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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・想起録 1

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    晴奈の話、第366話。
    「女神」の気紛れ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「……! ……!」
     誰かが自分を呼んでいる。
    「どうしたんだい、……?」
    「う、ううん」
     自分は一瞬後ろを振り返ったが、すぐ向き直る。前にいる者と話すのが、とても楽しいからだ。
    「さあ、投げた投げた」
    「うんっ」
     自分は手に持っていた鞠をポンと投げ、少し離れたところに立っている男へ投げ渡す。
    「……は昨日、初めて岬の方に行ったんだよね」
    「うん」
     男と自分は鞠を投げあいながら、とりとめも無く話をする。
    「どうだった?」
    「きれいだったよ」
    「そうか、そうか」
    「うみも、そらも、まっさおで。くもはまっしろで」
    「うんうん、青江の夏の名物だもの」
    「せい、……こ、う?」
    「君が今、住んでいる街の名前だよ。ここは青江って言うんだよ」
    「そうなんだ。……せいこう」
    「うん、青江」
     幼い自分の頭に、新しい知識が蓄えられる。それが嬉しくて、自分ははしゃいでいた。
    「せいこう、せいこうっ。ぼくはせいこうにすんでるっ」
    「……ふふっ」
     突然、男が笑い出した。とても温かい、その男らしい笑い方だ。
    「どうしたの?」
    「ああ、いや、うん。……楽しいね、シュンヤ」
    「うん」

    「ジュン!」



    「ジュン! ジュン! 起きろ!」
     ジュンは誰かに揺り起こされ、目を覚ました。
    「ん、……うあ?」
    「寝ぼけている場合ではない」
    「大変やで! 攻めてきおったんや!」
     机からぼんやりと頭を上げ、辺りを見回してみる。そこはアジト内の図書室だった。横にはヘックスと、ミューズの二人が立っている。
    「……あ、ヘックスさん、ミューズさん、おはようございます」
    「言うてる場合か! ……ヤツらが、公安が入り込んできよったんや!」
    「こうあん? ……公安ですって!?」
    「ああ。それで今しがた、私とフローラ、ネイビーが呼び戻された。ペルシェは行軍途中の地点で待機している」
    「ほれ、早よ顔洗って目ぇ覚ましてこい」
     そう言って、ヘックスは手を差し出した。
    「あ、はい」
     ジュンはヨタヨタと椅子から立ち上がった。
     と、急にミューズが険しい顔になる。
    「……待て。少し、気になるものが見える」
    「え?」
     ミューズはそっとジュンの側に寄り、顔を近づける。
    「あ、あの? ミューズさん?」
    「何の夢を見た?」
    「え? ……昔の、えっと、鞠遊びをしていた夢を」
    「昔だと?」
     ミューズに聞き返されて、自分も気付いた。
    「……昔? 記憶が、……戻ってる?」

    「あの、ミューズさん。ホンマに時間、無いんですけども」
    「分かっている」
     ミューズはジュンをもう一度椅子に座らせ、彼の頭を両手で抱え、じっと目をつぶっている。
    「何してはるんですか、一体?」
    「成功すれば、後でお前にもしてやろう」
    「はい?」
    「……、そうか。お前はシュンヤと言うのだな」
    「へっ?」
     ミューズの唐突な言葉に、ジュンは戸惑った。
    「シュンヤ? いえ、僕はジュン……」
    「育った場所はセイコウ。夏の青空と海は、その街の名物。……ふむ」
    「あ、あの? 何を言ってるんですか?」
     ミューズは目を開き、ジュンの目をじっと見つめた。
    「お前の夢を読んだ。
     ドクターから聞いた話だが、夢と言うのは己の古い記憶を整理する働きがあるそうだ。そしてそれは、意識的・物理的な操作の奥に眠っている記憶も掘り起こすのだと」
    「……言うてる意味、さっぱり分からへんのですが」
    「お前たちは記憶が無いと言っていたな? もしそれが何らかの衝撃による記憶喪失、もしくは洗脳の類によるものであっても、夢の中まではその影響は及ばない。
     今、夢によって掘り起こされた記憶の欠片から、ジュンの記憶を戻せるだけ戻してみよう」
    「ミューズさん、何でそんなコトを?」
     唖然とするヘックスに対し、ミューズはイラついたような表情を浮かべる。
    「時間が無い、と言うのは分かっている。だが……」「あ、いや」
     ヘックスはバタバタと手を振り、思ったことを素直に述べる。
    「ドミニク先生やドクター側のミューズさんが、何であの人たちの邪魔をするようなコトするんかな、って」
    「……? 意味が分からないな。記憶を失ったことと、ドクターたちに何の関係が?」
    「え……?」
    「まあ、いい。ともかくこれは、味方に対する手助け、サービスみたいなものだ。……過分に、私の興味も関係しているが、な」
     ミューズはまた、目を閉じた。
    「少し、頭が痛くなるかも知れない。我慢してくれ」
    「は、はい」
     応えた次の瞬間、ジュンの頭の奥から、まるで頭にひびが入ったような痛みが噴き出してきた。
    「……っ!」
     ジュンはそのまま、意識を失った。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    殺刹峰によって頑丈に鍵をかけられたタンスを、ミューズは半ば無理無理にこじ開けています。
    タンスが壊れないか、ちょっと心配。

    NoTitle 

    記憶喪失の類もあれですね。
    脳が丸ごと損傷することはないですからね。
    要するに記憶を収納しているタンスが開かなくなっている・・・というのが正しいですからね。タンスが丸ごと壊れていたら・・・それはおどろおどろしいことになりますしね。
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