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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・想起録 2

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    晴奈の話、第367話。
    明らかになった行方。

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    2.
    「……目、覚めたか?」
     ジュンはまた、机から顔を上げた。
    「あ、はい」
     夢の中から引き起こされた先程と違って、頭の中は妙に澄み渡っている。心なしか、声をかけてきたヘックスの顔もすっきりしているように見える。
    「……思い出したんや、全部」
    「え?」
    「ミューズさん、ホンマに感謝しますわ」
    「礼などいい。洗脳が魔術で解けると分かっただけでも、魔術師の私としてはいい収穫になった」
    「はは……」
     ヘックスは妙に浮かれた顔をしている。
    「あの、ヘックスさん。思い出したって……」「ケインや」「え?」
     ヘックスはニヤ、と笑って椅子に座り込んだ。
    「オレの、ホンマの名前。ケイン・ロッシーやった。……何や、ヘックス・シグマて」
    「じゃあ、本当に……」
    「ああ、思い出した。……そうや、確かにコウの言う通りやった。オレは央中東部の、カッパーマインっちゅうところの出身や。荒れた街で、オレは死にかけたところをドミニク先生に拾ってもろたんや、……けど」
     記憶を取り戻して躁状態になっているのか、次第に怒り始めた。
    「それと記憶消されるっちゅうのは、別の話や! ふざけんなや、あのオッサン!」
    「怒っている場合ではないだろう、ヘックス、……いや、ケインと呼んだ方がいいか?」
     ミューズがたしなめると、ヘックスは一瞬動きを止め、ポリポリと頬をかいた。
    「……あー、でもなー。あんまり『ケイン』やった時の思い出に、えーコト無いからなぁ。めんどいし、ヘックスのままでえーわ。
     そんでジュン、お前の名前は何やったんや?」
     ヘックスに問われ、ジュンは改めて自分の記憶を探った。
    「……シュンヤ、です。僕は、……楢崎瞬也」



     記憶を取り戻したとは言え、今は緊急事態である。ともかく3人は、他の「プリズム」を探す前に、一旦医務室に戻ることにした。
    「少しでも人を集めておきたいからな。ドクターも心細いだろう」
    「せやな、……ホンマ言うとドクターにも腹立っとるんやけどな」
    「でも、ドクターは何だかんだ言っていい人ですよ。……ちょっと趣味とか、どうかなって思いますけど」
     精神的にかけられていた枷が無くなったせいか、ヘックスもジュン――瞬也も、饒舌になっている。
    「まあ、なあ。オレたちがケガしたら、ものすごい心配してくれはるし」
    「気前もいいですよね。よくお菓子とかお茶とかもらいました」
    「とは言え洗脳を指示したのも、恐らく彼だろう。……罪滅ぼしのつもりなのかも知れんな」
    「……そう考えると、やっぱりムカつくなぁ」
     オッドについてあれこれとしゃべりながら進んでいるうちに、医務室に到着する。
    「ドクター、ヘックスとジュンを……」
     ミューズが声をかけながら医務室のドアを開け、そこで立ち止まる。
    「何だ、これは?」
     医務室の中は滅茶苦茶に荒らされており、その中央には公安らしき狐獣人の男と、非常に体格のいい虎獣人の女が、オッドを抱えるような形でしゃがみ込み、揃って呆然としていた。
    「な、何や? お、え、……ドクター?」
    「……今、死んだ」
     うろたえつつ声をかけたヘックスに対し、黒服姿の「狐」も、困惑しているらしい様子で応じてくる。
     ミューズは警戒する様子を見せつつ、その二人に尋ねた。
    「お前が殺したのか?」
    「違う」
    「そこの女か?」
    「ちゃう」
    「では、誰が?」
    「ネイビーとか言う、青い髪の猫獣人だ」
    「……はぁ?」
     それを聞いて、ヘックスは信じられない、と言いたげな声を漏らす。
    「アホか、何でネイビーさんがドクターを殺さなアカンねん? 下手な嘘言いなや、ボケ」
    「いや、嘘でも無いらしいぞ」
     事切れたオッドの側にミューズが座り、その死に顔をしげしげと見つめる。
    「遺体の状況からすると、死因はどうやら強化薬を過剰摂取したことによるものらしい。つまり、誰かに過剰に薬を打たれて死んだのだ。我々の強化薬を、な。
     それがもし公安の仕業だとして、何故奴らが我々の薬を使う? わざわざ使う理由が無いし、ましてや我々が開発した薬を、それもドクターに効果があるようなものを持っているわけが無い。
     無論、確かにこの部屋を探れば薬を入手することは可能だろうが、敵であるドクターを目の前にして棚をじっくり物色していると言う状況は、現実的とは到底言えない。
     それを考えれば、公安の仕業では無いと言うことは自明だ」
    「……まあ、そう、やな」
    「あー……、ちょっと聞いてもええ?」
     うずくまっていた「虎」が、ヘックスに顔を向けた。
    「アンタ、どこかで会ったコトあらへん? 何か見覚え、……ちゅうか、方言に聞き覚えあるんやけど」

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    2016.08.28 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    確かに記憶喪失と言う設定は、名前の書き方に悩みますね。
    その難点を逆に何かのトリック、読者さんを(いい意味で)だます方法として使えないかと思ってしまったりもしますが。

    NoTitle 

    人は人であり、つながりを持って生きている生き物ですから、
    名前は一種記号みたいなものなんですよね。

    ヘックスであっても、ケインであっても
    名前が違うだけで、その人の存在は変わらないですし。
    記憶喪失もそれを考えると小説で書くと結構難儀だな・・・。

    ・・・と、小説を読んでいて思う。

    私もいま公開していますけど、
    名前だけ覚えている記憶喪失というご都合主義なんですよね。
    ヒロインの名前が途中で変わると混乱しますからね。
    読者が。
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