっくりと飲み下した。
「何だと……?」
報告を受けたモノはいぶかしげに聞き返した。
「モエ君がいない?」
「はい。今朝からずっと、姿が見えないんです。それで、彼女の部屋を覗いてみたら……」
「覗いてみたら?」
キリアは顔を青くしながら、淡々と説明した。
「その、まるで何かが爆発したみたいに、ぐちゃぐちゃに引っ掻き回されていたんです。それから、私の部隊で部屋の様子を確認したところ、彼女の装備一式が丸ごと消えていました」
「装備一式が? ふむ……」
モノは椅子から立ち上がり、部屋の外に出る。
「見に行こう。前日の彼女の様子など、もう少し詳しく説明できるか?」
「はい」
キリアはモノの後ろに付きながら、詳細を話した。
「夕べ、兄さん……、ヘックスとモエが言い争いをしていまして」
「言い争い? 内容は何だ?」
「いえ、つまらないことですから。……それで言い争っているうちに、彼女が突然倒れたんです」
「倒れた?」
「はい。すぐに起き上がったんですが、『気分が悪くなったのでもう休む』と言って、そのまま部屋に……」
「ふむ……」
話しているうちに、モノたちは「モエ」に与えられていた部屋に到着した。
「……なるほど。確かにこれは、爆発と言っても差し支えないな」
部屋の中にあった家具は一つ残らずズタズタにされ、特に紫色をした服や布、姿見は原型を留めていなかった。
「モエ君の姿を見たと言う報告は?」
「現在『オレンジ』隊に捜索を手伝ってもらっていますが、まだ有力な報告はありません」
「そうか……」
と、背後から声が飛んでくる。
「あっらー……、ひっどいわねぇ、コレ」
「ドクター」
騒ぎを聞きつけたオッドが、二人の間に割って入る。
「まるで台風が通った後みたいねぇ」
「ええ。一体何があったのか……」
ここでオッドが、変なことを言い出した。
「……まるで、じゃないわねぇ。ホントに、台風が通ったのねぇ」
「え?」
「部屋に付いてる傷跡、全部刀傷じゃなぁい。あの子が使う剣術、風の魔術剣でしょーぉ?」
オッドに指摘され、モノは改めて部屋を見渡す。
「確かに、それらしい跡ではある。……とするとこれは、全てモエ君が付けたと?」
「多分そうらしいわねーぇ。もしかすると、まずいコトになってるかも知れないわよぉ」
「まずいこと?」
オッドはチョイチョイと手招きし、モノに小声でヒソヒソと話す。
「特に壊され方がひどいのは、姿見と紫系の服。つまり、モエちゃんは自分の姿とか、コレまで自分を構成してたものを念入りに壊したってコトになるわ。
……まるで『モエ・フジタ』と言う人間を壊すかのように」
「……! まさか、記憶が戻ったと!?」
「その可能性は、ひじょーに高いわねぇ。……早く捕まえてもっかい洗脳しなきゃ、最悪、ココの位置が公安に発覚する可能性もゼロじゃないと思うわよぉ」
モノは重々しくうなり、三度部屋を眺める。
「……由々しき事態だな。早急に対策を講じなければ」
壁に入った亀裂は、表面の見た目よりもずっと根深い。
表面を釉薬や土などで覆っても、その内面は直っていない。奥でじわじわとその隙間を拡げ、やがては壁全体を崩すことになる。
カモフの告発。ヘックスたちの、水面下での反発。そしてモエの離反――殺刹峰と言う壁に入った亀裂は、次第に根を深くしていた。
蒼天剣・黄色録 終
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晴奈への復讐。
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7.
恐らく巴美が記憶を取り戻したのは、ここ最近の作戦行動による刺激と、ヘックスとの言い争いによる言葉の反駁、そしてまだ洗脳されて1年、2年程度と、それほど時間が経っていなかったからだろう。
巴美は自分に与えられていた部屋に戻り、姿見で自分の顔を確かめる。
(アハハ……、ひどい顔じゃない! そうよ、この傷も全部思い出した! あのいけ好かないクソ猫女がつけた、この醜い刀傷!
……そうよ! そうよ、そうよ! 何故私はこんなところにいるのよ! 私が何で、腕なしオヤジやカマ野郎や、人形共なんかの言いなりにならなきゃいけないのよ!? はっ、バッカじゃないの!?
私がやらなきゃいけないことは、唯一つ……!)
巴美は剣を抜き、姿見を叩き壊した。
(あの女に復讐すること……! 黄晴奈をこの手で、殺すことよ!)
その瞬間、晴奈はぞくりと寒気を感じた。
「……っ?」
横にいた小鈴がきょとんとした目を向けてくる。
「どしたの、晴奈? 尻尾、ブワッてなってるけど」
「あ、いや。……妙だな、怖気が走ったと言うか」
「風邪でも引いた?」
「いや、まさか。まだ夏の盛りだし」
「でも央北って、夏が短いじゃん? ホラ、財団の人だって長袖だし」
小鈴はひょいと席を立ち、晴奈に茶を渡す。
「ここんとこあっちこっち動き回ったし、変に戦いもあったから、知らないうちに気疲れもしてんじゃない?」
「いやいや、これしきのこと」
「そー言わないでさ、今日はゆっくり休んじゃいなって」
「……ああ、そうさせてもらうか。こんなところで風邪など引いていられないからな」
晴奈は素直に茶を受け取り、ゆっくりと飲み下した。
「何だと……?」
報告を受けたモノはいぶかしげに聞き返した。
「モエ君がいない?」
「はい。今朝からずっと、姿が見えないんです。それで、彼女の部屋を覗いてみたら……」
「覗いてみたら?」
キリアは顔を青くしながら、淡々と説明した。
「その、まるで何かが爆発したみたいに、ぐちゃぐちゃに引っ掻き回されていたんです。それから、私の部隊で部屋の様子を確認したところ、彼女の装備一式が丸ごと消えていました」
「装備一式が? ふむ……」
モノは椅子から立ち上がり、部屋の外に出る。
「見に行こう。前日の彼女の様子など、もう少し詳しく説明できるか?」
「はい」
キリアはモノの後ろに付きながら、詳細を話した。
「夕べ、兄さん……、ヘックスとモエが言い争いをしていまして」
「言い争い? 内容は何だ?」
「いえ、つまらないことですから。……それで言い争っているうちに、彼女が突然倒れたんです」
「倒れた?」
「はい。すぐに起き上がったんですが、『気分が悪くなったのでもう休む』と言って、そのまま部屋に……」
「ふむ……」
話しているうちに、モノたちは「モエ」に与えられていた部屋に到着した。
「……なるほど。確かにこれは、爆発と言っても差し支えないな」
部屋の中にあった家具は一つ残らずズタズタにされ、特に紫色をした服や布、姿見は原型を留めていなかった。
「モエ君の姿を見たと言う報告は?」
「現在『オレンジ』隊に捜索を手伝ってもらっていますが、まだ有力な報告はありません」
「そうか……」
と、背後から声が飛んでくる。
「あっらー……、ひっどいわねぇ、コレ」
「ドクター」
騒ぎを聞きつけたオッドが、二人の間に割って入る。
「まるで台風が通った後みたいねぇ」
「ええ。一体何があったのか……」
ここでオッドが、変なことを言い出した。
「……まるで、じゃないわねぇ。ホントに、台風が通ったのねぇ」
「え?」
「部屋に付いてる傷跡、全部刀傷じゃなぁい。あの子が使う剣術、風の魔術剣でしょーぉ?」
オッドに指摘され、モノは改めて部屋を見渡す。
「確かに、それらしい跡ではある。……とするとこれは、全てモエ君が付けたと?」
「多分そうらしいわねーぇ。もしかすると、まずいコトになってるかも知れないわよぉ」
「まずいこと?」
オッドはチョイチョイと手招きし、モノに小声でヒソヒソと話す。
「特に壊され方がひどいのは、姿見と紫系の服。つまり、モエちゃんは自分の姿とか、コレまで自分を構成してたものを念入りに壊したってコトになるわ。
……まるで『モエ・フジタ』と言う人間を壊すかのように」
「……! まさか、記憶が戻ったと!?」
「その可能性は、ひじょーに高いわねぇ。……早く捕まえてもっかい洗脳しなきゃ、最悪、ココの位置が公安に発覚する可能性もゼロじゃないと思うわよぉ」
モノは重々しくうなり、三度部屋を眺める。
「……由々しき事態だな。早急に対策を講じなければ」
壁に入った亀裂は、表面の見た目よりもずっと根深い。
表面を釉薬や土などで覆っても、その内面は直っていない。奥でじわじわとその隙間を拡げ、やがては壁全体を崩すことになる。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
殺気というのはありますよね。
むしの感といいますか。
カンというのは思いつきではなく、経験と洞察力に基づく直感なんだよ。。。と名探偵が言っていましたけど。
むしの感といいますか。
カンというのは思いつきではなく、経験と洞察力に基づく直感なんだよ。。。と名探偵が言っていましたけど。
- #1037 LandM
- URL
- 2012.06/29 22:14
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NoTitle
殺気を感じたことは残念ながらありません(´・ω・)
僕はまだまだ経験と洞察力が足りないようですね。