「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・邪心録 1
晴奈の話、第372話。
語るモール。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
小鈴たちがネイビーを退けた一方で、晴奈も敵に遭遇していた。
「はあッ!」
「く……ッ!」
相手は、キリアである。
しかし苦戦を強いられた小鈴たちとは違い、こちらはさほど苦しめられても、競り合っているわけでもなかった。
力量、経験、どれをとっても、晴奈が圧倒していたからである。
「いい加減、に……!」
キリアが薙刀を振り回し、あの不可視の斬撃、「三連閃」を放つ。
「甘いッ! 既にその技は見切っているッ!」
晴奈がキリアの放った技を紙一重で避け、薙刀の先端に「火射」を当て、焼き切った。
「あ……っ」
「勝負あったな」
キリアは刃が無くなり、ただの棒となった薙刀を捨て、その場に座り込んだ。
「……私の負けね。殺しなさい」
「断る」
晴奈は刀を納め、キリアの横を通り過ぎようとする。
「敵に情けをかけるつもり?」
「いいや」
晴奈はくる、とキリアの方に顔を向けてこう言った。
「勝負が決したと言うのに、わざわざ刺さずとも良いとどめを刺すほど、私は血に飢えていないし、暇でも無い。大人しくそこでじっとしているがいい」
「もしかしたら」
キリアが食い下がる。
「あなたが背を向けた瞬間、そこに落ちた薙刀の先端を、あなたに向かって投げるかもしれないじゃない。それなのにとどめは、刺さないと?」
「愚問だ。そんなものを食らう私では無いし、刃は既に焼いて潰している」
「……勝てる要素なんて無かった、ってわけね」
晴奈はそれ以上応えようとせず、モールたちが向かった先へと向かおうとした。
晴奈たちが選んだ道は、幹部たちの居住区、そして執務区だった。当然警備も厳重だったが、晴奈とモールの敵ではなかった。
正面突破に成功し、晴奈たちはモノたちの執務室の、一つ手前まで進んでいた。ところがそこに、薙刀を持ったキリアが待ち構えていたのだ。
晴奈はキリアを足止めし、モールとジュリアを先へと進めさせた。
「モノ……、とか言うのはいないみたいだねぇ」
「ええ、そのようね」
キリアの警備を抜けたモールとジュリアは、モノの執務室に押し入っていた。ところが、部屋の主はどこにも見当たらない。
「ま、いなきゃ相手しないだけだけどね。残るは、オッドって言うオカマ猫と、……あいつか」
「あいつ? モノと、オッドと……、他の幹部と言うと」
「ほれ、のっぺらぼうが言ってたじゃないね、『首領』って」
「ああ」
そこでジュリアは、モールの言い方が気にかかった。
「ねえ、モールさん。『あいつ』って言っていたけれど、その首領が誰だか、分かっているような言い方ね? 知っているの?」
「……確証は無いけど、多分知ってるヤツだね」
「それは一体、誰なの?
我々の捜査網においても、央北に入るまで一度もその輪郭すら浮かばなかった人物――通称や経歴、種族、性別に至るまで、その個人情報の一切が浮上しなかった人物――を、何故あなたが知っているのかしら?」
「一々しゃべりがくどいね、赤毛」
モールはモノが使っているであろう机に腰掛け、杖をさすりながら語り始めた。
「私は一度、あいつとある意味で、ニアミスしたんだ。昔、ある本を探していた時にね。
そいつは私の前に、数十人もの手下を差し向けてきた。んで、『あなたの秘術、神器、経験……、いいえ、すべてを奪う』ってご大層にのたまって、私を襲ったんだ。戦った時、私がずっと捜し求めていた本の内容に、限りなく近い術を――とてもとても古い術式をベースにしていたから、それだとすぐに理解できた――使って、私を央北中追っかけまわしたんだ」
「それ、同じような話をコスズから聞いたことがあるわ。あなたが、追いかけられていたのね」
「ああ、小鈴とはその時に知り合った。……ハハハ」
「……?」
「ま、関係ないけど、小鈴と会った時に、懐かしい子とも会ったりしてね。今では楽しい話だけど。
でもその時は、本気で最悪の状況だったね。私は――比喩でなく――一度死んだ。でも、私の術やら神器やらは奪われずに済んだし、何とかヤツらに捕まるコト無く、央北を脱出できた。
……今思えば、あそこで逃げなきゃ、あいつの尻尾をつかむコトくらいはできたんだ。当時の私は、その手下共が使ってたのは『原本』のコピー術としか思ってなかったし、あいつが裏で手を引いてるなんて、思いもしなかったからね。
よくよく無駄足を踏んじゃったもんだね、まったく」
「ねえ、モールさん。あなたも話し方がくどいわね?」
ジュリアに突っ込まれ、モールは耳をピクリとさせる。
「あん?」
「いつまでも『あいつ』『あいつ』と言われても、ピンと来ないわ。その人、名前は何と言うの?」
「……あー、うん。確かに、ね。
そいつの名前はクリス・ゴールドマン。でも多分、本名じゃないね。本当の金火狐一族なら起こっている戦争に乗っかりこそすれ、自分から戦争を仕掛けるようなコトはしないからね」
「クリス……?」
「元は、中央大陸を渡り歩く書籍商だった。価値の高い本を集め、売買するのが生業。その本を手に入れたのも、その商売の関係だった。
もう30年以上も前に、央南人の古美術商で柊雪花と言う女が、その本を手に入れたんだ。んで、古い本だってコトで、商人仲間だったクリスに売った。その後、クリスはその本の価値に気付き、解析を進めると共に一部分、一部分をあっちこっちの魔術師に売りまくった。
知ってるかい、赤毛。ちょっと前に央南で起こった、天原家騒乱。あの事件を起こした張本人の天原桂もその一部分、コピー本を持ってたんだ」
「アマハラ……、聞いたことがあるわね。確か、様々な人間を誘拐し、人体実験を行っていたとか」
「そう。その人体実験の成果こそ、その本に載っていた内容そのもの――人間をモンスターへと変化させる、『魔獣の本』の内容なんだ」
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語るモール。
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小鈴たちがネイビーを退けた一方で、晴奈も敵に遭遇していた。
「はあッ!」
「く……ッ!」
相手は、キリアである。
しかし苦戦を強いられた小鈴たちとは違い、こちらはさほど苦しめられても、競り合っているわけでもなかった。
力量、経験、どれをとっても、晴奈が圧倒していたからである。
「いい加減、に……!」
キリアが薙刀を振り回し、あの不可視の斬撃、「三連閃」を放つ。
「甘いッ! 既にその技は見切っているッ!」
晴奈がキリアの放った技を紙一重で避け、薙刀の先端に「火射」を当て、焼き切った。
「あ……っ」
「勝負あったな」
キリアは刃が無くなり、ただの棒となった薙刀を捨て、その場に座り込んだ。
「……私の負けね。殺しなさい」
「断る」
晴奈は刀を納め、キリアの横を通り過ぎようとする。
「敵に情けをかけるつもり?」
「いいや」
晴奈はくる、とキリアの方に顔を向けてこう言った。
「勝負が決したと言うのに、わざわざ刺さずとも良いとどめを刺すほど、私は血に飢えていないし、暇でも無い。大人しくそこでじっとしているがいい」
「もしかしたら」
キリアが食い下がる。
「あなたが背を向けた瞬間、そこに落ちた薙刀の先端を、あなたに向かって投げるかもしれないじゃない。それなのにとどめは、刺さないと?」
「愚問だ。そんなものを食らう私では無いし、刃は既に焼いて潰している」
「……勝てる要素なんて無かった、ってわけね」
晴奈はそれ以上応えようとせず、モールたちが向かった先へと向かおうとした。
晴奈たちが選んだ道は、幹部たちの居住区、そして執務区だった。当然警備も厳重だったが、晴奈とモールの敵ではなかった。
正面突破に成功し、晴奈たちはモノたちの執務室の、一つ手前まで進んでいた。ところがそこに、薙刀を持ったキリアが待ち構えていたのだ。
晴奈はキリアを足止めし、モールとジュリアを先へと進めさせた。
「モノ……、とか言うのはいないみたいだねぇ」
「ええ、そのようね」
キリアの警備を抜けたモールとジュリアは、モノの執務室に押し入っていた。ところが、部屋の主はどこにも見当たらない。
「ま、いなきゃ相手しないだけだけどね。残るは、オッドって言うオカマ猫と、……あいつか」
「あいつ? モノと、オッドと……、他の幹部と言うと」
「ほれ、のっぺらぼうが言ってたじゃないね、『首領』って」
「ああ」
そこでジュリアは、モールの言い方が気にかかった。
「ねえ、モールさん。『あいつ』って言っていたけれど、その首領が誰だか、分かっているような言い方ね? 知っているの?」
「……確証は無いけど、多分知ってるヤツだね」
「それは一体、誰なの?
我々の捜査網においても、央北に入るまで一度もその輪郭すら浮かばなかった人物――通称や経歴、種族、性別に至るまで、その個人情報の一切が浮上しなかった人物――を、何故あなたが知っているのかしら?」
「一々しゃべりがくどいね、赤毛」
モールはモノが使っているであろう机に腰掛け、杖をさすりながら語り始めた。
「私は一度、あいつとある意味で、ニアミスしたんだ。昔、ある本を探していた時にね。
そいつは私の前に、数十人もの手下を差し向けてきた。んで、『あなたの秘術、神器、経験……、いいえ、すべてを奪う』ってご大層にのたまって、私を襲ったんだ。戦った時、私がずっと捜し求めていた本の内容に、限りなく近い術を――とてもとても古い術式をベースにしていたから、それだとすぐに理解できた――使って、私を央北中追っかけまわしたんだ」
「それ、同じような話をコスズから聞いたことがあるわ。あなたが、追いかけられていたのね」
「ああ、小鈴とはその時に知り合った。……ハハハ」
「……?」
「ま、関係ないけど、小鈴と会った時に、懐かしい子とも会ったりしてね。今では楽しい話だけど。
でもその時は、本気で最悪の状況だったね。私は――比喩でなく――一度死んだ。でも、私の術やら神器やらは奪われずに済んだし、何とかヤツらに捕まるコト無く、央北を脱出できた。
……今思えば、あそこで逃げなきゃ、あいつの尻尾をつかむコトくらいはできたんだ。当時の私は、その手下共が使ってたのは『原本』のコピー術としか思ってなかったし、あいつが裏で手を引いてるなんて、思いもしなかったからね。
よくよく無駄足を踏んじゃったもんだね、まったく」
「ねえ、モールさん。あなたも話し方がくどいわね?」
ジュリアに突っ込まれ、モールは耳をピクリとさせる。
「あん?」
「いつまでも『あいつ』『あいつ』と言われても、ピンと来ないわ。その人、名前は何と言うの?」
「……あー、うん。確かに、ね。
そいつの名前はクリス・ゴールドマン。でも多分、本名じゃないね。本当の金火狐一族なら起こっている戦争に乗っかりこそすれ、自分から戦争を仕掛けるようなコトはしないからね」
「クリス……?」
「元は、中央大陸を渡り歩く書籍商だった。価値の高い本を集め、売買するのが生業。その本を手に入れたのも、その商売の関係だった。
もう30年以上も前に、央南人の古美術商で柊雪花と言う女が、その本を手に入れたんだ。んで、古い本だってコトで、商人仲間だったクリスに売った。その後、クリスはその本の価値に気付き、解析を進めると共に一部分、一部分をあっちこっちの魔術師に売りまくった。
知ってるかい、赤毛。ちょっと前に央南で起こった、天原家騒乱。あの事件を起こした張本人の天原桂もその一部分、コピー本を持ってたんだ」
「アマハラ……、聞いたことがあるわね。確か、様々な人間を誘拐し、人体実験を行っていたとか」
「そう。その人体実験の成果こそ、その本に載っていた内容そのもの――人間をモンスターへと変化させる、『魔獣の本』の内容なんだ」
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さてさて、旅行前の5話一気掲載。
一日一話ずつ読むもよし、一気に読むもよし。
じっくり、もしくはがっつり、お楽しみください。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.09.04 修正
さてさて、旅行前の5話一気掲載。
一日一話ずつ読むもよし、一気に読むもよし。
じっくり、もしくはがっつり、お楽しみください。
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2016.09.04 修正



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こういうことは。集団戦闘だとそういうことを言ってもられないですけど。個人同士の戦いだとそういうことはできますね。それだけセイナが強いということなのでしょうけど。