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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・青色録 7

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    晴奈の話、第363話。
    ドクターとの再戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     しばらくにらみ合っていたが、先に仕掛けたのはシリンだった。
    「おりゃあああッ!」
     オッドのすぐ近くまで飛び込み、オッドが警戒して構えたところでジャンプし、両脚を揃えて蹴り込む――いわゆるドロップキックである。
    「っと!」
     だが、シリンの全体重が乗った蹴りを、彼女より頭2つも小さいオッドは両手をかざし、受けきった。
     シリンは空中でくるっと回って着地し、もう一度距離を取ってオッドをにらみつける。
    「……アンタも、強化とかしとるクチか」
    「そりゃあ、ねぇ。あと、首領から身体強化の魔術も教えてもらったりしてるしねーぇ」
    「見た目に惑わされんな、ってことだな。……じゃあ、遠慮しねーぞ」
     バートは両手に拳銃を構え、オッドに向かって全弾撃ち込む。
    「……うふふ、ふ」
     オッドの体に銃弾が当たる度、ガクガクとその体が震える。
     だが、これも効いていないらしい。撃ちつくしてもなお、オッドが何事も無かったかのように、ニヤニヤと笑っている。
    「……んだよ、そりゃ。鋼板も貫通する徹甲弾だぞ、今のは?」
    「アンタたちに、ちょこっと教えてあげるわぁ」
     オッドはぺっと、何かを吐き出す。床に吐きつけられたそれは、チン、と乾いた音を立てて跳ねた。
    「た……、弾を!?」
    「殺刹峰の首領、通称『ウィッチ』は昔、ものっすごぉい魔術書を手に入れたのよぉ。その本にはねぇ、現代の技術水準を大きく上回る様々な魔術が書かれていてねぇ」
     そこで言葉を切り、オッドはもう一度構えを取る。
    「例えば、物質に命を与える術。例えば、生命を変形させる術。
     そう、殺刹峰が使っている強化術は、一般的に使われているような、筋肉や神経の働きを活性化させるだけのものじゃない」
     パン、と言う音が響く。だが、これは銃の発砲音ではない。
    「ご……っ!?」
     その破裂音は、オッドが踏み込んだ際に発生したものだった。
    「筋肉自身、骨自身を変質・変形させ、バネや鋼鉄にする――今、この強化術を使っているアタシを、人間と思わない方がいいわよーぉ?」
     一瞬のうちにシリンが弾き飛ばされ、薬棚に叩き付けられる。
    「く、ぅ……っ」
    「あーら、それでおしま……」
     勝ち誇り、ニヤリと笑ったオッドの言葉がさえぎられる。
     薬棚に突っ込んだはずのシリンが、また飛び込んできたからだ。
    「お、ぉ!?」
     オッドはまた手を挙げて防ごうとする。
     だが、シリンは先程ネイビーにしたのと同じように、くい、と拳の向きを変え、オッドの腹を突いた。
    「ぐえ……!?」
    「あのクソ青猫と親子っちゅうのはホンマらしいなぁ」
     オッドの目が見開かれ、両手が下がったところで、シリンはその顔面にもう一発食らわせた。
    「防ぎ方、逃げ方が一緒や」
    「ぎにゃ……ッ!」
     鼻を殴りつけられ、オッドは顔を押さえてのた打ち回る。
    「ふ、ふぐ……、ふは、……油断したわねぇ」
     だが、オッドは床からばっと飛び跳ね、シリンから距離を取った。
    「強化したとは言え、やっぱり力任せじゃ厳しいみたいねぇ。……ちゃんと、アタシのスタイルで行くとしましょうかねーぇ」
     そう言ってオッドは腕をまくる。その手首にはずらりと、試験管が並んでいた。
    「さぁ、ドクター・オッドの人体実験ターイム……」
     オッドはくい、と手首をひねって紫色に光る試験管を取り、栓を開けた。
    「はっじまるわよー……!」



    「ゲホ、ゲホ……ッ」
     両腕を縛られ、坑道の端に打ち捨てられていたネイビーは目を覚ました。
    「う、くっ、……くそっ」
     後ろ手に縛られ、その上散々殴りつけられたため、腕と腹、顔がずきずきと痛む。
    「許さないぞ、あの馬鹿女」
     ネイビーはギリギリと歯軋りし、腕に力を込める。だが、手を縛る縄と布袋は、一向に解ける気配も、千切れる様子も無い。
    「許さない、許さない……」
     ベキ、と何かが折れる音がする。
    「許さないぞ……ッ!」
     もう一度、バキ、ゴキ、と音が鳴る。
    「ハァ、ハァ……、なりふり構っていられるか……! 手や、腕なんか、どうでもいい……!」
     もう一度ボキッと大きな音を立てて、ネイビーは起き上がった。
     と、そこに人影が現れる。
    「……!」
    「警戒しなくていいわ。わたしよ」
     その人影は、先程自分に人集めを命じたフローラだった。
    「あ、ああ。フローラさん」
    「ひどいケガね。特に、腕」
    「縛られましてね。こうするしかなかったんですよ」
    「そう。……散々ね、あなた」
     フローラの目つきが、哀れむようなものに変わる。
    「え、ええ」
    「ねえ、ネイビー」
     フローラはそっと近付き、ネイビーに耳打ちする。
    「……え?」
    「そのままの意味よ。どうする?」
     フローラの言ったことがあまりにも衝撃的だったので、ネイビーはうろたえた。
    「……いや、でも。ドクターまで……」
    「分からない? こんな事態に陥ったのは、あの二人のせいなのよ?」
    「それは、そうかも知れませんけど」
    「『ピンチこそ、最大のチャンスである』と言う言葉があるわ。今、公安が荒らしまわっている今こそ、あなたが成り上がるチャンスよ。
     今、医務室でドクターと公安の人間2人が戦っているわ。そこへ行って、選択しなさい」
    「……」
     フローラはそのまま、踵を返して立ち去った。

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    2016.08.18 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    流石にそこまでは狙って書いてはいませんが……、恐らくオッドはシリンの放った技の性質を見抜き、そう受けたものと思います。
    ただ、シリンも滅多やたらに大技を出したわけではなく、相手がその大技をどう受けたかで、防ぐ際のクセやパターンを測ったのでしょう。
    現実のプロレスラーに負けず劣らず、シリンは試合巧者です。

    NoTitle 

    ちなみにドロップキックはプロレスで絶対に怪我させない技とプロレス原則に則った非常に良い技だそうです。見栄えも良いから効果があるように私も感じていたんですけどね。意外でした。蹴るというよりか胸板を踏むイメージらしいです。
    だから、オッドが受けきったのはある意味理にかなっているという・・・。まさかそこまで読んで書かれているのでしたら、感服です。
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