「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・死淵録 7
晴奈の話、第383話。
怒りの猛攻。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
紅蓮塞の三傑――藤川、篠原、そして楢崎。
この三人には、ある共通点があった。それは脳の「眠っている」感覚を引き出す能力を、先天的に有していた点である。
「霊剣」藤川英心は、他人の集中力が途切れる瞬間を見抜くことができた。その力を応用し、相手にまったく知覚されることのない攻撃を可能にした。
「魔剣」篠原龍明は、相手の指先や踏み込み、視線や呼吸などのわずかな動きから、次に相手がどんな行動をするのか読むことができた。そして自分の戦い方にそれを組み込み、比類なきカウンター術で数多くの敵を葬ってきた。
そして「剛剣」楢崎瞬二。彼にも特殊な性質があった。
晴奈たちの時代にはまったくそぐわない、現代科学の話になるが、脳には「リミッター(制御装置)」が存在すると言われている。
本来ならば人間の力――重力や慣性力を伴わない、純粋な「筋力」と言うものは、途方も無く強いと言われている。端的には百数十キロあるグランドピアノを運べ、鋼鉄製のフライパンを拳大に丸めることさえ可能だと言う。
だが、そんな無茶苦茶な力を常時出していては、筋肉や骨、血管や神経に重大なダメージを与え、自壊させてしまう。そこで普段は脳が制御し、筋力を最大限発揮しないように抑えているのだ。
しかし楢崎は――。
「おりゃあああーッ!」
楢崎の刀がフローラの頭をめがけて振り下ろされる。
「は、ぁ……っ」
フローラは剣を捨て、手足のバネを使って避ける。振り下ろされた刀は石畳の床に当たり、事も無げに切り裂いた。
「……!」
その光景を見たフローラの額に、ぶわっと汗が広がる。
「まさか……、生身でわたしと同じくらい、力が出せるなんて」
「ハァ、ハァ……、昔からね」
楢崎はまだ怒りに震えた様子を見せつつ、刀を床から引き抜く。
「気合を込めると、力が強くなるんだ。特に、怒っている時は……」
また楢崎が刀を振り上げ、フローラに襲い掛かる。
「天井知らずで、ね……ッ!」
「チッ……」
楢崎の猛攻をギリギリで避けながら、フローラは代わりの剣を探す。
「うおりゃあッ!」
だが、楢崎が自分で言っていた通り、楢崎の力は戦いが長引くにつれ増していく。そしてついに、ほんの先端ではあるが、楢崎の刀がフローラの左肩をかすめた。
「う……っ」
かすった瞬間、フローラは顔を歪める。そして一呼吸遅れて、裂けた肩口が赤く染まりだした。
楢崎のあまりの剣幕を見せ付けられ、手出しできなかった小鈴が、相手を冷静に観察する。
「人形、って言っても、胴体は『ナマ』なのね」
「ああ……。私も頭と胴体の半分は人間だ」
いつの間にか横にいたミューズが、小鈴のつぶやきに応える。
「フローラは両手両足が人形の状態にあり、それを鋼鉄製の素材に置き換えて強化している。下手に突っ込めば……」
そう言って、ミューズはあごをしゃくる。その方向を向いた小鈴の目に、通路の壁に上半身を突っ込んで気絶しているシリンが映った。
「……なるほどねー。んで、アンタ大丈夫なの?」
「ああ、私自身も体を改造していてな、強い魔力源を体内に内蔵することで、高出力の魔術が使える。それで何とか、動ける程度には回復したが……」
ミューズはもう一度、シリンを見つめる。
「あいつを掘り起こすほど、状態は改善していない。腕もまだ満足に動かせなくて、な」
「助けてくれるの? 敵なのに」
「クク……、『緊急事態に敵も味方もあるか』と言っていただろう? それに、助けてくれた恩は返さねば」
「あら、ありがと」
楢崎に助太刀できそうも無いので、小鈴はミューズと一緒にシリンを助けることにした。
「……えいっ」
シリンが埋まっている壁を土の術で軟化させ、ずるりと引っ張り出す。
「うわぁ……、頭割れてんじゃない」
小鈴とミューズは共に術を使い、シリンを回復させる。
「う、ん……」
元々からタフなためか、シリンはすぐに回復した。
「よし。まだ目覚まさないけど、こっちは大丈夫そうね」
一安心し、楢崎たちの様子を見た小鈴は言葉を失った。
「……う、わ、っ」
楢崎とフローラの戦いは――と言うよりも、剣を失ったフローラが一方的に追い回されている状態だったが――まるで鬼神が暴れているような様相を呈していた。
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怒りの猛攻。
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紅蓮塞の三傑――藤川、篠原、そして楢崎。
この三人には、ある共通点があった。それは脳の「眠っている」感覚を引き出す能力を、先天的に有していた点である。
「霊剣」藤川英心は、他人の集中力が途切れる瞬間を見抜くことができた。その力を応用し、相手にまったく知覚されることのない攻撃を可能にした。
「魔剣」篠原龍明は、相手の指先や踏み込み、視線や呼吸などのわずかな動きから、次に相手がどんな行動をするのか読むことができた。そして自分の戦い方にそれを組み込み、比類なきカウンター術で数多くの敵を葬ってきた。
そして「剛剣」楢崎瞬二。彼にも特殊な性質があった。
晴奈たちの時代にはまったくそぐわない、現代科学の話になるが、脳には「リミッター(制御装置)」が存在すると言われている。
本来ならば人間の力――重力や慣性力を伴わない、純粋な「筋力」と言うものは、途方も無く強いと言われている。端的には百数十キロあるグランドピアノを運べ、鋼鉄製のフライパンを拳大に丸めることさえ可能だと言う。
だが、そんな無茶苦茶な力を常時出していては、筋肉や骨、血管や神経に重大なダメージを与え、自壊させてしまう。そこで普段は脳が制御し、筋力を最大限発揮しないように抑えているのだ。
しかし楢崎は――。
「おりゃあああーッ!」
楢崎の刀がフローラの頭をめがけて振り下ろされる。
「は、ぁ……っ」
フローラは剣を捨て、手足のバネを使って避ける。振り下ろされた刀は石畳の床に当たり、事も無げに切り裂いた。
「……!」
その光景を見たフローラの額に、ぶわっと汗が広がる。
「まさか……、生身でわたしと同じくらい、力が出せるなんて」
「ハァ、ハァ……、昔からね」
楢崎はまだ怒りに震えた様子を見せつつ、刀を床から引き抜く。
「気合を込めると、力が強くなるんだ。特に、怒っている時は……」
また楢崎が刀を振り上げ、フローラに襲い掛かる。
「天井知らずで、ね……ッ!」
「チッ……」
楢崎の猛攻をギリギリで避けながら、フローラは代わりの剣を探す。
「うおりゃあッ!」
だが、楢崎が自分で言っていた通り、楢崎の力は戦いが長引くにつれ増していく。そしてついに、ほんの先端ではあるが、楢崎の刀がフローラの左肩をかすめた。
「う……っ」
かすった瞬間、フローラは顔を歪める。そして一呼吸遅れて、裂けた肩口が赤く染まりだした。
楢崎のあまりの剣幕を見せ付けられ、手出しできなかった小鈴が、相手を冷静に観察する。
「人形、って言っても、胴体は『ナマ』なのね」
「ああ……。私も頭と胴体の半分は人間だ」
いつの間にか横にいたミューズが、小鈴のつぶやきに応える。
「フローラは両手両足が人形の状態にあり、それを鋼鉄製の素材に置き換えて強化している。下手に突っ込めば……」
そう言って、ミューズはあごをしゃくる。その方向を向いた小鈴の目に、通路の壁に上半身を突っ込んで気絶しているシリンが映った。
「……なるほどねー。んで、アンタ大丈夫なの?」
「ああ、私自身も体を改造していてな、強い魔力源を体内に内蔵することで、高出力の魔術が使える。それで何とか、動ける程度には回復したが……」
ミューズはもう一度、シリンを見つめる。
「あいつを掘り起こすほど、状態は改善していない。腕もまだ満足に動かせなくて、な」
「助けてくれるの? 敵なのに」
「クク……、『緊急事態に敵も味方もあるか』と言っていただろう? それに、助けてくれた恩は返さねば」
「あら、ありがと」
楢崎に助太刀できそうも無いので、小鈴はミューズと一緒にシリンを助けることにした。
「……えいっ」
シリンが埋まっている壁を土の術で軟化させ、ずるりと引っ張り出す。
「うわぁ……、頭割れてんじゃない」
小鈴とミューズは共に術を使い、シリンを回復させる。
「う、ん……」
元々からタフなためか、シリンはすぐに回復した。
「よし。まだ目覚まさないけど、こっちは大丈夫そうね」
一安心し、楢崎たちの様子を見た小鈴は言葉を失った。
「……う、わ、っ」
楢崎とフローラの戦いは――と言うよりも、剣を失ったフローラが一方的に追い回されている状態だったが――まるで鬼神が暴れているような様相を呈していた。



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