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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・死淵録 8

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    晴奈の話、第384話。
    激怒と後悔の果てに。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     楢崎の猛攻を半ば必死で交わしつつ、フローラは状況の打開を考えていた。
    (剣が無ければ『九紋竜』は出せない。それを使わなければ恐らく、こいつは倒せそうに無いわ。……どこかに無いかしら)
     自分の剣は既に楢崎によって曲げられ、使用不可能である。ミューズも剣を持っていたが、それも先程、自分が使い物にならないほど叩きすえて、刃こぼれさせてしまっていた。
    (まさか、この男がこれほど手強い相手だとは思わなかったわ。流石に『三傑』、『剛剣』と呼ばれるだけはあったわね。
     ともかく、剣を手に入れないと……)
     だが、そうそう都合よく武器になるものは、自分の近くに無かった。部屋の中にあった家具なども、自分とミューズが戦った時の余波を受け、原形を留めていない。
    「はああッ!」
     それに何より、楢崎の攻撃が先程からわずかずつではあるが自分の体にダメージを与えており、出血も増してきている。
     早々にけりを付けなければ、そのままねじ伏せられてもおかしくは無い状態だった。

     楢崎の心中は依然、怒りでたぎっている。
    (こいつが、黄くんを、黄くんを……ッ!)
     同門であり、親しい雪乃の一番弟子であり、名実共に優秀な剣士と己が認めた晴奈を、フローラは殺したと――笑顔で、悪びれる様子も無く、さらりと――言ったのだ。
    (嗚呼……! 僕はまた、また、やってしまった! またも、大切な人間を護れなかった!)
     晴奈を思えば思うほど、楢崎の怒りは湧き上がる。
    (そりゃ、僕の実力で護るなんて言える子じゃない。それは分かっているさ。
     分かっているけれども、もしかしたら、……一緒に、その場にいれば、黄くんは死ななかったかも知れないじゃないか! 何故、共に戦おうとしなかったんだ!
     心のどこかで、慢心があった――僕らは十二分に強いから、きっと何とかなるさって。……『何とかなる』? こいつの、フローラの言った通りじゃないか!
    『何とかなる』って安易に構えて、寡数で行かせた結果がこれだ! 何故、安全を重視して、みんなで進もうとしなかったんだ!)
     怒りで燃え盛る頭に、次第に申し訳なさが募ってくる。
    (嗚呼、黄くん……! すまない……っ! せめて……)
     執念の末、楢崎の刀がついにフローラの左腕を捉え、刃が食い込む。
    (せめて、こいつだけは……! こいつを倒し、仇を取らなければ……っ!)
     ギチギチと音を立て、金属製の腕が裂け始めた。

     だが、それまで若干青ざめ、戦々恐々としていたフローラの顔に、またあの凄絶な笑みが浮かび始めた。
    「……そうだわ、あったじゃない」
    「……何?」
     フローラは右腕で、左腕に食い込んだ刀をつかんだ。
    「うっ……!」
    「そうよ、敵が散々振っていたと言うのに」
     刀が刺さったままの左腕も器用に動かし、フローラは両手で刀身を握り締める。
    「これを、使わない手はないわよね」
    「く、この……っ」
     楢崎は懸命に刀を引っ張るが、自分が握れるのは鍔から下、柄の部分だけである。対して相手は、刀身の大部分を素手――金属製の手でつかめるのだ。
     そしてこの時、両者の力は互角である。力をかけられる範囲が多い分、フローラの方が圧倒的に有利だった。
    「ふ、ふふ……っ」
    「く、そ、……っ」
     競り負けたのは、楢崎だった。刀は楢崎の手を離れ、フローラの元に移ってしまった。
    「残念だったわね、クス、クスクス……」
    「……~ッ!」
     顔を真っ赤にして憤慨する楢崎を嘲笑いながら、フローラは「九紋竜」を放った。
     だが次の瞬間、楢崎の姿が消えた。そして、楢崎のはるか後方にいた小鈴たちもいない。さらには、先程まで戦っていたミューズと瞬也の姿も――。
    「……『テレポート』ね。忌々しいわ」
     口ではそう言ったものの、フローラは笑っていた。
    (でも、少なくとも2発、いえ、3発は当たったはず。1発でも直撃すれば致命傷のこの技を、それだけ食らえば……)



     フローラの形勢逆転を察知したミューズは、小鈴と瞬也の力を借りて「テレポート」を試みていた。そして術自体は成功し、眠ったままのシリンと、楢崎を引っ張ってくることができたのだが――。
    「まずい、これは……」
     楢崎の胸と腹部には、大穴が開いていた。小鈴と一緒に、懸命に癒しの術を唱えるが、一向に傷はふさがらない。
    「治って、治ってよ! 早く、早くさぁ……!」
     小鈴は顔を真っ青にして呪文を唱えている。ミューズも傷口を押さえつつ術を使うが、血の勢いが弱まらない。
    「いい、いいよ……、多分もう、だめだ……」
    「そんなコト、言わないでよ、瞬二さん!」
     小鈴が涙声で楢崎の弱気をたしなめる。と、今までずっと黙っていた瞬也が、驚いた声を上げた。
    「しゅん、じ? ならさき、しゅんじ、……さん?」
     小さい声だったが、それでも楢崎の耳に、その声は届いた。

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    2016.09.04 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    RPGや某潜入アクションならアイテム欄に
    武器をまとめておけますが、現実には不可能ですからねぇ。
    この時のフローラの気転は中々のものです。
    自分に刺さったものを自分の得物にするとは、
    「まともな人間」ならできないでしょうね。

    11万件達成おめでとうございます。
    これからもよろしくです。

    NoTitle 

    なかなか想定していなかった状況だと武器の調達が難しいですよね。グッゲンハイムでもユキノが武器が壊れて、困っていましたが。戦争になると様々な場面を想定して仕込みの武器などをあつらえますけど、なかなかそれ以外だと装備してないですからね。
    RPGみたいに一つの武器だけでいいというわけではありませんからね。

    私ごとながら、
    私のブログが11万ヒット突破しました!!
    いつも来訪ありがとうございます!!
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