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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・死淵録 1

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    晴奈の話、第377話。
    崩壊し始めるアジト。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     フローラが去ってから、2、3分ほど後。
     キリアが倒れている部屋に、ヘックスが恐る恐る首を伸ばしてきた。
    「……あっ!」
     血まみれの義妹の姿を見つけ、ヘックスは慌てて部屋の中に入る。
    「大丈夫か、キリア! いっ、生きとるか!?」
     ヘックスはキリアの首に手を当て、出血の具合と脈を計る。
    「……良かった、まだ息あるみたいや。ギリギリ頸動脈外れとるっぽいし」
     ヘックスは自分の服の袖をちぎり、キリアの首筋に巻いて止血を施す。
    「う、う……」
     止血の途中で、キリアが目を覚ました。
    「お、具合はどないや?」
    「……兄さん? ……私は、生きてるの?」
    「おう、生きとる生きとる、うん、生きとるよぉ」
     ヘックスは心底ほっとした顔を浮かべる。
    「なあ、この部屋で何があったんや? めっさボロボロになってるやん」
    「フローラさん……、フローラと、コウが戦ったのよ」
    「コウが?」
     ヘックスは顔を上げ、大穴の開いた壁を見つめる。
    「どっちが勝ったんや?」
    「……当然、フローラの方よ。コウは……、恐らく死んだ」
    「なっ……」
     ヘックスは慌てて立ち上がり、壁に開いた穴の向こうに、また恐る恐る首を突っ込んだ。
    「向こうの壁、もう一枚貫通しとる。めっちゃめちゃやん……」
    「見たことの無い、恐ろしい攻撃だったわ。まるで、爆弾か何かを立て続けに投げつけたような、圧倒的な攻撃だった。
     フローラは、コウのオーラが完全に消えた、……と」
    「……」
     ヘックスは壁の穴を越え、さらにその先へ向かう。
    「えげつないなぁ」
     壁の穴から穴にかけて、おびただしい量の血が線を引いている。ヘックスは2枚目の壁を越え、その奥をそっと覗いた。
    「……あ……」
     3枚目の壁の中に、彼女がいた。
     彼女の体全体が壁に深々と突き刺さり、胸の辺りが真っ赤に染まっている。

     どう見ても、生きているようには見えなかった。



     アジト内の異変に、モノもおぼろげながら気が付いていた。
     はじめは「公安が侵入したらしく、オッドが『プリズム』たちを呼び戻した」と言う程度にしか把握していなかったが、妙なことに、その後まったくオッドが動く気配が無い。
     不審に思ったモノは、オッドがよく出入りしている医務室に足を運び――この時点で、ヘックスも既にここから離れている――変死したオッドを見て、異常事態が起きているのを察知した。
    (どう言うことだ……!?)
     魔力の無いモノには、クリスや「プリズム」たちとの通信手段は、直接会って話すことしか無い。急いでアジト内を回り、状況の把握に努めていた。
    「ヘックス君! キリア君、ジュン君!」
     回りながら、元からアジトに残っていた「プリズム」たちを呼ぶが、返事はない。いや、彼らを見かけるどころか、あちこちで惨殺された兵士たちが、次々に目に入ってくる。
    「この傷跡は……」
     兵士たちが負った怪我は、刀傷にしては――敵である晴奈と楢崎の武器によるダメージにしては――刀特有の撫で切ったようなものではなく、打突を受けた様子が濃い。刀に比べて切れ味が劣り、かつ、重量のある剣による攻撃に良く見られる傾向だ。
    (敵に、剣を使う者が……? 私の知る限り、剣を使う者はいなかったはずだが……)
     確かに、戦闘不能になった兵士たちの中には銃創や打撃によるダメージを負っている者もいる。だが、死んでいるのは剣による攻撃を受けた者だけなのだ。
    「剣を使う者が、とどめを刺している……?」
     モノの中で、嫌な予感がふつふつと湧き上がってくる。
    (死んだ者はほとんど、正面か前側面からの攻撃を受けている――と言うことは、敵はその方向から致命傷を負わせたと言うことだ。そうなると、相当の手練か、……味方と思って油断していた、と言うことになる。
     味方で、これほど鮮やかに急所を狙い、あっさりと殺せる人間となると……)
     思案し始めたモノの前に、「答え」の方から姿を現した。
    「ドミニク先生、こちらでしたか」
    「おお、フローラ君」
     モノは喜び近付こうとしたが、フローラの手に血のしたたる剣が握られているのを見て、足を止めた。
    「フローラ君、それは一体なんだ?」
    「剣です」
    「それは分かっている。そのしたたっている血は一体誰のものなのか、と聞いているのだ」
    「ああ」
     フローラは剣を横に薙ぎ、付いていた血をびちゃっと壁に払う。
    「敵を倒していました」
    「そう、か」
     モノはほっとし、安堵のため息をつきかけたが、次に放たれたフローラの言葉で息を詰まらせた。
    「わたしと、母様の敵を」
    「……それは、どう言う意味だ?」
    「そのままの意味です。わたしと母様がこれからやろうとしていることを邪魔するであろう敵を、排除していたんです」
     そう言ってにっこり笑うフローラに、モノは異様な気持ち悪さを感じた。
    「何度も聞くが、それは、どう言う意味なのだ? もっと分かりやすく、説明してくれ」
    「ええ、つまり……」
     フローラは一瞬顔を伏せ、にっこりとした顔を浮かべて襲い掛かってきた。
    「こう言うことです」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    I'm back.
    戻ってきましたよ。
    と言うわけで、連載再開。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.09.04 修正
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