「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・邪心録 3
晴奈の話、第374話。
殺刹峰、最強の敵。
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3.
「……?」
モールたちのところに向かおうとした晴奈は異様な感覚を覚え、足を止めた。
異様と言っても、それは敵からの殺意であるとか、怖気であるとか、そのような警戒心ではなかった。また、モールとクリスが戦い始めたのを察知していたわけでもない。
こんな場所で感じるにはあまりにも場違いな、妙な懐かしさが晴奈の心に、急にこみ上げてきたのだ。
「あ……」
背後から、キリアの驚いたような声が聞こえてきた。
「フローラさん!」
「その様子だと、負けたみたいね」
もう一人、落ち着いた女性の声がする。その声に、晴奈は聞き覚えがあった。
「……!?」
振り向こうとしたところで、キリアの短い悲鳴が聞こえた。
「な、何を……っ」
「あなたは、いらない子ね」
「ひ……!?」
そのまま、キリアの声が聞こえなくなった。
「おい、一体何を、……っ!?」
振り向いたところで、晴奈は硬直した。
それも、キリアが胸元を斬りつけられ、服を真っ赤に染めて倒れていたからだとか、百戦錬磨の自分がまったく気付くことなく、すぐ後ろまで敵が来ていたからだとか、そう言った理由からではなかった。
その、すぐ背後にいた敵が、自分の師匠――雪乃にそっくりだったからだ。
黒に近い、深い緑色の髪。一見線が細く、柔らかに見えるが、しっかりと剣を握る姿。そして優しげな笑顔は、どう見ても雪乃にしか見えない。
「し、師匠……!?」
「師匠? 誰のことかしら?」
「……いや、そんなわけが!」
晴奈はこの時初めて警戒し、その長耳の女との距離を取った。
「誰だ、貴様はッ!」
「人に名前を聞く前に、自分から名乗るのが央南人の礼儀ではなかったかしら? ……まあいいわ。
私の名前はフローラ・『ホワイト』・ウエスト。殺刹峰の精鋭部隊、『プリズム』のリーダーよ。……さっきまでは、だけれど」
「さっき、までは?」
フローラと名乗った長耳は、雪乃そっくりの美しい笑顔を作る。
「そう。今は殺刹峰のナンバー2になったわ。あなたたちのおかげでね」
「……意味が分からない。どう言うことだ?」
「あなたたちがここに来てくれたおかげで、殺刹峰の内部はいい感じに混乱してくれた。その隙を突いて、わたしとクリス母様は今まさに、殺刹峰の全指揮系統を奪っている最中なの。
ありがとね、セイナ」
そう言ってフローラはにっこりと笑う。その笑顔は確かに美しかったが、間違い無く悪意が込められているのが、晴奈にはびしびしと伝わっていた。
「……何故、私のところに?」
「あら、勘違いしないで、セイナ。わたしはドミニクに用があるのよ。……と言っても、どうやらあなたと間違えてしまったみたいだけれど」
「私と、間違えた?」
「ええ、あなたのオーラはドミニクによく似ているわ。死線を何度も潜った戦士特有の、ギラついた『修羅』のオーラ。
キリアと一緒にいたから、てっきりドミニクだと思っていたのに」
「話がよく見えない。そんなに似ているのか?」
晴奈はフローラの言っていることが今ひとつ理解できず、ただただにらむことしかできない。
「似ていると言っても、オーラが、よ。……ああ、言い忘れていたわ。
わたしはね、セイナ。他人の放っている生気とか、魔力だとか――いわゆる『オーラ』を、この目で見ることができるの。そして、その力を応用して、他人のいる位置がある程度把握できる。……そうね、一つ証拠を見せてあげよっか?」
そう言うとフローラは顔を上げ、晴奈の背後を見つめた。
「あなたの仲間が二人、奥へ行ったようね。そのうち一人は、戦闘能力は大したことない。だけどもう一人は、絶大な力を持っているわ。
公安職員とモールかしら?」
「……!」
言い当てられ、晴奈は目を丸くする。それを見たフローラは、またにっこりと笑った。
「当たりのようね」
「……それで、どう言うつもりだ、フローラとやら」
「んっ?」
晴奈は冷汗をこぼしながら、さらに距離を取る。
「殺刹峰を奪っている最中、と言ったな? ならば我々の敵ではない、と?」
「意外とお馬鹿さんね、クスクス……」
フローラは口に手を当て、楽しそうに笑う。
「将来的に央中を攻略する可能性を考えれば、どっちみち公安は敵。それに与するあなたもね、セイナ。
それとも、わたしたちと手を組むつもりなのかしら?」
「笑止。お前たち殺刹峰は到底、許しておけぬ。どの道非道を働くつもりであれば、この場で成敗してくれよう」
そこで晴奈は刀を抜き、構えた。
「ふふっ、成敗ですって?」
フローラも剣を構える。
「おかしなことを言うのね、セイナ。あなたが、わたしに勝てると思っているの?
技術はもとより、別の理由でも、あなたはわたしに勝てないのよ」
「別の理由? 何のことだ?」
フローラはまた、にっこりと笑う。
「自分の師匠の縁者を、何の迷いも無く斬れるのかしら?」
「縁者、だと?」
「知っている、セイナ? わたしの、フローラと言う名前。何て意味か、知っているかしら?」
「……?」
フローラの美しい笑顔には、禍々しい悪意がにじみ出ていた。
「古い央北の言葉で、『花』を意味するの。
わたしは知っているのよ、セイナ。あなたがユキノの弟子だと言うことも、あなたがユキノの過去をセッカ母様の日記で知ったと言うことも。
それから、ユキノにはハナノと言う妹がいたと、あなたが知っていることも」
「……!」
晴奈の構える刀の、その切っ先が、ビクッと跳ねた。
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殺刹峰、最強の敵。
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3.
「……?」
モールたちのところに向かおうとした晴奈は異様な感覚を覚え、足を止めた。
異様と言っても、それは敵からの殺意であるとか、怖気であるとか、そのような警戒心ではなかった。また、モールとクリスが戦い始めたのを察知していたわけでもない。
こんな場所で感じるにはあまりにも場違いな、妙な懐かしさが晴奈の心に、急にこみ上げてきたのだ。
「あ……」
背後から、キリアの驚いたような声が聞こえてきた。
「フローラさん!」
「その様子だと、負けたみたいね」
もう一人、落ち着いた女性の声がする。その声に、晴奈は聞き覚えがあった。
「……!?」
振り向こうとしたところで、キリアの短い悲鳴が聞こえた。
「な、何を……っ」
「あなたは、いらない子ね」
「ひ……!?」
そのまま、キリアの声が聞こえなくなった。
「おい、一体何を、……っ!?」
振り向いたところで、晴奈は硬直した。
それも、キリアが胸元を斬りつけられ、服を真っ赤に染めて倒れていたからだとか、百戦錬磨の自分がまったく気付くことなく、すぐ後ろまで敵が来ていたからだとか、そう言った理由からではなかった。
その、すぐ背後にいた敵が、自分の師匠――雪乃にそっくりだったからだ。
黒に近い、深い緑色の髪。一見線が細く、柔らかに見えるが、しっかりと剣を握る姿。そして優しげな笑顔は、どう見ても雪乃にしか見えない。
「し、師匠……!?」
「師匠? 誰のことかしら?」
「……いや、そんなわけが!」
晴奈はこの時初めて警戒し、その長耳の女との距離を取った。
「誰だ、貴様はッ!」
「人に名前を聞く前に、自分から名乗るのが央南人の礼儀ではなかったかしら? ……まあいいわ。
私の名前はフローラ・『ホワイト』・ウエスト。殺刹峰の精鋭部隊、『プリズム』のリーダーよ。……さっきまでは、だけれど」
「さっき、までは?」
フローラと名乗った長耳は、雪乃そっくりの美しい笑顔を作る。
「そう。今は殺刹峰のナンバー2になったわ。あなたたちのおかげでね」
「……意味が分からない。どう言うことだ?」
「あなたたちがここに来てくれたおかげで、殺刹峰の内部はいい感じに混乱してくれた。その隙を突いて、わたしとクリス母様は今まさに、殺刹峰の全指揮系統を奪っている最中なの。
ありがとね、セイナ」
そう言ってフローラはにっこりと笑う。その笑顔は確かに美しかったが、間違い無く悪意が込められているのが、晴奈にはびしびしと伝わっていた。
「……何故、私のところに?」
「あら、勘違いしないで、セイナ。わたしはドミニクに用があるのよ。……と言っても、どうやらあなたと間違えてしまったみたいだけれど」
「私と、間違えた?」
「ええ、あなたのオーラはドミニクによく似ているわ。死線を何度も潜った戦士特有の、ギラついた『修羅』のオーラ。
キリアと一緒にいたから、てっきりドミニクだと思っていたのに」
「話がよく見えない。そんなに似ているのか?」
晴奈はフローラの言っていることが今ひとつ理解できず、ただただにらむことしかできない。
「似ていると言っても、オーラが、よ。……ああ、言い忘れていたわ。
わたしはね、セイナ。他人の放っている生気とか、魔力だとか――いわゆる『オーラ』を、この目で見ることができるの。そして、その力を応用して、他人のいる位置がある程度把握できる。……そうね、一つ証拠を見せてあげよっか?」
そう言うとフローラは顔を上げ、晴奈の背後を見つめた。
「あなたの仲間が二人、奥へ行ったようね。そのうち一人は、戦闘能力は大したことない。だけどもう一人は、絶大な力を持っているわ。
公安職員とモールかしら?」
「……!」
言い当てられ、晴奈は目を丸くする。それを見たフローラは、またにっこりと笑った。
「当たりのようね」
「……それで、どう言うつもりだ、フローラとやら」
「んっ?」
晴奈は冷汗をこぼしながら、さらに距離を取る。
「殺刹峰を奪っている最中、と言ったな? ならば我々の敵ではない、と?」
「意外とお馬鹿さんね、クスクス……」
フローラは口に手を当て、楽しそうに笑う。
「将来的に央中を攻略する可能性を考えれば、どっちみち公安は敵。それに与するあなたもね、セイナ。
それとも、わたしたちと手を組むつもりなのかしら?」
「笑止。お前たち殺刹峰は到底、許しておけぬ。どの道非道を働くつもりであれば、この場で成敗してくれよう」
そこで晴奈は刀を抜き、構えた。
「ふふっ、成敗ですって?」
フローラも剣を構える。
「おかしなことを言うのね、セイナ。あなたが、わたしに勝てると思っているの?
技術はもとより、別の理由でも、あなたはわたしに勝てないのよ」
「別の理由? 何のことだ?」
フローラはまた、にっこりと笑う。
「自分の師匠の縁者を、何の迷いも無く斬れるのかしら?」
「縁者、だと?」
「知っている、セイナ? わたしの、フローラと言う名前。何て意味か、知っているかしら?」
「……?」
フローラの美しい笑顔には、禍々しい悪意がにじみ出ていた。
「古い央北の言葉で、『花』を意味するの。
わたしは知っているのよ、セイナ。あなたがユキノの弟子だと言うことも、あなたがユキノの過去をセッカ母様の日記で知ったと言うことも。
それから、ユキノにはハナノと言う妹がいたと、あなたが知っていることも」
「……!」
晴奈の構える刀の、その切っ先が、ビクッと跳ねた。



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