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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・死淵録 5

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    晴奈の話、第381話。
    敵同士の戦い。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     フローラの粛清は続いていた。
     モノ派の兵士たちを片っ端から斬り捨て、潰していく。
    「なっ、何故……ぎゃああっ!」
     オッド派の兵士たちを後ろから襲い、貫いていく。
    「ゲボッ……、ど、どうして……?」
     そして公安たちがねじ伏せ、捕縛し、戦闘不能の状態にあった兵士たちも、一人残らず首をはねていく。
    「や、やめてください、フローラ様……、ぐぁっ!」
     殺刹峰の中に、血生ぐさい臭いが強く漂い始めた。

     その臭いに、ネイビーとの戦いで辟易していた小鈴たちも気が付いた。
    「あれ……? まだ、モンスターの臭いが抜けてないのかしら?」
    「いや、それにしては獣脂のような、鼻を突くような脂っこさが無い」
    「じゃあこれは、一体何の臭いっスかね?」
     エラン、フェリオ、フォルナを加え、7人になった小鈴たちは、何の苦も無くアジト内を歩いていた。
    「人の、血の臭い、だよな」
    「でもウチら、一人も殺してへんはずやけどな。……あんまし後味ええもんでもないし」
     人数が揃ったせいか、七人の間には緊張感が今ひとつ無い。半ば談笑するように話をしながら、歩を進めている。
    「では、先程話に上っていたフローラと言う方か、ウィッチと言う方の仕業かも知れませんわね」
    「その可能性は濃いな。……早くジュリアたちと合流しなきゃな」
     七人はさほど警戒する様子も無く、晴奈たちの向かった通路を進んでいた。

     その時だった。
     七人全員が、強烈な殺気を感じて一様に震えた。
    「……何だ?」
    「ゾクっと来た……」
     そしてすぐに、立て続けに爆発音が響いてくる。そして――。
    「血の臭いに混じって、妙にかび臭いような、鼻に付く臭いがするな。これは……、雷の術を使った時によく嗅ぐ臭いだ。
     それから、金属音も聞こえるな。多分、剣と剣が交わる音だ。……剣士と、雷使いが戦ってるのか?」
    「どちらにせよ、……どうも、後ろの方からだね」
     楢崎は進んできた通路を振り返り、腕を組む。
    「どうしようか? 晴奈くんと合流するのを先にするか、それとも確かめに行くか」
    「うーん……」
    「ほな、さっきみたいに二手に分かれとく?」
    「それがいいかな……」
     七人は相談し、小鈴・楢崎・シリンが戻り、そしてバート・エラン・フェリオ・フォルナが進むことにした。
    「まあ、晴奈たちと合流すりゃ百人力だろーし、そっちは散弾銃持ってるから問題ないでしょ」
    「今後ろで戦っているのがフローラと言う剣士なら、なるべく大勢で向かった方がいいだろうね」
    「せやな、さっき敵の黒いのんが強いって言うてたし」
    「ま、この3人ならだいじょーぶでしょ」
     小鈴たちはどこか余裕のある様子で、通路を戻り始めた。



     10分ほど歩いたところで、小鈴たちはその部屋に到着した。
     もっとも、「部屋」と言っても既に扉は破壊されており、壁もあちこちが破られている。もはや通路との間を区切るものが何も無い。音が響いてきたのも、そのせいだろう。
    「うわぁ……」
     予想通り、戦っているのはフローラのようだった。赤と白の服――元は全面真っ白だったと思われるが、既にここまでで何十人も斬ってきており、その服は前側だけが真っ赤に染まっている――を着ており、三人はすぐに「プリズム」の一人だと分かった。
     と、フローラの顔を見た小鈴と楢崎が声を上げる。
    「雪乃!?」「ゆ、雪乃くん!?」
     その声に気付き、フローラは戦っていた相手――ミューズと瞬也から距離を取り、三人に視線を向ける。
    「公安ね。……また、ユキノ、ユキノって。そんなに似ているのかしら? ……不愉快ね」
    「……いや、雪乃くんではないな」
    「そーね。……あんなおぞましい笑顔、初めて見たわ。雪乃にあんな顔、できるワケないし」
     フローラは晴奈やモノと戦った時のように、悠然と笑っている。まるで「自分が今置かれているこの状況は、部屋でのんびり読書をしている時と何ら変わりない、平和な状況だ」と言わんばかりのその顔を見て、シリンは舌打ちする。
    「……何や、あのヘラヘラ顔。なめとんのかいな」
     だが、小鈴たちは緊張を解かない。
    「なめてる、って言えばなめてるんでしょーね。……強いわ、あの女」
    「そうだね。今まで出会ったどんな剣士よりも、毒々しく、そして禍々しい剣気を放っている。恐らく僕やミーシャくんよりも、相当腕は上だろう」
    「ホンマかいな……」
     シリンは半信半疑と言う口ぶりで、もう一度フローラの方を見る。
     楢崎の言う通り、フローラの腕は確からしかった。相手をしていたミューズと瞬也は数の上では有利なはずだが、一目で劣勢と分かるほどボロボロになっている。
    「はぁ、はぁ……」
    「くそ、……っ」
     特にミューズの方はずっと瞬也をかばっていたらしく、袖口やコートの裾からボタボタと血が垂れていた。
     それを見た小鈴が咳払いし、場を引き締める。
    「くっちゃべってる場合じゃなかったわね。とりあえずどっちが悪そうに見える?」
    「白い方」
    「同感だ。あちらの二人を助太刀しよう」
     小鈴たちは素早くミューズたちの前に回り込み、二人を護る。それを見たミューズが邪魔そうに口を開く。
    「不要だ、どけ……」
    「それはないんじゃない? どー見ても瀕死よ、アンタ」
     小鈴の言う通りミューズのケガはひどく、強気な言葉も虚勢を張っているようにしか見えない。
    「……」
     ミューズもそれを感じたらしく、今度はもっと穏やかな口調になる。
    「これは、私とあいつの戦いだ。公安などに、助けを求めるわけにはいかん」
    「いーから、いーから。公安だとか組織だとかは、後回しにしましょ」
    「……すまない」
     ミューズは素直に従い、瞬也の手を引く。
    「折角の助けだ。引くぞ」
    「え、で、でも」
    「気にしないでいい」
     瞬也の前に立っていた楢崎が、優しく声をかけた。
    「困っている時に、敵も味方もあるものか。下がっていたまえ」
    「……はい」
     瞬也は楢崎の言葉に、コクリとうなずいた。



     楢崎も、瞬也も、この時はまだ互いの素性を――自分たちが親子であることを知らなかった。
     二人がそれを知ったのは、この戦いが終わってからである。

     だが、それはあまりに遅すぎた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    顔は勿論、声や背丈もほぼそっくりです。
    その内面は春の草原と常冬の荒野くらい違いますが。
    元をたどれば、どちらも「同じ材料」ですからね……。

    NoTitle 

    …本当にフローラは顔が似ているんでしょうね。
    顔が似ていると声や雰囲気まで似ると言いますからね。
    その辺りは反映されているのでしょうね。
    もっとも生い立ちでまったく内面は変わりますが。
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