「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・邪心録 5
晴奈の話、第376話。
凶兆の「九」、その顕現。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
壁に背中を激しく打ちつけ、ゲホゲホと咳き込む晴奈に見せ付けるように、フローラは右腕を振り上げつつ袖をまくる。
「見なさい、セイナ! この、無機質な腕を!
わたしの両腕、両脚はいつまで経っても、いつまでも、人形のままなのよ! ユキノは、人間になれたと言うのに……ッ!
……でもね、セイナ。それがかえって、良かったのかも知れないわ」
右袖を肩のところまでまくったところで、先程晴奈を突き飛ばした、その「からくり」が見えた。
「どう言うわけか、手足を別のものと取り替えても動かせるの。だから、強化したわ。鉄芯を埋め込み、非常に強いバネを組み込んだ、鋼鉄の腕にね。もちろん、両脚もよ」
フローラはまだ壁から離れていない晴奈に近付き、蹴りを入れようとする。
「……ッ!」
晴奈は辛うじて避け、その背後にあった壁にフローラの足がめり込む。
「ほら、見なさいよセイナ! あなたに、同じことができる!? 人間の、生身のあなたに!」
壁から脚を引き抜き、もう一度晴奈を蹴りにかかる。脚関節にも腕と同様のバネを組み込んでいるらしく、その威力は硬い壁や床にボコボコと穴を開けていく。
「ねえ、セイナ? 分かっているかしら、あなたがさっき言い放った言葉の、その滑稽さが!
わたしは人間じゃないのよ――何よ、『仁義、礼節を守らずして、何が人間だ』って!? 人間じゃない、半分人形の、モンスターのわたしに、そんな話を振るなんて!」
必死で避けていた晴奈だったが、ついにフローラの右脚が晴奈の左腿を捉える。ビキ、と大腿骨にひびが入るのを感じ、晴奈は悶絶する。
「……~ッ!」
晴奈は本能的に後ろへ飛びのいたが、めまいがするほどの激しい痛みが左脚全体に走り、また悶絶する。
「く、ぐあ、あ……っ、ハァ、ハァ」
「あら、もう降参かしら?」
だが、晴奈は歯を食いしばり、刀を正眼に構えて気合を込める。
「馬鹿な……ッ、勝負は、これからだッ!」
左腿の痛みを無理矢理に振り切り、晴奈はフローラへと駆け出した。
「受けてみろ、我が奥義……!」
「『炎剣舞』ね」
「はあああああッ!」
晴奈の周囲に、たぎるような熱が発生する。
「……ふふっ」
だが、フローラは動じない。剣を構えたまま、余裕綽々に笑っている。
「食らえええぇぇぇッ!」
晴奈の周囲に発生した高熱は晴奈の愛刀「大蛇」に集約され、刀身が真っ赤に灼ける。
そして刀がフローラの剣と交わったその瞬間、周囲の壁全体にひびが入るほどの大爆発を起こした。
「……ゼェ、ゼェ」
「炎剣舞」の発した衝撃に晴奈自身が耐え切れず、またも壁に叩きつけられる。それでも何とか立ち上がり、敵の様子を確認しようとする。
「やった、か……?」
埃が焼け焦げ、煙となってもうもうと部屋中に舞い上がり、目の前は茶色く濁っている。晴奈は一瞬、手元の刀に視線を落とした。
「……流石、『大蛇』だな。あれだけの、衝撃に、耐え切って、くれた、か」
まだチリチリと灼けた音を発しているが、「大蛇」は原形を十分に留めていた。
(これだけの……、これだけの、威力なのだ。倒れていなければ、……本当に)「人間じゃない、と言ったでしょう?」
舞い上がる煙の奥から聞こえた声に、晴奈は戦慄した。
「な……っ」
「まあ、多少は効いたけれど。
さあ、セイナ。あなたにはもう、戦えるだけの体力も、気力も残ってない。オーラを見れば、それが十分に分かるわ。そろそろ、死んでもらうわね」
明るく言い放たれたその言葉に、晴奈の手がガタガタと震え出す。
(な……!? お、おい! 治まれ! 今、震えている場合じゃない!)
「あなたが折角、奥義を振るってくれたのだから、わたしも振るわなきゃ、フェアじゃないわよね」
煙が収まり始め、フローラの姿がチラリと覗く。
(治まれ! 治まれ! 治まれ! 構えろ、構えるんだ、黄晴奈ッ!)
ガタガタと震える両腕を無理矢理に引き上げ、晴奈は刀を構えた。
「それじゃ行くわよ――わたしの秘剣、『九紋竜』」
部屋中に舞っていた煙が、ヒュンと切り裂かれる。
青白く光る何かがフローラの振るった剣から放たれ、晴奈の刀にぶつけられる。
「う……っ」
その一撃は信じられないほどに重たく、晴奈の刀が――「絶対に折れない、曲がらない、壊れない」と称されたはずの神器が――わずかに歪む。
「馬鹿な……」
続いてもう一発、青白い塊が飛んでくる。
「う……」
この一撃によって「大蛇」は完全に、真っ二つに折られた。
そして同時に、晴奈の心をも折った。
「うそ……だ……」
さらにもう一発。晴奈の体に命中し、晴奈は血を吐いた。
「こんな……ばかな……」
続いてもう一発。晴奈は三度、壁に叩きつけられた。
「そんな……」
もう一発。もう一発。もう一発。
晴奈の体は壁にめり込み、ついに壁の向こうへと押しやられた。
「私が……」
もはや立ち上がる気力も無い晴奈を、さらに飛んできた一発が弾き飛ばす。
「私が……負け……」
四度壁に叩きつけられた晴奈は、さらにもう一枚壁を突き抜ける。
(……ま……け……た……)
ダメ押しの九発目が晴奈の胸を貫き、晴奈の体は三枚目の壁に打ちつけられた。
部屋を舞っていた埃が落ち着いたところで、フローラは剣を納めた。
「オーラが完全に消えたわね。
……キリアも、放っておけばそのうち死ぬわね。
クリス母様は……、まあ、大丈夫かな。モールが相手といえど、敵ではないはず」
フローラはにっこりと笑い、何事も無かったかのように部屋を後にした。
蒼天剣・邪心録 終
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凶兆の「九」、その顕現。
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5.
壁に背中を激しく打ちつけ、ゲホゲホと咳き込む晴奈に見せ付けるように、フローラは右腕を振り上げつつ袖をまくる。
「見なさい、セイナ! この、無機質な腕を!
わたしの両腕、両脚はいつまで経っても、いつまでも、人形のままなのよ! ユキノは、人間になれたと言うのに……ッ!
……でもね、セイナ。それがかえって、良かったのかも知れないわ」
右袖を肩のところまでまくったところで、先程晴奈を突き飛ばした、その「からくり」が見えた。
「どう言うわけか、手足を別のものと取り替えても動かせるの。だから、強化したわ。鉄芯を埋め込み、非常に強いバネを組み込んだ、鋼鉄の腕にね。もちろん、両脚もよ」
フローラはまだ壁から離れていない晴奈に近付き、蹴りを入れようとする。
「……ッ!」
晴奈は辛うじて避け、その背後にあった壁にフローラの足がめり込む。
「ほら、見なさいよセイナ! あなたに、同じことができる!? 人間の、生身のあなたに!」
壁から脚を引き抜き、もう一度晴奈を蹴りにかかる。脚関節にも腕と同様のバネを組み込んでいるらしく、その威力は硬い壁や床にボコボコと穴を開けていく。
「ねえ、セイナ? 分かっているかしら、あなたがさっき言い放った言葉の、その滑稽さが!
わたしは人間じゃないのよ――何よ、『仁義、礼節を守らずして、何が人間だ』って!? 人間じゃない、半分人形の、モンスターのわたしに、そんな話を振るなんて!」
必死で避けていた晴奈だったが、ついにフローラの右脚が晴奈の左腿を捉える。ビキ、と大腿骨にひびが入るのを感じ、晴奈は悶絶する。
「……~ッ!」
晴奈は本能的に後ろへ飛びのいたが、めまいがするほどの激しい痛みが左脚全体に走り、また悶絶する。
「く、ぐあ、あ……っ、ハァ、ハァ」
「あら、もう降参かしら?」
だが、晴奈は歯を食いしばり、刀を正眼に構えて気合を込める。
「馬鹿な……ッ、勝負は、これからだッ!」
左腿の痛みを無理矢理に振り切り、晴奈はフローラへと駆け出した。
「受けてみろ、我が奥義……!」
「『炎剣舞』ね」
「はあああああッ!」
晴奈の周囲に、たぎるような熱が発生する。
「……ふふっ」
だが、フローラは動じない。剣を構えたまま、余裕綽々に笑っている。
「食らえええぇぇぇッ!」
晴奈の周囲に発生した高熱は晴奈の愛刀「大蛇」に集約され、刀身が真っ赤に灼ける。
そして刀がフローラの剣と交わったその瞬間、周囲の壁全体にひびが入るほどの大爆発を起こした。
「……ゼェ、ゼェ」
「炎剣舞」の発した衝撃に晴奈自身が耐え切れず、またも壁に叩きつけられる。それでも何とか立ち上がり、敵の様子を確認しようとする。
「やった、か……?」
埃が焼け焦げ、煙となってもうもうと部屋中に舞い上がり、目の前は茶色く濁っている。晴奈は一瞬、手元の刀に視線を落とした。
「……流石、『大蛇』だな。あれだけの、衝撃に、耐え切って、くれた、か」
まだチリチリと灼けた音を発しているが、「大蛇」は原形を十分に留めていた。
(これだけの……、これだけの、威力なのだ。倒れていなければ、……本当に)「人間じゃない、と言ったでしょう?」
舞い上がる煙の奥から聞こえた声に、晴奈は戦慄した。
「な……っ」
「まあ、多少は効いたけれど。
さあ、セイナ。あなたにはもう、戦えるだけの体力も、気力も残ってない。オーラを見れば、それが十分に分かるわ。そろそろ、死んでもらうわね」
明るく言い放たれたその言葉に、晴奈の手がガタガタと震え出す。
(な……!? お、おい! 治まれ! 今、震えている場合じゃない!)
「あなたが折角、奥義を振るってくれたのだから、わたしも振るわなきゃ、フェアじゃないわよね」
煙が収まり始め、フローラの姿がチラリと覗く。
(治まれ! 治まれ! 治まれ! 構えろ、構えるんだ、黄晴奈ッ!)
ガタガタと震える両腕を無理矢理に引き上げ、晴奈は刀を構えた。
「それじゃ行くわよ――わたしの秘剣、『九紋竜』」
部屋中に舞っていた煙が、ヒュンと切り裂かれる。
青白く光る何かがフローラの振るった剣から放たれ、晴奈の刀にぶつけられる。
「う……っ」
その一撃は信じられないほどに重たく、晴奈の刀が――「絶対に折れない、曲がらない、壊れない」と称されたはずの神器が――わずかに歪む。
「馬鹿な……」
続いてもう一発、青白い塊が飛んでくる。
「う……」
この一撃によって「大蛇」は完全に、真っ二つに折られた。
そして同時に、晴奈の心をも折った。
「うそ……だ……」
さらにもう一発。晴奈の体に命中し、晴奈は血を吐いた。
「こんな……ばかな……」
続いてもう一発。晴奈は三度、壁に叩きつけられた。
「そんな……」
もう一発。もう一発。もう一発。
晴奈の体は壁にめり込み、ついに壁の向こうへと押しやられた。
「私が……」
もはや立ち上がる気力も無い晴奈を、さらに飛んできた一発が弾き飛ばす。
「私が……負け……」
四度壁に叩きつけられた晴奈は、さらにもう一枚壁を突き抜ける。
(……ま……け……た……)
ダメ押しの九発目が晴奈の胸を貫き、晴奈の体は三枚目の壁に打ちつけられた。
部屋を舞っていた埃が落ち着いたところで、フローラは剣を納めた。
「オーラが完全に消えたわね。
……キリアも、放っておけばそのうち死ぬわね。
クリス母様は……、まあ、大丈夫かな。モールが相手といえど、敵ではないはず」
フローラはにっこりと笑い、何事も無かったかのように部屋を後にした。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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身体の中にコイルなどを埋め込むことはできるのですね。
現実世界でもそれはできますもんね。
それに対応しきれる技術があるのも素晴らしいですね。
現実世界でもそれはできますもんね。
それに対応しきれる技術があるのも素晴らしいですね。
- #1519 LandM
- URL
- 2013.01/27 06:39
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NoTitle
その後の化学の礎になった経緯がありますからね。
双月世界での魔術研究がその後の科学発展に結びつくことも、
往々にしてあるかも知れません。
電気を操る「雷の術」にしても、
電磁気学の感覚を知ってないと使えないでしょうし。