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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・白色録 2

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    晴奈の話、第387話。
    黄泉からの帰還。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「んっ……、んーっ!?」
     ウィルに口付けされたまま、晴奈は顔を真っ赤にしてもがく。
     この状態では晴奈はしゃべれないが、どうやらウィルは普通に話せるらしい。
    《はは、はははっ》
    「んー! むー!」
    《いっぺん、やってみたかったんだ。『ウィル』の記憶が戻ったら、お前に、こうしてみたくってたまらなかった。
     ま、シルにゃちょっと悪いけど》
    「んんん! んむむ!」
     長い接吻の後、ようやくウィルが顔を離す。晴奈は口を両手で覆い、わめきだした。
    「にゃ、にゃっ……、にゃりにょすりゅ、きしゃまー!」
    《ぶっ……、はは、はっははははっ!》
     興奮で呂律が回らない晴奈を見て、ウィルは大笑いした。
    《きしゃま、だってよ! くく、ぶっ、ぷぷ……》
    「ハァ、ハァ……。きっ、貴様っ! いっ、いきなりっ、なっ、なな、何をするっ! わた、私の、私のっ」
    《ぶはははは、はー……。ああ、面白かった! 予想以上に、いい反応してくれたもんだぜ》
    「うにゃ、がっ、ふにゃあああ~!」
     興奮が収まらない晴奈はわめき続けるが、自分でも何を言っているか分からないくらい、言葉がまとまらない。
    《……もう飛んでったろ? あの女のコトなんて》
    「えっ?」
     突然真面目な顔になったウィルにそう問われ、晴奈は内省する。
    「……ま、まあ。確かに、そうだ、な。お主の、……その……、あれ、で、何だか、どうでも良くなった、気がする」
    《だろ? ……どーだよ? 今、お前は震えてるか?》
     そう問われ、晴奈は我が身を振り返る。先程までガタガタと震えていた体は、何も無かったように静止している。
    「……いいや」
     晴奈の様子を見たウィルは、ニヤッと笑って腰を上げた。
    《よっしゃ、『焼き入れ』完了だな。
     頑張ってこいって、セイナ。お前なら、やれる。さっさと戻ってあんなクソ女、とっとと退治してこいよ。
     ……そんで、それが片付いたら、……頼む。シルとガキたちに、『父さんはお前らのコト、ずっと見守ってるから』って。
     それから親父に、『オレは最期になって、ようやく悔い改めた。本当に不出来な息子で、すまなかった』って。……そう、言っといてくれよ》
     ウィルはそう言って、踵を返した。
    「おい……? 待て、ウィル」
     晴奈が呼び止めたが、ウィルは背を向けたまま手を振り、そのまま虚空へと消えた。

     もう周りの星は、沈まなかった。



    「……う」
     晴奈の体を掘り出そうとしていたシグマ兄妹は、うめくような声を聞き取った。
    「ん? ……何か言うたか、キリア?」
    「いいえ? 兄さんじゃないの、今の」
    「ちゃうで。……気のせい、っちゅうワケやなさそうやな」
     ヘックスたちは壁から離れ、辺りの様子を探る。
    「誰も……、いないわね」
    「ああ……」
     そこでまた、うめき声が聞こえてくる。
    「……う、ぬ」
     ヘックスとキリアは青ざめ、互いに顔を見合わせる。
    「……聞こえた?」
    「お、おう。……まさか、とは思うけど」
     そこでヘックスが、壁に埋まった晴奈にチラ、と視線を向けた。
    「……!?」
     視線を向けた瞬間、ヘックスは口から心臓が出るかと思うほどに驚いた。
    「すまぬ。ちと、手を貸してくれ」
     先程まで完全に死んでいたはずの晴奈が、右手を差し出していた。
    「嘘でしょ……。完璧に、死んでたはずよ!?」
    「お、お前まさか、ゾンビかなんかになったんちゃうやろな?」
     遠巻きに見つめられた晴奈は、憮然とした口ぶりで手を振る。
    「ふざけたことを。……いいから、手を貸せ」
    「あ、……はい」
     兄妹は恐る恐る、晴奈の手を引っ張った。その手には確かに脈があり、温かい。
    「ホンマに、生きとる……」
    「信じられない……」
     兄妹の手を借り、晴奈は壁から抜け出した。
    「ふう……。ああ、あちこちが痛い」
    「そりゃ、あれだけ打ち込まれたら、……あ、あの、コウ?」
    「うん?」
     キリアが兄の前に立ち、晴奈の姿を隠すようにして話しかけた。
    「その、あなた。……服が」
    「服?」
    「……見えてる」
    「何?」
     そう言われ、晴奈は自分の体を確かめる。
    「……~っ!?」
     道着がボロボロに千切れ、さらしも解け、彼女の(あまり豊かではない)胸が見え隠れしていた。
     晴奈は声にならない叫びを上げ、その場にしゃがみこんでしまった。

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    2016.09.11 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    こっちの主人公はまだまだ若いですからねぇ。
    逆に泰然としていたら、ちょっと引きますね。

    NoTitle 

    ・・・うむ、そういえば、グッゲンハイムにこういうのはないですね。
    主人公がある程度大人ということも原因の一つかもしれないですね。照れと羞恥心は大切ですね。

    NoTitle 

    晴奈は剣術以外の要素は初心で純情な女の子ですからねぇ。
    次話の時点では平静を装ってはいますが、そこに移るまでの行間で、目一杯動揺していたり。

    NoTitle 

    胸が見えた程度で剣士がしゃがみこんだら士道不覚悟のような(^^;)

    たしかに純情な晴奈ちゃんらしい反応ですが。

    まあかわいいからいいか!(^^)
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