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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・死淵録 6

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    晴奈の話、第382話。
    楢崎、激昂。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     1対3となったが、フローラの顔には依然、焦りの色も緊張した様子も浮かんでこない。心の底で嘲っているのがほの見える、優雅な笑顔が張り付いたままだ。
    「それで、誰から来るのかしら?」
    「ウチが行かせてもらうわ。……だあああッ!」
     シリンは咆哮を上げつつ、得意の飛び蹴りを放つ。だが、フローラは平然と左手一本で受け止めてしまう。
    「……っ! アンタも強化したクチかいな」
    「まあ、そうね。でも薬とか、術じゃないわ」
     フローラはシリンの脚を投げ、相手が着地した瞬間を狙って、右手に持った剣で突きを繰り出す。
    「おわ、っと」
     シリンは体をひねって間一髪避けたが、体勢を崩した瞬間にフローラの左腕がうなりを上げ、右肩にめり込んだ。
    「ぐえ、っ、……かっ、は……」
    「極めて物質的な、強化改造。柔らかい人体が、硬い鋼鉄に敵うと思って?」
     一撃でシリンの鎖骨と肩甲骨、肋骨が粉砕され、シリンは痛みで顔を歪める。
    「邪魔よ」
     そして次の瞬間、フローラは左足を水平に挙げ、シリンの腹を蹴り飛ばした。
    「ぐぼ……」
     悲鳴なのか、それとも無理矢理に肺の空気を押し出されて生じた音なのか――シリンはくぐもった声を短く上げ、部屋から吹っ飛んでいった。

    「な……」
     一瞬で仲間が倒され、小鈴も楢崎も唖然とする。
    「身の程知らずは早死にするわよ、クスクス……」
     この状況で笑うフローラを見て、小鈴は軽く吐き気を覚える。
    「おぞましい、って言うのかしらね。……アタマおかしいわ、アイツ」
    「ああ、同感だ。……最初から、本気を出さなきゃ負けるよ、これは」
    「本気を出さなきゃ、負ける?」
     楢崎の言葉を聞いたフローラが、きょとんとする。
    「……クス、クスクスクスクス、あははは、ははっ」
    「何がおかしい?」
    「ええ、おかしいわ。おかしくて、おかしくて。
     わたしは色々調べているのよ、ナラサキさん、タチバナさん。あなたたちの名前も知っているし、今蹴り飛ばしたのがミーシャさんと言うのも知っているわ。
     そしてわたしに殺されたセイナがナラサキさん、あなたに勝っていると言うことも」
    「……!?」
     フローラの言葉に、楢崎の目が見開かれる。小鈴も、息を呑んでいた。
    「黄くん、が……!?」
    「ええ、ついさっきね。それでね、ナラサキさん。セイナに負けたあなたが、セイナに勝ったわたしより強いなんて、論理的におかしいでしょう? もう負けているも同然なのに。
     本当、みんな身の程知らずなのね、アハハハハ……! セイナもあなたもミーシャさんも、このアジトに入り込んだ公安みんな、『アジトを突き止めればどうにかなる』『幹部を倒せばどうにかなる』『どうにかなる』『どうにかなる』って、根拠も思慮も無く、そう言い続けているんだもの!
     もうみんな、あんまりにもおバカさんでおバカさんで、くっくくくく、あはははは……っ!」
    「黄くんが、死んだ……?」
     楢崎の腕が、小刻みに震え出した。
    「あら? どうしたの、そんなに震えて」
    「……嘘だ……っ」
    「嘘じゃないわ。わたしの剣技に何度も貫かれて、彼女は全身ズタズタになって死んだわ」
     楢崎の震えが、より強くなる。
    「そんなにブルブル震えて……。怖い、ってわけじゃなさそうね。オーラが真っ赤に灼けているもの。まさに憤怒、激昂――怒っているのね、その全身で」
    「貴様……、許さんぞ……」
     楢崎が刀を上段に構える。その瞬間、小鈴の全身に汗が流れた。
    「あつ、っ……?」
     楢崎の気迫は、横にいた小鈴が恐ろしくなるほどに、熱く燃え盛っていた。
    「許さん、許さんぞ……、フローラ!」
    「許さない、許さないって……」
     フローラはまた笑う。
    「冗談も程々にしてほしいわね。あなたがわたしを許す? あなたみたいな格下が、わたしを許すだの許さないだの、おかしくてたまらないわ!」
     その言葉で楢崎の怒りに火が回り、爆発した。
    「うおおおおおあああーッ!」
     楢崎は刀に猛烈な炎を灯し、フローラに斬りかかった。
    「ふふ、バカみたい……」
     フローラは余裕綽々で剣を構え、自慢の腕力で楢崎の刀を弾き飛ばそうとした。
     ところが――。
    「……!?」
     思っていた以上の衝撃がフローラの両腕に伝わり、フローラの剣は弾かれた。
    「な、に……、これ!?」
    「おおおおおおおうッ!」
     楢崎の二太刀目が来る。ここで初めて、フローラの顔に緊張が走った。
    「くッ……」
     怒りに任せて振るわれた楢崎の刀をすれすれで避け、フローラは床に落ちた剣を拾う。
    「あ……」
     だが、楢崎の馬鹿力によって剣はくの字、いや、Vの字に曲がり、とても使える状態ではなかった。
    「何よこの、無茶苦茶な力……!?」
    「おりゃあああーッ!」
     楢崎の三太刀目が、フローラの頭上に落ちてきた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    お気付きの方も多いかと思いますが、
    「蒼天剣」にはちょこちょこと「パロディ」が差し込まれています。

    「そのネタ」を知ってる人を笑わせようと、かつ、
    あんまり真似しすぎてもいけないように、
    うっすら差し込む程度にしているんです、が。



    死淵録・4にて、ちょっとその度が過ぎたようです。
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