「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・青色録 9
晴奈の話、第365話。
ドクターの最期。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
「何が、どうなって……?」
「俺にもさっぱりだ」
バートとシリンは顔を見合わせ、今起きたことを反芻する。
「ネイビーが、ドクターを、殺した。……だよな、今起きたことは」
「う、うん」
二人は倒れたオッドを見る。彼の背中はわずかに上下しており、まだ息があるようだった。
「お、おい。大丈夫か、その、……ドクター?」
バートはどうしようかと逡巡したが、とりあえずオッドを助け起こした。
「は、っ、はっ、……なんて、コト」
「しゃ、しゃべんない方がいいんじゃねーか?」
「し、素人判断、なんか、いらないわよ、……もう、手の、施しようが、ない。アタシは、し、死ぬわ」
「何が何だか分かんねえ。一体何で、ネイビーがアンタを殺すんだ?」
「分からない、わ。……もしか、したら、すべては、既に、決定して、いたの、かもね」
「え?」
オッドがまた血を吐く。その色は先程よりも薄く、赤から橙色に変化しつつある。
「う、ウィッチ……、あの女が、何で、アタシたちに、近付いてきたのか。目的は、何だったのか……。
ずっと、謎だった。何で、元商人の、あの女が、こんな、地下活動に、執心して、いたのか。それは、紛れも、なく、……利益の、ためだったのね」
「言ってる意味が分からねえ。何が言いたいんだ、ドクター?」
「あの、女は、最初から、カツミ暗殺なんて、目じゃなかった、のよ。
本当の、目的は、莫大な財源と、兵力を持つ、組織を、手に入れる、ことだったのよ。じゃなきゃ、アタシと、トーレンスを、殺そうと、だなんて」
「一体誰なんだ、そのウィッチってのは?」
バートが尋ねるが、オッドの反応は段々と鈍っている。鼻や口、目から流れ出ていた血も、今はもう、黄色に近い。
「うぃ、ウィッチ、……は、元商人、よ。名前は、……偽名かも、知れない、けど。クリス。クリス・ウエスト。
……初めて、会った、時は、クリス・ゴールドマンと、名乗っていたけれど」
「クリス……?」
バートは記憶を探るが、そんな人物が金火狐一族にいるなど、聞いたことが無い。
「あの女は、ずっと、狙っていたのよ。組織が、大金を生むようになり、小国くらい、攻め落とせる、ほどの、兵力を蓄える、ように、なるまで。
……とっても、貢献、してくれたから、首領と、呼ばせてきた、けど、……あ、あ、誤りだった」
オッドの目から黄色い血の他に、涙がこぼれ始めた。
「ああ、旦那サマ……! シアンは、誤りました……! この十数年の成果が、すべてあの女に、取られてしまいました……!
あなたの、あなたの願いが、叶えられなかった……! 折角、この身があなたに救われたと言うのに、恩を仇で返すことになってしまいました……!」
「お、おい、ドクター? ドクター!? ……ダメだ、聞こえてない。意識が混濁し始めてるらしい」
「無念です、旦那サマ……! ……あ、あ……、あっ……、……」
流れていた血と涙が止まる。
そして同時に、オッドの体から力が抜けていった。
ネイビーは真っ青な顔で、アジトの下層へと向かっていた。
(やってしまった……! 僕は、ドクターを……! もう、後戻りできない……!)
と、目の前にまた、フローラが現れる。
「どうやら成功したみたいね」
「ふ、フローラさん」
「おめでとう」
フローラの場違いとしか思えない賛辞に、ネイビーは固唾を飲んだ。
「な、なにが、おめでたいんですか……」
「これであなたは、次の参謀になるわ。そう、ドクターの後釜よ」
「後釜……」
得体の知れない、気色悪いめまいが、ネイビーにまとわりつく。
「後はモノさんと、公安を潰すだけよ。……そうね、あなたは戦えそうにないし、地下のモンスターを使いなさい」
「……は、い」
「よろしくね、ネイビー。……いいえ、ドクター」
このやり取りの間、フローラはずっと、とても美しい笑顔で微笑んでいた。
ネイビーにはそれが異様過ぎて、何も言い返すことができなかった。
蒼天剣・青色録 終
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ドクターの最期。
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9.
「何が、どうなって……?」
「俺にもさっぱりだ」
バートとシリンは顔を見合わせ、今起きたことを反芻する。
「ネイビーが、ドクターを、殺した。……だよな、今起きたことは」
「う、うん」
二人は倒れたオッドを見る。彼の背中はわずかに上下しており、まだ息があるようだった。
「お、おい。大丈夫か、その、……ドクター?」
バートはどうしようかと逡巡したが、とりあえずオッドを助け起こした。
「は、っ、はっ、……なんて、コト」
「しゃ、しゃべんない方がいいんじゃねーか?」
「し、素人判断、なんか、いらないわよ、……もう、手の、施しようが、ない。アタシは、し、死ぬわ」
「何が何だか分かんねえ。一体何で、ネイビーがアンタを殺すんだ?」
「分からない、わ。……もしか、したら、すべては、既に、決定して、いたの、かもね」
「え?」
オッドがまた血を吐く。その色は先程よりも薄く、赤から橙色に変化しつつある。
「う、ウィッチ……、あの女が、何で、アタシたちに、近付いてきたのか。目的は、何だったのか……。
ずっと、謎だった。何で、元商人の、あの女が、こんな、地下活動に、執心して、いたのか。それは、紛れも、なく、……利益の、ためだったのね」
「言ってる意味が分からねえ。何が言いたいんだ、ドクター?」
「あの、女は、最初から、カツミ暗殺なんて、目じゃなかった、のよ。
本当の、目的は、莫大な財源と、兵力を持つ、組織を、手に入れる、ことだったのよ。じゃなきゃ、アタシと、トーレンスを、殺そうと、だなんて」
「一体誰なんだ、そのウィッチってのは?」
バートが尋ねるが、オッドの反応は段々と鈍っている。鼻や口、目から流れ出ていた血も、今はもう、黄色に近い。
「うぃ、ウィッチ、……は、元商人、よ。名前は、……偽名かも、知れない、けど。クリス。クリス・ウエスト。
……初めて、会った、時は、クリス・ゴールドマンと、名乗っていたけれど」
「クリス……?」
バートは記憶を探るが、そんな人物が金火狐一族にいるなど、聞いたことが無い。
「あの女は、ずっと、狙っていたのよ。組織が、大金を生むようになり、小国くらい、攻め落とせる、ほどの、兵力を蓄える、ように、なるまで。
……とっても、貢献、してくれたから、首領と、呼ばせてきた、けど、……あ、あ、誤りだった」
オッドの目から黄色い血の他に、涙がこぼれ始めた。
「ああ、旦那サマ……! シアンは、誤りました……! この十数年の成果が、すべてあの女に、取られてしまいました……!
あなたの、あなたの願いが、叶えられなかった……! 折角、この身があなたに救われたと言うのに、恩を仇で返すことになってしまいました……!」
「お、おい、ドクター? ドクター!? ……ダメだ、聞こえてない。意識が混濁し始めてるらしい」
「無念です、旦那サマ……! ……あ、あ……、あっ……、……」
流れていた血と涙が止まる。
そして同時に、オッドの体から力が抜けていった。
ネイビーは真っ青な顔で、アジトの下層へと向かっていた。
(やってしまった……! 僕は、ドクターを……! もう、後戻りできない……!)
と、目の前にまた、フローラが現れる。
「どうやら成功したみたいね」
「ふ、フローラさん」
「おめでとう」
フローラの場違いとしか思えない賛辞に、ネイビーは固唾を飲んだ。
「な、なにが、おめでたいんですか……」
「これであなたは、次の参謀になるわ。そう、ドクターの後釜よ」
「後釜……」
得体の知れない、気色悪いめまいが、ネイビーにまとわりつく。
「後はモノさんと、公安を潰すだけよ。……そうね、あなたは戦えそうにないし、地下のモンスターを使いなさい」
「……は、い」
「よろしくね、ネイビー。……いいえ、ドクター」
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ネイビーにはそれが異様過ぎて、何も言い返すことができなかった。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
う~む。ドクター死んでしまいましたね。
良いキャラクターなんですけどね。
やはり、マッドサイエンティストは死に際もマッドでないと駄目ですね。
良いキャラクターなんですけどね。
やはり、マッドサイエンティストは死に際もマッドでないと駄目ですね。
- #1468 LandM
- URL
- 2012.11/27 08:55
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NoTitle
殺刹峰編はマッドなキャラがゴロゴロ出て来ますが、
その中でもかなりの存在感を示してくれた好キャラです。
最期も奇怪なまま、終わってくれました。
「双月世界小話」にも彼? の活躍が描かれていますので、
よければそちらもご覧ください。