「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・死淵録 4
晴奈の話、第380話。
賢者対決、決着。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
爆発の衝撃で、ジュリアは吹き飛ばされた。
「ゲホ、ゲホッ……」
大広間の端まで転がされ、ジュリアは埃まみれになる。
「な、何、今のは……?」
ヨロヨロと立ち上がり、何が起こったのか確かめようとした。
「……あ、眼鏡」
転がされた軌跡の上に、フレームの曲がった自分の眼鏡が落ちていた。
(……気に入っていたのに)
ジュリアは多少残念に思いながら、フレームを曲げ直して鼻に乗せる。
「それにしても、今のは……」
もうもうと舞っていた煙が落ち着き、モールとクリスの様子が明らかになった。
「……!」
「は、はは、あははは……!」
壇上には、先程と同様クリスが立っている。いや、多少はダメージを受けたらしく、口の端から血を流していた。
「そんな魔術が、あったなんて……本当に、びっくりしたわ……モール」
逆に、モールは仰向けになって床に倒れている。その体の半分ほどが灰になっており、既に腰から下は原形を留めていない。
「物質を……純粋な……エネルギーに、変換する……術……そうよね……モール?」
「……」
体の奥底も灰になりかけているのだろうか、モールの返事は無い。
「まさか……あんな威力を……放つ、なんて。……ゲホ、ゲホッ、ゲボッ」
クリスは血を吐き、フラフラと椅子に座り込んだ。
「うふ……ふ……ふ、ゲホッ。……流石に……私も……限界ね。……でも、……ゴボッ」
また、クリスの口から血が噴き出す。
「私の……勝ちの、よう、ね……モール」
「……」
モールは応えない。
「あなたは……死んだ」
クリスは血を吐きながら、本を掲げて勝ち誇った。
「私の……私の、ゲホッ、私の……勝ちよ……!」
「モールさん……!」
ジュリアはほとんど灰になったモールの体に寄り添い、懸命に名前を呼んだ。
《バーカ》
どこからか、くぐもったような声が聞こえてくる。
「……!?」
クリスは目を見開き、青ざめた。
「ま、さ、か……」
《そのまさかだね、クソババアが》
「……モールさん!?」
ジュリアの目にも、それは映っていた。
半透明の、黒い狐耳の男がクリスの前に立っている――紛れもなく、灰になったはずのモールの姿である。
《勝ったと思った? ねぇ、勝ったと思った? そーんなボロッボロの状態で、勝った気でいたね?
弱らせて弱らせて、身動きできなくさせようと目論んでたけど、見事に引っかかってくれたねぇ、み・ご・と・にっ★》
「う……うそ……でしょ……」
《ところがどっこい……! 嘘じゃありません……! 現実です……! これが現実……!》
モールは嬉々として、クリスに罵声を浴びせている。
《私をバカだバカだと言いたい放題罵ってたけどね、君もバカだ、大バカだね! 私が何度も体を替えたと、そこまでリサーチしておいて、何でこの状況を想定しないね!?
そう、私は魂だけの状態でも、まったく問題なく動ける。まあ、あんまり長い間肉体から離れれば、どうなるか分かんないけどね》
「ひっ……ひいっ……」
モールは半透明の黒ずんだ手を、クリスの首に当てる。
《だから君の体、とっとともらうね》
クリスの顔から、見る見るうちに生気が無くなっていく。
《君の体はボロボロだけど、私の術があれば一瞬で元気になるね。良かったねー、念願の健康が手に入って。良かった良かった、うんうん》
「いや……やめて……」
《やめて?》
モールの手が止まる。
「私……まだ……死にたくない……」
《やめてほしいの?》
「やめてぇ……」
だが、モールはニヤッと笑い、再び手をクリスの首に押し付け、突き入れた。
《やだ》
「いや、あああぁぁぁ……!」
「さて」
ジュリアはその姿を、複雑な心境で見つめていた。
その体は紛れもなく女性なのに、その口からは少年のような声が発せられている。
「服も着替え終わったし、体も治したし。用事は済んだから、とっとと晴奈たちと合流しようかねぇ」
「ねえ、モールさん」
「ん?」
ジュリアは先程まで敵だった、その狐獣人の女性に話しかけた。
「嫌じゃないの?」
「何が?」
「だって、さっきまで散々戦った相手だし、それにあなた、男性だったんでしょう?」
「ああ」
狐獣人はニヤリと笑い、くるっと一回転した。
「もう何百年もやってるコトだし、一々気に留めてないね。
敵だの味方だの、男だの女だのはどーでもいーや」
先程までクリスのものだった体を奪ったモールは、元「自分」が身に付けていたとんがり帽子をポンポンとはたき、頭に載せた。
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4.
爆発の衝撃で、ジュリアは吹き飛ばされた。
「ゲホ、ゲホッ……」
大広間の端まで転がされ、ジュリアは埃まみれになる。
「な、何、今のは……?」
ヨロヨロと立ち上がり、何が起こったのか確かめようとした。
「……あ、眼鏡」
転がされた軌跡の上に、フレームの曲がった自分の眼鏡が落ちていた。
(……気に入っていたのに)
ジュリアは多少残念に思いながら、フレームを曲げ直して鼻に乗せる。
「それにしても、今のは……」
もうもうと舞っていた煙が落ち着き、モールとクリスの様子が明らかになった。
「……!」
「は、はは、あははは……!」
壇上には、先程と同様クリスが立っている。いや、多少はダメージを受けたらしく、口の端から血を流していた。
「そんな魔術が、あったなんて……本当に、びっくりしたわ……モール」
逆に、モールは仰向けになって床に倒れている。その体の半分ほどが灰になっており、既に腰から下は原形を留めていない。
「物質を……純粋な……エネルギーに、変換する……術……そうよね……モール?」
「……」
体の奥底も灰になりかけているのだろうか、モールの返事は無い。
「まさか……あんな威力を……放つ、なんて。……ゲホ、ゲホッ、ゲボッ」
クリスは血を吐き、フラフラと椅子に座り込んだ。
「うふ……ふ……ふ、ゲホッ。……流石に……私も……限界ね。……でも、……ゴボッ」
また、クリスの口から血が噴き出す。
「私の……勝ちの、よう、ね……モール」
「……」
モールは応えない。
「あなたは……死んだ」
クリスは血を吐きながら、本を掲げて勝ち誇った。
「私の……私の、ゲホッ、私の……勝ちよ……!」
「モールさん……!」
ジュリアはほとんど灰になったモールの体に寄り添い、懸命に名前を呼んだ。
《バーカ》
どこからか、くぐもったような声が聞こえてくる。
「……!?」
クリスは目を見開き、青ざめた。
「ま、さ、か……」
《そのまさかだね、クソババアが》
「……モールさん!?」
ジュリアの目にも、それは映っていた。
半透明の、黒い狐耳の男がクリスの前に立っている――紛れもなく、灰になったはずのモールの姿である。
《勝ったと思った? ねぇ、勝ったと思った? そーんなボロッボロの状態で、勝った気でいたね?
弱らせて弱らせて、身動きできなくさせようと目論んでたけど、見事に引っかかってくれたねぇ、み・ご・と・にっ★》
「う……うそ……でしょ……」
《ところがどっこい……! 嘘じゃありません……! 現実です……! これが現実……!》
モールは嬉々として、クリスに罵声を浴びせている。
《私をバカだバカだと言いたい放題罵ってたけどね、君もバカだ、大バカだね! 私が何度も体を替えたと、そこまでリサーチしておいて、何でこの状況を想定しないね!?
そう、私は魂だけの状態でも、まったく問題なく動ける。まあ、あんまり長い間肉体から離れれば、どうなるか分かんないけどね》
「ひっ……ひいっ……」
モールは半透明の黒ずんだ手を、クリスの首に当てる。
《だから君の体、とっとともらうね》
クリスの顔から、見る見るうちに生気が無くなっていく。
《君の体はボロボロだけど、私の術があれば一瞬で元気になるね。良かったねー、念願の健康が手に入って。良かった良かった、うんうん》
「いや……やめて……」
《やめて?》
モールの手が止まる。
「私……まだ……死にたくない……」
《やめてほしいの?》
「やめてぇ……」
だが、モールはニヤッと笑い、再び手をクリスの首に押し付け、突き入れた。
《やだ》
「いや、あああぁぁぁ……!」
「さて」
ジュリアはその姿を、複雑な心境で見つめていた。
その体は紛れもなく女性なのに、その口からは少年のような声が発せられている。
「服も着替え終わったし、体も治したし。用事は済んだから、とっとと晴奈たちと合流しようかねぇ」
「ねえ、モールさん」
「ん?」
ジュリアは先程まで敵だった、その狐獣人の女性に話しかけた。
「嫌じゃないの?」
「何が?」
「だって、さっきまで散々戦った相手だし、それにあなた、男性だったんでしょう?」
「ああ」
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ギャグ漫画で44秒以内に誰かに乗り移らないと死んでしまうというのがありましたけど・・・まあ、それほどでもないか。器が実数の世界なら、魂は虚数の世界ですからね。器がないと魂だけでは生きていけないということですね。
- #1533 LandM
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- 2013.02/05 11:16
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彼岸は別世界です。