「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・想起録 5
晴奈の話、第370話。
地獄の百鬼夜行。
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5.
小鈴たち三人は、元来た道を必死で駆け上がる。
「だから、この階段、……ハァハァ、ゆるやか、だったのね」
「モンスターを、……ゼェゼェ、運び出す、道だったって、……ゲホッ、わけですかぁ」
「話してる、場合じゃないよ! ともかく、振り切るか、逃げ込むか、しないと!」
だが、階段を上りきっても、モンスターたちとの差は縮まらない。むしろ、その足音すら聞こえるほどに近づいてきている。
「……こーなったら!」
小鈴が立ち止まり、呪文を唱え始める。
「最大パワー……、『ロックガード』!」
通路の四方からにょきにょきと岩石が伸び出て、壁を作り出す。
「コレで、多少は時間稼ぎが、……ゲホ、ゲホッ」
瞬間的に大量の魔力を消費し、小鈴の呼吸が乱れる。
「だ、大丈夫かい!?」
「つ、疲れたぁ」
「立ち止まってもいられないよ! ……さ、僕の背に乗って!」
楢崎がしゃがみ込み、小鈴に背を向ける。
「あ、ありがとー」
楢崎は小鈴を背負い、勢い良く走り出す。エランもバタバタと足音を立てて、それに続く。
「ともかく、みんなと合流しよう! 僕たちだけでは、どうにもできない!」
「はっ、はい!」
と、後ろの方からごす、ごすと言う鈍い音が響いてきた。モンスターたちが小鈴の造った壁を破ろうとしているのだ。
「あの感じだと、もって5分かも」
背中から聞こえる小鈴の声に、楢崎は「……急ごう」とだけ返した。
一方、バートとシリンも晴奈たちが分かれた三叉路を抜け、小鈴たちがいる方に向かっていた。
「こっちで良かったんかなぁ? 看板とかあらへんもんなぁ」
「どうだろうな……」
二人で思案しながら歩いていると、前方から足音が聞こえてくる。
「敵か……?」
シリンが構えたところで、通路の奥から楢崎たちが走ってきた。
「お、ナラサキさんやん」
「ああ、良かった! 大変なんだ、実は……」
楢崎が小鈴を背から降ろしながら説明しようとしたところで、またモンスターの咆哮が聞こえてくる。どうやら壁を破り、またも近づいてきているらしい。
「……と言うわけなんだ」
「マジかよ」
バートは顔色を変え、すぐに銃を構える。それを見たエランがそっと声をかけた。
「あ、先輩。もし良かったら、銃弾欲しいんですが……」「うお!?」
バートは声を上げ、エランの顔をしげしげと眺めえう。
「誰かと思ったら、エランかよ!? 何だ、そのヒゲ面」
「ずっと監禁されてたんですから、そりゃこうなりますよ……。あの、それで銃弾を」「お、おう。……ほらよ」
バートから銃弾を受け取ったエランは急いで銃を取り出し、装填する。それを横目で見ていた小鈴が、深呼吸しながら尋ねる。
「はあ、はあ……。こっちは5人、あっちは何体いるのかしら」
「恐らくこちらの倍はいるだろうね、あの足音からすると。やはり、黄くんたちと合流した方が良さそうだ」
「そーね、んじゃ……」
小鈴が踵を返しかけた、その時だった。
ガン、と激しい金属音が前から響く。
「な、何!?」
「あ……!」
向かおうとした先に、柵が落ちたのである。
「くそ、封鎖されたか!」
「ここで僕たちを仕留めるつもりらしい! 早く引き上げないと、……ふぬ、っ……!」
楢崎が柵を引き上げようとするが、先程のものと違い、なかなか動かない。
「変、だな、ちっとも、動か、ない、……ぐっ、……ぬっ、……引っかかってる、感じが、……ぬううっ……」
「返しかなんか付いてんだろうな、……ああくそ、近付いて来る!」
「開け、開けええええ……ッ!」
バートとシリンも楢崎に加勢するが、やはり柵はびくともしない。
「ど、どうするんですか!?」
柵と背後とをきょろきょろ見返すエランに、小鈴が半ば怒鳴るように言った。
「どうもこうも無いわよ! 覚悟決めなさい!」
小鈴はもう一度深呼吸し、「鈴林」を構える。他の四人も柵を破るのを諦め、モンスターが寄って来るのを待ち構えた。
「……来たか!」
「でけぇ!?」
やってきたのは体長3メートルはあろうかと言う、恐ろしくけばけばしい体毛をした、何かの獣だった。
「何か」と言うのは――。
「……何だありゃ?」
「脚は、……虎? 尻尾は、……何?」
「何かウネウネ動いてますよ……」
「もしかして、蛇、なのかな」
「なあ、……なんや、羽生えてへんか?」
「あ、ああ……。コウモリみたいな、羽、だな」
五人がこれまで見たことの無いような、異様な形を成していたからだ。それはもう、「何か」と形容するしかなかった。
と、その頭部を見て、シリンが息を呑む。
「……マジェスタ?」
「え?」
「あ、あの、顔……。ウチと、……」
突然、シリンはうずくまる。
「ウチと、エリザリーグで戦ったヤツや……」
それを聞いたバートの血相が変わる。
「そうか……。そう言や、俺がクラウン一味の潜入捜査を始めたきっかけも、518年後期エリザリーグの出場者が消えたから、だった。
そう、エイト・マジェスタだったっけ。……お前と同じ、『虎』の」
「……いなくなったと思うてたら、こんなトコにおったんか。
次も、一緒に頑張ろなー、って、言うてたのに。何で、急にいーひんなったんやろって、思てたんや。……そっか、そうやったんやな……そっか……」
シリンがふらりと立ち上がり、前に進む。
「……もう嫌や、こんな地獄」
次の瞬間、ベチっと言う鈍く、重たい音が通路に響く。
「もう嫌やあぁぁ! こんな、……こんな、えげつないクソ組織、とっとと潰したるうぅぅぅッ!」
シリンは泣きながら、そのモンスターを蹴り飛ばしていた。
小鈴たち五人は、何匹ものモンスター相手に、敢然と戦った。
どれもこの世のものとは思えない、異形の猛獣たちを、十匹、二十匹と屠っていく。
そしてロウの直接の仇だった、あの男も――。
「……今度は、クラウンかよ」
「すっかり……、変わり果ててしまった、ようだね」
「……あたしももう、気がおかしくなりそう」
どのモンスターも、顔にまだ、人間だった時の名残を残していたが、それがかえって、五人の士気を落としていく。
「ブゴッ、ゴッ、……ゴアアアアア!」
爛々と照り光る赤く濁った目が、五人をにらみつけてくる。
「……くそ、弾切れだ!」「こ、こっちももうありません!」
バートとエランが青ざめる。
「ハァ、ハァ……、ゲホ、うえええ……」
小鈴がこらえきれず、えづきだす。
「ひーっ、ひーっ……」
シリンの精神も限界に達したらしく、仁王立ちになったまま動かない。
「……くそっ、これまでか」
五人全員が、死を覚悟した。
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地獄の百鬼夜行。
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小鈴たち三人は、元来た道を必死で駆け上がる。
「だから、この階段、……ハァハァ、ゆるやか、だったのね」
「モンスターを、……ゼェゼェ、運び出す、道だったって、……ゲホッ、わけですかぁ」
「話してる、場合じゃないよ! ともかく、振り切るか、逃げ込むか、しないと!」
だが、階段を上りきっても、モンスターたちとの差は縮まらない。むしろ、その足音すら聞こえるほどに近づいてきている。
「……こーなったら!」
小鈴が立ち止まり、呪文を唱え始める。
「最大パワー……、『ロックガード』!」
通路の四方からにょきにょきと岩石が伸び出て、壁を作り出す。
「コレで、多少は時間稼ぎが、……ゲホ、ゲホッ」
瞬間的に大量の魔力を消費し、小鈴の呼吸が乱れる。
「だ、大丈夫かい!?」
「つ、疲れたぁ」
「立ち止まってもいられないよ! ……さ、僕の背に乗って!」
楢崎がしゃがみ込み、小鈴に背を向ける。
「あ、ありがとー」
楢崎は小鈴を背負い、勢い良く走り出す。エランもバタバタと足音を立てて、それに続く。
「ともかく、みんなと合流しよう! 僕たちだけでは、どうにもできない!」
「はっ、はい!」
と、後ろの方からごす、ごすと言う鈍い音が響いてきた。モンスターたちが小鈴の造った壁を破ろうとしているのだ。
「あの感じだと、もって5分かも」
背中から聞こえる小鈴の声に、楢崎は「……急ごう」とだけ返した。
一方、バートとシリンも晴奈たちが分かれた三叉路を抜け、小鈴たちがいる方に向かっていた。
「こっちで良かったんかなぁ? 看板とかあらへんもんなぁ」
「どうだろうな……」
二人で思案しながら歩いていると、前方から足音が聞こえてくる。
「敵か……?」
シリンが構えたところで、通路の奥から楢崎たちが走ってきた。
「お、ナラサキさんやん」
「ああ、良かった! 大変なんだ、実は……」
楢崎が小鈴を背から降ろしながら説明しようとしたところで、またモンスターの咆哮が聞こえてくる。どうやら壁を破り、またも近づいてきているらしい。
「……と言うわけなんだ」
「マジかよ」
バートは顔色を変え、すぐに銃を構える。それを見たエランがそっと声をかけた。
「あ、先輩。もし良かったら、銃弾欲しいんですが……」「うお!?」
バートは声を上げ、エランの顔をしげしげと眺めえう。
「誰かと思ったら、エランかよ!? 何だ、そのヒゲ面」
「ずっと監禁されてたんですから、そりゃこうなりますよ……。あの、それで銃弾を」「お、おう。……ほらよ」
バートから銃弾を受け取ったエランは急いで銃を取り出し、装填する。それを横目で見ていた小鈴が、深呼吸しながら尋ねる。
「はあ、はあ……。こっちは5人、あっちは何体いるのかしら」
「恐らくこちらの倍はいるだろうね、あの足音からすると。やはり、黄くんたちと合流した方が良さそうだ」
「そーね、んじゃ……」
小鈴が踵を返しかけた、その時だった。
ガン、と激しい金属音が前から響く。
「な、何!?」
「あ……!」
向かおうとした先に、柵が落ちたのである。
「くそ、封鎖されたか!」
「ここで僕たちを仕留めるつもりらしい! 早く引き上げないと、……ふぬ、っ……!」
楢崎が柵を引き上げようとするが、先程のものと違い、なかなか動かない。
「変、だな、ちっとも、動か、ない、……ぐっ、……ぬっ、……引っかかってる、感じが、……ぬううっ……」
「返しかなんか付いてんだろうな、……ああくそ、近付いて来る!」
「開け、開けええええ……ッ!」
バートとシリンも楢崎に加勢するが、やはり柵はびくともしない。
「ど、どうするんですか!?」
柵と背後とをきょろきょろ見返すエランに、小鈴が半ば怒鳴るように言った。
「どうもこうも無いわよ! 覚悟決めなさい!」
小鈴はもう一度深呼吸し、「鈴林」を構える。他の四人も柵を破るのを諦め、モンスターが寄って来るのを待ち構えた。
「……来たか!」
「でけぇ!?」
やってきたのは体長3メートルはあろうかと言う、恐ろしくけばけばしい体毛をした、何かの獣だった。
「何か」と言うのは――。
「……何だありゃ?」
「脚は、……虎? 尻尾は、……何?」
「何かウネウネ動いてますよ……」
「もしかして、蛇、なのかな」
「なあ、……なんや、羽生えてへんか?」
「あ、ああ……。コウモリみたいな、羽、だな」
五人がこれまで見たことの無いような、異様な形を成していたからだ。それはもう、「何か」と形容するしかなかった。
と、その頭部を見て、シリンが息を呑む。
「……マジェスタ?」
「え?」
「あ、あの、顔……。ウチと、……」
突然、シリンはうずくまる。
「ウチと、エリザリーグで戦ったヤツや……」
それを聞いたバートの血相が変わる。
「そうか……。そう言や、俺がクラウン一味の潜入捜査を始めたきっかけも、518年後期エリザリーグの出場者が消えたから、だった。
そう、エイト・マジェスタだったっけ。……お前と同じ、『虎』の」
「……いなくなったと思うてたら、こんなトコにおったんか。
次も、一緒に頑張ろなー、って、言うてたのに。何で、急にいーひんなったんやろって、思てたんや。……そっか、そうやったんやな……そっか……」
シリンがふらりと立ち上がり、前に進む。
「……もう嫌や、こんな地獄」
次の瞬間、ベチっと言う鈍く、重たい音が通路に響く。
「もう嫌やあぁぁ! こんな、……こんな、えげつないクソ組織、とっとと潰したるうぅぅぅッ!」
シリンは泣きながら、そのモンスターを蹴り飛ばしていた。
小鈴たち五人は、何匹ものモンスター相手に、敢然と戦った。
どれもこの世のものとは思えない、異形の猛獣たちを、十匹、二十匹と屠っていく。
そしてロウの直接の仇だった、あの男も――。
「……今度は、クラウンかよ」
「すっかり……、変わり果ててしまった、ようだね」
「……あたしももう、気がおかしくなりそう」
どのモンスターも、顔にまだ、人間だった時の名残を残していたが、それがかえって、五人の士気を落としていく。
「ブゴッ、ゴッ、……ゴアアアアア!」
爛々と照り光る赤く濁った目が、五人をにらみつけてくる。
「……くそ、弾切れだ!」「こ、こっちももうありません!」
バートとエランが青ざめる。
「ハァ、ハァ……、ゲホ、うえええ……」
小鈴がこらえきれず、えづきだす。
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シリンの精神も限界に達したらしく、仁王立ちになったまま動かない。
「……くそっ、これまでか」
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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

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未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
年末ご挨拶
所謂キメラや鵺の類ですね。
夢を喰らうというよりかは、人そのものを喰らう生き物ですね。
しかし、今ではキメラ分子による植物も出来てきてますから、あながたファンタジーではなくてSFになってきつつありますよね。。。
クリスマスも終わり、今年もあとわずかですね。
ユキノたちの提供ありがとうございます。
おかげでよい小説ができました。
来年もがんばっていきますので、
またよろしくお願いします。
夢を喰らうというよりかは、人そのものを喰らう生き物ですね。
しかし、今ではキメラ分子による植物も出来てきてますから、あながたファンタジーではなくてSFになってきつつありますよね。。。
クリスマスも終わり、今年もあとわずかですね。
ユキノたちの提供ありがとうございます。
おかげでよい小説ができました。
来年もがんばっていきますので、
またよろしくお願いします。
- #1481 LandM
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- 2012.12/27 13:45
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NoTitle
別の生き物にしようとして途中でやめた、と言う感じですね。
実験に次ぐ実験で兵士の用を成さなくなり、
魔術と薬学の臨床試験に回されたなれの果てです。
そんなのが知人、友人の顔を残したまま襲ってきたら、
シリンじゃなくても泣きます。
こちらこそ、本年中は大変お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。