「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・白色録 1
晴奈の話、第386話。
親友(とも)の応援。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
《ざけんな、セイナ》
「え……?」
晴奈は閉じていた目を開ける。
《まだ……、終わっちゃいねえだろうがよ》
そこには、全身真っ黒な狼獣人が立っていた。
その狼獣人には見覚えがある。いや、それどころではない。何年も戦い、そして無二の親友と感じていたあの男だった。
「ロウ……!?」
《ああ、そうだ。……ウィルって呼んでもいいぜ》
彼の服は、ゴールドコーストでいつも見ていたような央中風の普段着ではなく、黒炎教団の僧兵服になっている。
「記憶が、戻ったのか?」
ウィルは晴奈の手を離し、隣に腰掛ける。
《ああ。……でも遅いよな、今更。死んじまっちゃ、親父にも、兄貴や姉貴にも、嫁さんと子供できたなんて報告できねーしよ》
「そう、だな」
すぐ隣にいるのに、ウィルの声は遠くから聞こえるように、妙にひずんでいる。
《なあ、……だからさ、セイナ。伝えてくんねーかな、親父たちに。『オレの家族がゴールドコーストにいる』ってよ》
「……道理を考えてものを言え、ウィル。私はもう……」《だから、ざけんなって言ってんだろ?》
ウィルは晴奈をにらみ、声を荒げる。
《お前はまだ、行けるはずだぜ? オレの声、どう聞こえてる?》
「え……?」
《お前が本当に『こっち』の住人になっちまったってんなら、オレの声は変な風に聞こえてねーはずだ。
それとも、本当にもう、お前は死んじまったって言うのか?》
「……」
晴奈はウィルから顔をそむけ、猫耳をしごき出す。
「確かにお主の声は先程から、妙に遠く聞こえる。ならば、私はまだ死んでいないと、そう言うことになるのだな」
《そうだよ、だからさ……》「だが」
晴奈は両手で顔を覆い、震える声で心中を語り始めた。
「……だが、今生き返って、どうなると言うのだ? 既に私は負けたのだ」
《だから?》
「私は、怖いのだ……! 生き返ればまた、私を殺したあの女と戦わねばならぬ」
《怖い? 本気で言ってんのか、それ?》
ウィルの顔が怒りでこわばり始めるが、それでも晴奈の口は止まらない。
「本気、だとも。あの女は私の刀を、あの『大蛇』をやすやすと砕き、私を幾度も壁に叩きつけた。勝てる気がしないのだ……!
そもそも刀を失った今、どうやって対抗しろと言うのだ? 素手で戦える相手では、ない」
《何を寝言、吹かしてやがる》
晴奈がそこまでしゃべったところで、ウィルが両手で包み込むように晴奈の顔をつかんで、ぐいっと引き寄せる。
《情けねーな、セイナ。忘れたのかよ?》
「え?」
ウィルは晴奈の顔をつかんだまま、熱い口調で語りだす。
《お前の故郷の、黄海の近くで戦った時。お前、オレに刀を折られたよな?
んで、その後どうした? 逃げたか? 違うよな?》
「……」
そう詰問され、晴奈は記憶を掘り起こす。
「……ああ、そうだったな。確かに私はあの時、逃げたりせずに脇差で戦った」
《だろ? その結果、粘り勝ちみたいにして勝ちやがった。お前は、セイナってヤツは、そう言うヤツなんだよ。
お前はどんなに窮地に陥ろうとも、どんなに逆境へ入り込もうとも、決してめげないヤツだ。黄州平原でも、アマハラの隠れ家でも、どこだってそうやって凌いで、勝ちをもぎとってきたじゃねーか。
だからセイナ、もっかい頑張ってみろって》
晴奈は依然顔をつかまれたまま、それでも逡巡する。
「……しかし……」
《『しかし』、何だよ?》
「私が、……私は、負けたのだ。勝つことなど、できるのか?」
《セイナ……》
そこでようやく、ウィルは晴奈の顔から手を離した。
《変だぜ、お前。何つーか、心が折れてるっつーか》
「……ああ、折れたのだ。
『大蛇』が折れたあの時、私の心も同時に、音を立てて折れてしまった。あの瞬間を思い出せば思い出すほど、私の心がガクガクと震え、全身が冷たくなる……!
最早私に、戦うことなど……!」
《まだ寝ぼけてやがるのか、てめーは!》
ウィルはもう一度晴奈をにらみつけ、平手打ちを食らわせた。
「うっ……」
《お前が口先でどーのこーの言ってよーが、んなもん関係あるかッ!
もうお前しかいねーんだよ、戦えるヤツは!》
「な……に?」
《今さっき、ナラサキさんがやられた。シリンも目を覚まさねー。
あのうさんくせー賢者も、体を奪ったばっかで全然本調子じゃねーんだ。
公安のヤツらじゃぜってー勝ち目はねーし、味方になった敵も怯えちまってる。
それに、……それに、エフも今、あそこにいるんだぜ?》
「え、ふ?」
もう一度、ウィルが晴奈の頬に手を当てて顔を近付ける。
《エフ……、フォルナのコトだよ。あいつもお前を追っかけて、あの穴倉の中にいる。
お前、できるとかできないとか、んなコト考えるヤツだったか? オレの知ってるセイナは、黄晴奈は、そんなボンクラなんかじゃねーぞ。
本当の、本来のお前なら、『できる』『できない』じゃなく、『やる』『やらない』で行動するヤツだったはずだ!
いいや、いつものお前ならこう言うはずだッ! 『どれほど敵が強大だろうと、私はやらねばならぬのだ』ってな!》
「……!」
ウィルの熱く燃える瞳に射抜かれ、晴奈の心に火が灯った。
「やらねば、ならぬ。……か」
《そーだよ。お前が今、やらなきゃ。今、戦わなきゃ。みんな死んじまうんだ。
大体な、心が折れたとか抜かしてたけど、んなもん燃やして、いっぺん融かしちまえばいいんだよ。
お前の心は鋼鉄の刀だ。折れたってんならもっかい融かして、固めて、叩いて、もっかい新しく刀にしちまえばいい。
……燃えろよ、セイナ》
そう言うなり、ウィルは晴奈に顔を近付け――口付けした。
@au_ringさんをフォロー
親友(とも)の応援。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
《ざけんな、セイナ》
「え……?」
晴奈は閉じていた目を開ける。
《まだ……、終わっちゃいねえだろうがよ》
そこには、全身真っ黒な狼獣人が立っていた。
その狼獣人には見覚えがある。いや、それどころではない。何年も戦い、そして無二の親友と感じていたあの男だった。
「ロウ……!?」
《ああ、そうだ。……ウィルって呼んでもいいぜ》
彼の服は、ゴールドコーストでいつも見ていたような央中風の普段着ではなく、黒炎教団の僧兵服になっている。
「記憶が、戻ったのか?」
ウィルは晴奈の手を離し、隣に腰掛ける。
《ああ。……でも遅いよな、今更。死んじまっちゃ、親父にも、兄貴や姉貴にも、嫁さんと子供できたなんて報告できねーしよ》
「そう、だな」
すぐ隣にいるのに、ウィルの声は遠くから聞こえるように、妙にひずんでいる。
《なあ、……だからさ、セイナ。伝えてくんねーかな、親父たちに。『オレの家族がゴールドコーストにいる』ってよ》
「……道理を考えてものを言え、ウィル。私はもう……」《だから、ざけんなって言ってんだろ?》
ウィルは晴奈をにらみ、声を荒げる。
《お前はまだ、行けるはずだぜ? オレの声、どう聞こえてる?》
「え……?」
《お前が本当に『こっち』の住人になっちまったってんなら、オレの声は変な風に聞こえてねーはずだ。
それとも、本当にもう、お前は死んじまったって言うのか?》
「……」
晴奈はウィルから顔をそむけ、猫耳をしごき出す。
「確かにお主の声は先程から、妙に遠く聞こえる。ならば、私はまだ死んでいないと、そう言うことになるのだな」
《そうだよ、だからさ……》「だが」
晴奈は両手で顔を覆い、震える声で心中を語り始めた。
「……だが、今生き返って、どうなると言うのだ? 既に私は負けたのだ」
《だから?》
「私は、怖いのだ……! 生き返ればまた、私を殺したあの女と戦わねばならぬ」
《怖い? 本気で言ってんのか、それ?》
ウィルの顔が怒りでこわばり始めるが、それでも晴奈の口は止まらない。
「本気、だとも。あの女は私の刀を、あの『大蛇』をやすやすと砕き、私を幾度も壁に叩きつけた。勝てる気がしないのだ……!
そもそも刀を失った今、どうやって対抗しろと言うのだ? 素手で戦える相手では、ない」
《何を寝言、吹かしてやがる》
晴奈がそこまでしゃべったところで、ウィルが両手で包み込むように晴奈の顔をつかんで、ぐいっと引き寄せる。
《情けねーな、セイナ。忘れたのかよ?》
「え?」
ウィルは晴奈の顔をつかんだまま、熱い口調で語りだす。
《お前の故郷の、黄海の近くで戦った時。お前、オレに刀を折られたよな?
んで、その後どうした? 逃げたか? 違うよな?》
「……」
そう詰問され、晴奈は記憶を掘り起こす。
「……ああ、そうだったな。確かに私はあの時、逃げたりせずに脇差で戦った」
《だろ? その結果、粘り勝ちみたいにして勝ちやがった。お前は、セイナってヤツは、そう言うヤツなんだよ。
お前はどんなに窮地に陥ろうとも、どんなに逆境へ入り込もうとも、決してめげないヤツだ。黄州平原でも、アマハラの隠れ家でも、どこだってそうやって凌いで、勝ちをもぎとってきたじゃねーか。
だからセイナ、もっかい頑張ってみろって》
晴奈は依然顔をつかまれたまま、それでも逡巡する。
「……しかし……」
《『しかし』、何だよ?》
「私が、……私は、負けたのだ。勝つことなど、できるのか?」
《セイナ……》
そこでようやく、ウィルは晴奈の顔から手を離した。
《変だぜ、お前。何つーか、心が折れてるっつーか》
「……ああ、折れたのだ。
『大蛇』が折れたあの時、私の心も同時に、音を立てて折れてしまった。あの瞬間を思い出せば思い出すほど、私の心がガクガクと震え、全身が冷たくなる……!
最早私に、戦うことなど……!」
《まだ寝ぼけてやがるのか、てめーは!》
ウィルはもう一度晴奈をにらみつけ、平手打ちを食らわせた。
「うっ……」
《お前が口先でどーのこーの言ってよーが、んなもん関係あるかッ!
もうお前しかいねーんだよ、戦えるヤツは!》
「な……に?」
《今さっき、ナラサキさんがやられた。シリンも目を覚まさねー。
あのうさんくせー賢者も、体を奪ったばっかで全然本調子じゃねーんだ。
公安のヤツらじゃぜってー勝ち目はねーし、味方になった敵も怯えちまってる。
それに、……それに、エフも今、あそこにいるんだぜ?》
「え、ふ?」
もう一度、ウィルが晴奈の頬に手を当てて顔を近付ける。
《エフ……、フォルナのコトだよ。あいつもお前を追っかけて、あの穴倉の中にいる。
お前、できるとかできないとか、んなコト考えるヤツだったか? オレの知ってるセイナは、黄晴奈は、そんなボンクラなんかじゃねーぞ。
本当の、本来のお前なら、『できる』『できない』じゃなく、『やる』『やらない』で行動するヤツだったはずだ!
いいや、いつものお前ならこう言うはずだッ! 『どれほど敵が強大だろうと、私はやらねばならぬのだ』ってな!》
「……!」
ウィルの熱く燃える瞳に射抜かれ、晴奈の心に火が灯った。
「やらねば、ならぬ。……か」
《そーだよ。お前が今、やらなきゃ。今、戦わなきゃ。みんな死んじまうんだ。
大体な、心が折れたとか抜かしてたけど、んなもん燃やして、いっぺん融かしちまえばいいんだよ。
お前の心は鋼鉄の刀だ。折れたってんならもっかい融かして、固めて、叩いて、もっかい新しく刀にしちまえばいい。
……燃えろよ、セイナ》
そう言うなり、ウィルは晴奈に顔を近付け――口付けした。



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
おおう、名前間違えましたね。
申し訳ございません。
確かに彼女が負けると話になりませんからね。
あんまりウィル君が枕元に立たれると嫌ですが。
申し訳ございません。
確かに彼女が負けると話になりませんからね。
あんまりウィル君が枕元に立たれると嫌ですが。
- #1567 LandM
- URL
- 2013.02/28 16:00
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
コンティニューは一回限りにしたいところ。