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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・死淵録 2

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    晴奈の話、第378話。
    阿修羅師弟対決。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     フローラからの突然の強襲に、モノは面食らった。だが、モノも百戦錬磨の古兵である。
    「……ッ!」
     右手一本ですばやく剣を抜き、フローラの初太刀を受け止めた。
    「あら、残念。あまり苦しまずに仕留めてしまおうと思っていたのに」
    「何のつもりだ、フローラ君! 何故この私に、剣を向けるのだ!?」
    「お分かりいただけませんか、ドミニク先生」
     フローラは素早く間合いを取り、依然悪意のある笑みを浮かべながら語りだす。
    「あなたも、ドクターも、もうわたしたち母娘の計画には必要のない人物、いいえ、むしろ邪魔になる人物だからです」
    「計画だと!?」
    「はい。わたしと母様は、最初からこの殺刹峰を我が物にしようと目論んでいました。……ええ、最初からカツミの暗殺なんて眼中にありませんでしたよ」
    「……」
     モノの中で、ふつふつと怒りが湧き上がる。
    「まあ、勿論わたしと母様、それからミューズとネイビーがいれば、カツミ暗殺なんてすぐ終わります。でも、そんなことをしても大して利益も無いですし」
    「利益の問題ではない! これは……」「それは、あなたとドクターの固執ですよね?」
     フローラは平然と、モノを嘲っていく。
    「あなたたち二人の夢や妄想にいつまでも付き合うほど、わたしも母様も暇じゃありません。それに母様には、もうあまり時間がありません。早いところ、母様を楽にしてあげたくて。
    『お遊び』はおしまいです、先生」
    「……貴様……!」
     怒りが頂点に達したモノは剣を振り上げ、フローラに斬りかかった。
    「……ふふっ」
     フローラも微笑みながら、それに応じる。
    「大人しく斬られた方が苦しまずにすみますよ、先生。もうわたしの腕前は、あなたをはるかにしのぐのだから」
    「そう思うか、フローラ!」
     モノの振るう剣が、ひゅ、ひゅんとうなる。
    「お……っと!」
     避けたつもりのフローラの袖が、わずかに裂けた。
    「あら、……まだまだ現役、と言うわけですか」
    「貴様のような外道に、負けてたまるかッ!」
     モノはもう一度、「三連閃」を繰り出していく。
    「『外道』? 外道と言いましたか、このわたしを?」
    「そうでなければ何だと言うのだ!? 師匠を、上官を裏切り、私利私欲のために組織を奪おうとするお前を、外道と呼ばずして何だと!」
    「……ふふ、ふ、あはははっ。おかしいわ、先生」
     二度目の「三連閃」をかわしたところで、フローラはモノから離れ、距離を取る。
    「今まで散々、大陸各地から人をさらい、要人暗殺を続けてきた先生が、今更他人を『外道』だなんて罵れるの?」
    「……っ」
     フローラは依然、笑っている。だがその笑いは、微笑から嘲笑へと変わっていた。
    「それに先生、あなたは元々から『人』と呼ばれていないじゃない」
    「何?」
    「あなたは『阿修羅』だったはずよ。己の中に潜む色濃い『悪意』に己を委ねた、正真正銘の悪人。
     そのあなたが、善だの仁義を説くの? 滑稽極まりないわ」
     フローラはまた距離を詰め、モノに斬りかかる。先程よりも一層重たい攻撃に、モノは顔をしかめた。
    「う、ぬ……ッ」
    「もうあなたは『阿修羅』じゃない。その称号を名乗る資格は無いわ」
     さらにもう一撃。攻撃はより重さを増し、モノの体がわずかに弾かれた。
    「ぬお、ぉ……!?」
    「わたしがその称号を、継いであげる。わたしこそが、新たな『阿修羅』よ」
    「ふざけたことをッ! 貴様などにその名、やすやすと渡せるかッ!」
     モノは剣を握り直し、三度目の「三連閃」を放った。
    「うふ、ふふふ……。三回目の、『三連閃』ね。となると、最後の攻撃は九太刀目と言うことになる。
     証明される時が来たわね、先生」
     そう言ってフローラも剣を構えた。
    「秘剣、『九紋竜』!」
     晴奈を屠ったあの青白い光弾が、モノの剣にぶつかっていく。
    「な、何だこれは……!?」
    「先生にも教えていなかった、わたしの切り札よ。
     そして先生、あなたにとって『9』は吉兆だったかしら? それとも凶兆?」
     モノの「三連閃」、最後の一太刀――即ち、九太刀目――が光弾に弾かれ、モノの剣は粉々に砕ける。
    「なっ、何だと……!?」
     そして「九紋竜」の残り六発が、モノの体を串刺しにした。
    「ぐあ、あああー……ッ!」

     モノは全身に大穴を開け、息絶えた。
    「どうやら、あなたにとって『9』は凶兆だったようね。これで証明されたわ。
     ……あら?」
     血まみれのモノの右腕の袖から、キラリと光る腕輪が見えた。
    「ああ……。昔、襲われた時に手に入れたって言う、あのガラスの腕輪ね」
     フローラは剣を振り上げ、その腕輪を割ろうとした。
    「……」
     しかし途中で剣を降ろし、腕輪を手に取った。
    「……いいデザインね。……ふふ、『阿修羅』を継いだ証明にでもしようかしらね」
     フローラはモノから抜き取った腕輪を、そのまま自分の左腕にはめた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.09.04 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ドミニクは自分の理想を追いすぎるあまり、
    現実と配下の人間が分からなくなっていたようです。
    この敗北は必然と言えますね。

    NoTitle 

    ・・・まあ、なかなか利害関係だけだと上手くいかないもんですよね。ドミニクも人を使うことはあまり上手くなかったようですね。利害関係からどう人を使うかと言うのを考えておいた方がよかったですね。
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