「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・剣姫録 3
晴奈の話、第353話。
焔流に勝つためのコンセプト。
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3.
露天商の情報から、晴奈たちは殺刹峰の部隊がサウストレードに来ていると想定し、現在の拠点にしている金火狐財団商館の警備を固めていた。
だが、フォルナだけは終始けげんな顔をしていた。
「そのお話、どうしても気にかかる点がございますの」
「って言うと?」
フォルナと一緒に茶を飲んでいた小鈴が尋ねてくる。
「なぜ、敵部隊のリーダーが一人で街を徘徊していたのか、と。
これまでわたくしたちは何度も殺刹峰の部隊と戦ってまいりましたけれど、団体行動が基本と言うか、一人で行動されていたことはほとんど無かったような気が……」
「そーでもないと思うけどね」
話の輪に、モールが割って入る。
「私が戦った黒いヤツは、単独で行動してたね。それに小鈴たちの班でも、その『バイオレット』だかが一人でウロウロして、自分からノコノコやって来ちゃったって聞いたしね。案外、単独行動も多いんじゃない?」
モールの反論に、フォルナはほんの少しぶすっとした表情になった。
「……そうですわね。そう言う事実もございました。失念しておりましたわ」
「いっつもいつも思ってたけど、なーにを偉そーにしてるかね、この小娘は」
じっとフォルナの顔を見ていたモールは、いきなり彼女の鼻をつかむ。
「ふひゃっ!?」
「20にも満たない小娘が、偉そうにベラベラ演説ぶってんじゃないよ。もっと年相応に、可愛く振舞えないもんかねぇ?」
「ほんにゃこにょほおっひゃにゃれにゃひひぇにょ(そんなことを仰られましても……)」
「生意気、生意気っ。えいっ」
モールは鼻をつかんでいた手を、ぴっと放す。その拍子に、フォルナの口と鼻から妙な音が漏れた。
「ぷひゃっ!」
「アハハ、『ぷひゃ』だって、アハハハハハハ」
モールは顔を真っ赤にするフォルナを見て、ゲラゲラと笑い転げていた。
晴奈は再び、カモフと話をしていた。
今回は楢崎も交え、三人で顔を突き合わせている。
「『バイオレット』隊が来てる、と。もしかしたら、アンタとモエの戦いになるかもな」
「その可能性が無いとは言えない。そう思って、お主に話を聞こうと思った次第だ」
ちなみにカモフは現在布袋ではなく、狐を模した仮面をかぶっている。カモフから「いつまでも布袋じゃ顔がかぶれそうになる。もっとすっきりしたものに変えて欲しい」と頼み込まれたからである。
「話って言うと、具体的にはどんなだ?」
カモフに尋ねられ、晴奈はこう返す。
「現在の巴美……、いや、モエの実力を伺いたい。以前に戦った時も、多少手強かった記憶があるからな」
「なるほどな。まあ、これは俺の意見だが、確かに『プリズム』の中じゃ新参者だし、見劣りしてるところもある。
だけど、腕は前より上がってる。シノハラ一派の頃に使ってた魔術剣も、一段と凄味を増してるぜ」
カモフの回答に、楢崎がうなる。
「ふむ……。僕たちの班も一度食らったことがあるが、確かに強烈だった。あれは具体的には、何系統の魔術が基礎になってるのかな?」
「風の術だ。恐らく焔流の、火術ベースの魔術剣に対して優位に立とうとした結果だろう。風術は火術に強いからな」
「……?」
魔術知識に疎い晴奈には、話の流れがつかめない。
「えーと、聞いてもいいか?」
「ん?」
「何故、風の術は火の術に強いのだ? 良く分からないのだが」
「ああ……」
カモフは丁寧に、晴奈に魔術の基礎を解説してくれた。
「魔術書の基本には大抵、『風の術は大気の流れ、空気を司る。火は空気の多寡で、激しく燃え盛ったり、一瞬にして消えたりする。風は火が火である、その根源を握るものであり、よって風は火に対して優位に立つ』ってある。
他にも諸説あるが、大体の理由はそんなとこだな」
「は、あ……」
説明されても今ひとつ理解できなかったので、晴奈はとりあえず話を進めた。
「まあ、魔術の分野で考えれば篠原一派の方が強いと取れるわけか。確かにあの飛距離と斬撃の鋭さには苦戦したな」
「もっぺん言っとくが、俺たちと戦った時より数段強くなってるぜ。今じゃ岩石くらいならズバッと斬れるほどだ。
アンタも相当強くなっただろうが、それでも苦戦するのは確実だろうな。何か対策を練っといた方がいいんじゃないか?」
カモフに助言され、晴奈は素直にうなずいた。
「ふむ。……そうだな、モール殿にでも、風の術への対策を聞いてみるとするか」
そう言って晴奈は席を立ちかけ――また、ぞくりと寒気を覚えた。
「……!」
「どした?」
「危ないッ!」
晴奈はほとんど無意識的に楢崎を蹴り飛ばし、さらに机を飛び越えてカモフに飛び掛った。
「うわっ!?」「お、ちょ!?」
楢崎は椅子から転げ落ちる。
カモフは晴奈に押される形で、壁際に叩きつけられる。
「いってぇ……」
カモフは文句を言おうと起き上がったが、目の前の光景を見て絶句した。
「……やべ、来やがった」
先程まで晴奈たちが囲んでいた机が、真っ二つに割れていた。いや、割れたのは机だけでは無い。
部屋全体が、窓から扉に向かって一直線に裂けていたのだ。
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焔流に勝つためのコンセプト。
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露天商の情報から、晴奈たちは殺刹峰の部隊がサウストレードに来ていると想定し、現在の拠点にしている金火狐財団商館の警備を固めていた。
だが、フォルナだけは終始けげんな顔をしていた。
「そのお話、どうしても気にかかる点がございますの」
「って言うと?」
フォルナと一緒に茶を飲んでいた小鈴が尋ねてくる。
「なぜ、敵部隊のリーダーが一人で街を徘徊していたのか、と。
これまでわたくしたちは何度も殺刹峰の部隊と戦ってまいりましたけれど、団体行動が基本と言うか、一人で行動されていたことはほとんど無かったような気が……」
「そーでもないと思うけどね」
話の輪に、モールが割って入る。
「私が戦った黒いヤツは、単独で行動してたね。それに小鈴たちの班でも、その『バイオレット』だかが一人でウロウロして、自分からノコノコやって来ちゃったって聞いたしね。案外、単独行動も多いんじゃない?」
モールの反論に、フォルナはほんの少しぶすっとした表情になった。
「……そうですわね。そう言う事実もございました。失念しておりましたわ」
「いっつもいつも思ってたけど、なーにを偉そーにしてるかね、この小娘は」
じっとフォルナの顔を見ていたモールは、いきなり彼女の鼻をつかむ。
「ふひゃっ!?」
「20にも満たない小娘が、偉そうにベラベラ演説ぶってんじゃないよ。もっと年相応に、可愛く振舞えないもんかねぇ?」
「ほんにゃこにょほおっひゃにゃれにゃひひぇにょ(そんなことを仰られましても……)」
「生意気、生意気っ。えいっ」
モールは鼻をつかんでいた手を、ぴっと放す。その拍子に、フォルナの口と鼻から妙な音が漏れた。
「ぷひゃっ!」
「アハハ、『ぷひゃ』だって、アハハハハハハ」
モールは顔を真っ赤にするフォルナを見て、ゲラゲラと笑い転げていた。
晴奈は再び、カモフと話をしていた。
今回は楢崎も交え、三人で顔を突き合わせている。
「『バイオレット』隊が来てる、と。もしかしたら、アンタとモエの戦いになるかもな」
「その可能性が無いとは言えない。そう思って、お主に話を聞こうと思った次第だ」
ちなみにカモフは現在布袋ではなく、狐を模した仮面をかぶっている。カモフから「いつまでも布袋じゃ顔がかぶれそうになる。もっとすっきりしたものに変えて欲しい」と頼み込まれたからである。
「話って言うと、具体的にはどんなだ?」
カモフに尋ねられ、晴奈はこう返す。
「現在の巴美……、いや、モエの実力を伺いたい。以前に戦った時も、多少手強かった記憶があるからな」
「なるほどな。まあ、これは俺の意見だが、確かに『プリズム』の中じゃ新参者だし、見劣りしてるところもある。
だけど、腕は前より上がってる。シノハラ一派の頃に使ってた魔術剣も、一段と凄味を増してるぜ」
カモフの回答に、楢崎がうなる。
「ふむ……。僕たちの班も一度食らったことがあるが、確かに強烈だった。あれは具体的には、何系統の魔術が基礎になってるのかな?」
「風の術だ。恐らく焔流の、火術ベースの魔術剣に対して優位に立とうとした結果だろう。風術は火術に強いからな」
「……?」
魔術知識に疎い晴奈には、話の流れがつかめない。
「えーと、聞いてもいいか?」
「ん?」
「何故、風の術は火の術に強いのだ? 良く分からないのだが」
「ああ……」
カモフは丁寧に、晴奈に魔術の基礎を解説してくれた。
「魔術書の基本には大抵、『風の術は大気の流れ、空気を司る。火は空気の多寡で、激しく燃え盛ったり、一瞬にして消えたりする。風は火が火である、その根源を握るものであり、よって風は火に対して優位に立つ』ってある。
他にも諸説あるが、大体の理由はそんなとこだな」
「は、あ……」
説明されても今ひとつ理解できなかったので、晴奈はとりあえず話を進めた。
「まあ、魔術の分野で考えれば篠原一派の方が強いと取れるわけか。確かにあの飛距離と斬撃の鋭さには苦戦したな」
「もっぺん言っとくが、俺たちと戦った時より数段強くなってるぜ。今じゃ岩石くらいならズバッと斬れるほどだ。
アンタも相当強くなっただろうが、それでも苦戦するのは確実だろうな。何か対策を練っといた方がいいんじゃないか?」
カモフに助言され、晴奈は素直にうなずいた。
「ふむ。……そうだな、モール殿にでも、風の術への対策を聞いてみるとするか」
そう言って晴奈は席を立ちかけ――また、ぞくりと寒気を覚えた。
「……!」
「どした?」
「危ないッ!」
晴奈はほとんど無意識的に楢崎を蹴り飛ばし、さらに机を飛び越えてカモフに飛び掛った。
「うわっ!?」「お、ちょ!?」
楢崎は椅子から転げ落ちる。
カモフは晴奈に押される形で、壁際に叩きつけられる。
「いってぇ……」
カモフは文句を言おうと起き上がったが、目の前の光景を見て絶句した。
「……やべ、来やがった」
先程まで晴奈たちが囲んでいた机が、真っ二つに割れていた。いや、割れたのは机だけでは無い。
部屋全体が、窓から扉に向かって一直線に裂けていたのだ。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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おお。奇襲ですね。
こういうのは緊迫感も大切ですよね。
まあ、私も仕事上書いたりしますけど。。。
個人的なことながら、私のサイトが10万ヒット突破しました。
ユキノなどキャラ提供ありがとうございます!!
こういうのは緊迫感も大切ですよね。
まあ、私も仕事上書いたりしますけど。。。
個人的なことながら、私のサイトが10万ヒット突破しました。
ユキノなどキャラ提供ありがとうございます!!
- #1331 LandM
- URL
- 2012.08/24 20:31
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NoTitle
臨場感ある展開になったかと思います。
10万件おめでとうございます。
これからもよろしくお願いします。