fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・剣姫録 2

     ←蒼天剣・剣姫録 1 →蒼天剣・剣姫録 3
    晴奈の話、第352話。
    小冬日和。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     晴奈たちがサウストレードに滞在してから一ヶ月近くが経過し、季節は既に、秋に移ろうとしていた。

     央北の夏は、央中に比べてさらに短い。流石に「北」と付くだけあって、夏よりも冬の割合の方が多いのだ。
    「うひょ……、寒いなぁ」
     とは言え、その日の気温は異様なほど低かった。まだ夏の装いが残る時期だと言うのに、吐く息が白いのだ。
    「本当、耳が痛くなるくらいね」
     サウストレードの街をぶらついていたバートとジュリアは、白い吐息をたなびかせながら街を眺めていた。
    「見ろよ、マフラーしてるヤツがいるぜ」
    「あら、本当」
     街角にはチラホラ、冬服を慌てて引っ張りだしたと思われる者が行き来していた。
    「本当に寒いよな、今日は」
     そう言ってバートはふーっと白い息を――こちらは吐息ではなく、紫煙だが――吐いて、ポケットに手を入れる。
    「冬の中で温かい日を『小春日和』と言うけれど、今日みたいな日は『小冬日和』とでも言うのかしらね」
     ジュリアがそっとバートの腕に寄り添い、暖を取ってきた。
    「はは……」
     バートは小さく笑いながら、街を見渡した。
    「ん? 何だ、あの露店?」
    「え?」
    「ほら、通りの反対側にある店。何かカラフルで目立ってる」
    「ああ……」
     バートがくわえ煙草で指し示した方に、やけに色彩豊かな露店が立っている。
    「何の店かしら?」
    「行ってみるか」
     店の近くまで行ってみると、こんな寒い日だと言うのに何人もの人が集まっていた。
    「ねぇねぇ、次はコレ付けてー」
    「はいはい」
     店主らしき短耳の女性が、小さい女の子の差し出した帽子に絹の付いた型紙を当て、ぺたぺたと染料を塗って星のマークを付けている。
    「ありがとー!」
    「はいはい、20クラムね」
     店主はニコニコ笑いながら、客の衣服に様々なマークを付けている。いわゆるシルクスクリーンのようだ。
    「へぇ、面白そうね。何かやってもらう?」
    「んー……」
     バートは自分の衣服を見回し、マークを付けても差し支えなさそうなものを探す。
    「……お?」
     と、いつの間にかジュリアが自分のベストとネクタイを店主に渡し、話をしている。
    「はいはい、カエデ模様ね。色は赤と橙いっこずつ、と」
    「お願いね」
    「はいはい」
    「……はは」
     バートは笑いながら、煙草を吸おうとする。それを見た店主が顔を上げ、口をとがらせた。
    「お客さん、近くで吸わないでよ。引火するから」
    「あ、おう。悪い悪い」
     バートは頭をかきながら煙草を口から離し、近くの灰皿まで歩いていった。
     その間に、ジュリアは店主と世間話をする。
    「にぎわってるのね」
    「うん、ボチボチ稼げてるよ」
     店主は手元に視線を落としながら、気さくに話をしてくれた。
    「一番人気があるのはどの柄?」
    「時期柄だからと思うけど、お客さんと同じカエデ模様だよ。秋って感じがするし」
    「そう」
     店主はここで思い出したように、また顔を上げた。
    「あ、そうそう。カエデって言えばさ、さっき一人変なお客さんがいたんだよね。
     短耳で、顔全体をマフラーで覆っててさ、のっぺりした仮面を差し出してきて、『これに藤色のカエデ模様を』って」
     妙な話に、ジュリアと、戻ってきたバートは興味を抱いた。
    「藤……、紫色の、カエデ?」
    「変でしょ? 普通カエデって言ったら、赤とか黄色とかの暖色系を選ぶのに。あたしも『何で藤色に?』って聞いたらさ、『私の色だから』だって。
     で、マーク付けてあげたらその仮面かぶって、ささっとどっか行っちゃったのよ。……それでさー」
     店主はここで、声色を変えた。
    「その女の人、仮面かぶる時にチラッと顔を見たんだけど、こーんな風に」
     店主は自分の左眉を指し、そこからすっと右頬にかけてなぞる。
    「すっごい傷跡が付いてたのよ。剣士さんっぽかったから、そう言う関係でケガしたのかも。ちょこっと、不気味な人だったなぁ」
    「……スカーフェイスの、女」
     それを聞いたジュリアの顔が、途端に険しくなった。
    「その人、央南人だった?」
    「え? ……うーん、そう言われればそうだったかも。あんまりこの辺では見たこと無い顔立ちだったし」
    「どうしたんだ、ジュリア?」
    「忘れたの、バート?」
     ジュリアは立ち上がり、バートの耳元でささやいた。
    「顔に傷のある、央南人風で短耳の女性。そして紫色が、彼女の『色』だと」
    「紫……、そうか、『バイオレット』か」
     バートもようやく、その人物に思い当たった。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.08.13 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・剣姫録 1】へ
    • 【蒼天剣・剣姫録 3】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    無いですね。作りました。
    語彙力無いように見えますか。

    NoTitle 

    小冬日和!!
    …という言葉はないですね。
    そういう言葉はないですよね。北風が吹いてきたみたいな表現をするのが正しいのですかね?…私も語彙力がないのでわからないですけど。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・剣姫録 1】へ
    • 【蒼天剣・剣姫録 3】へ