「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・白色録 5
晴奈の話、第390話。
ねじれる再戦。
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5.
ねじれ、とでも言えばいいのか。
刀を使う晴奈がキリアから借りた剣を握り、逆に剣を使うフローラが楢崎から奪った刀を握っている。
死んだはずの晴奈がよみがえり、無から作られた存在のフローラと対峙している。
そして、己の中に巣食う修羅を完成させた「阿修羅」フローラが、修羅の気を払い去った晴奈と戦っているのだ。
武器、因縁、性根――あらゆるものがねじれ、絡み合い、その場は異様な雰囲気を呈していた。
「さっさと死になさい……! 『九紋竜』!」
フローラが刀を振り、青白い光弾を放つ。
「えやあああッ!」
晴奈は剣にあらん限りの闘志を注ぎ込み、真っ赤に燃え盛る炎でそれを弾き飛ばす。
「な……!?」
その光景に、薄ら笑いを浮かべていたフローラは目を丸くする。
「……ふうん。さっきより全然、マシな戦い方をするじゃない」
「甘く見るな! 今度死ぬのは貴様だッ! 『火射』!」
晴奈の剣が火を噴き、フローラへ向かって放射される。
「くっ……!」
フローラは刀を横に薙ぎ、炎の剣閃を真っ二つに割った。
「一体何があったのかしら? まるで別人ね」
「貴様も堕ちてみれば分かるさ、色々とな……!」
晴奈の闘気は、時間が経つにつれ熱気を増していく。既にこの時、手にしていた剣はぼんやりと赤く光り始めていた。
「でも、やっぱりダメね。見てみなさいよ、その剣。灼け始めてるじゃないの、クスクス」
「それがどうしたッ!」
「分からない? そのままヒートアップしていけば、いずれその剣は折れるわ。……もって、10分と言うところかしらね」
フローラは刀を振り回し、縦横無尽に光弾を撃ち出していく。晴奈は剣でそれを受けるが、確かにフローラの言う通り、受けた時の様子が変化し始めている。
戦い始めた当初はキン、キンと言う鋭い音と共にわずかに火花を散らしていたが、今はその音が鈍くなり、火花も尾を引いている。急激な温度変化により、剣を構成している金属が粘性を帯び始めている――即ち、剣が晴奈の気合に耐え切れず、融解しかかっているのだ。
「ほらほら、どうしたの!? またあの世が恋しくなったのかしら!?」
「なるか、外道め! 真に彼岸がふさわしいのは、貴様の方だッ!」
それでも晴奈の気合、そして魔力は加速度的に膨らんでいく。剣の赤みがさらに増し、薄暗い通路がぼんやりと照らされるほどに明るく輝き始めた。
「言っても分からないようね、クス、クスクス……。10分どころじゃないわ。もう2、3分でその剣は限界に達する!
その時があなたの果てる時よ、セイナ!」
「いいや、果てるのは……」
晴奈は一層気合を込め、剣に膨大な熱量を与え続ける。
「貴様だーッ!」
この瞬間、剣はほとんど真っ白と言ってもいいほどに輝き、同時に空気が煮え立つ。
「『炎剣舞』ッ!」
その瞬間、通路は真っ赤に照らされ、フォルナの視界がさえぎられる。
「う……っ」
屋内から白日の下に躍り出た時のように、目の前が真っ暗になる。
「……」
光が消えたところで、フォルナは目をしばたたかせて視力を取り戻そうとする。だが、あまりに激しい輝度の変化で、すぐには様子が見えない。
「……ハァ、ハァ……」
晴奈の呼吸する声が聞こえてくる。フォルナは一瞬、晴奈が勝ったのかと期待した。
しかし――。
「……ほら、言ったじゃない」
フローラの勝ち誇ったような声が、耳に飛び込んでくる。
「面白いものが見れたわね。
何よ、その剣? まるで溶けかけたチョコレートみたい」
ようやく視力の戻ってきたフォルナの目に映ったのは、どろりと刀身が曲がった剣を握り締めた晴奈の姿だった。
晴奈の剣は融け、最早原形を留めていない。対してフローラの刀は、見たところ何の変化も無い。
彼女たちの体力も、武器に反映されているようだった。晴奈はゼエゼエと肩で息をしていたが、フローラはわずかに胸が上下している程度である。
どう見ても、劣勢に立たされているのは晴奈だった。
「どうするの、セイナ?」
「ハァ……ハァ……」
「剣、使い物にならなくなったわね。そこからどうやって、わたしに勝つと言うのかしら?」
「ハァ……すぅ……」
しかし、晴奈の心は折れるどころか、曲がりも軋みもしていない。欠片も臆することなく、フローラをはっきりと見据えつつ、静かに呼吸を整える。
「今度堕ちるのは、一体誰かしらね? どう見ても、あなただと思うのだけれど」
「すぅ……すー」
「あら、まだ何かするつもり?」
晴奈は融けた剣を構え直し、もう一度火を灯す。
「もしかして、気が狂ったのかしら? そんなドロドロの剣に火を灯して、何になるの?」
「おしゃべりは終わりか?」
晴奈はギロリと、フローラをにらみつけた。
「……あなたもいい加減、黙ったらどうかしら? あなたと話をしても、もう不愉快なだけ」
フローラが刀を構える。
「今度こそ死ぬがいいわ! 『九紋竜』!」
フローラの放った光弾が、晴奈を狙う。
「……すー」
晴奈はもう一度深呼吸し、その光弾へと飛び込んだ。
「……ぉぉぉおおおおおッ!」
曲がった剣を振り回し、その光弾を蹴散らしていく。
「まだ『九紋竜』を弾くだけの気力は残っているようね。でも、それだけじゃわたしは倒せないわよ!」
フローラはもう一度、「九紋竜」を放つ。そして立て続けにもう一度、二度と、大量の光弾を撒き始めた。
「この『弾幕』に耐え切れるかしら!?」
晴奈の前に、無数の光弾が迫ってくる。
先程赤く染まった通路は、今度は青く染まった。
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ねじれる再戦。
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ねじれ、とでも言えばいいのか。
刀を使う晴奈がキリアから借りた剣を握り、逆に剣を使うフローラが楢崎から奪った刀を握っている。
死んだはずの晴奈がよみがえり、無から作られた存在のフローラと対峙している。
そして、己の中に巣食う修羅を完成させた「阿修羅」フローラが、修羅の気を払い去った晴奈と戦っているのだ。
武器、因縁、性根――あらゆるものがねじれ、絡み合い、その場は異様な雰囲気を呈していた。
「さっさと死になさい……! 『九紋竜』!」
フローラが刀を振り、青白い光弾を放つ。
「えやあああッ!」
晴奈は剣にあらん限りの闘志を注ぎ込み、真っ赤に燃え盛る炎でそれを弾き飛ばす。
「な……!?」
その光景に、薄ら笑いを浮かべていたフローラは目を丸くする。
「……ふうん。さっきより全然、マシな戦い方をするじゃない」
「甘く見るな! 今度死ぬのは貴様だッ! 『火射』!」
晴奈の剣が火を噴き、フローラへ向かって放射される。
「くっ……!」
フローラは刀を横に薙ぎ、炎の剣閃を真っ二つに割った。
「一体何があったのかしら? まるで別人ね」
「貴様も堕ちてみれば分かるさ、色々とな……!」
晴奈の闘気は、時間が経つにつれ熱気を増していく。既にこの時、手にしていた剣はぼんやりと赤く光り始めていた。
「でも、やっぱりダメね。見てみなさいよ、その剣。灼け始めてるじゃないの、クスクス」
「それがどうしたッ!」
「分からない? そのままヒートアップしていけば、いずれその剣は折れるわ。……もって、10分と言うところかしらね」
フローラは刀を振り回し、縦横無尽に光弾を撃ち出していく。晴奈は剣でそれを受けるが、確かにフローラの言う通り、受けた時の様子が変化し始めている。
戦い始めた当初はキン、キンと言う鋭い音と共にわずかに火花を散らしていたが、今はその音が鈍くなり、火花も尾を引いている。急激な温度変化により、剣を構成している金属が粘性を帯び始めている――即ち、剣が晴奈の気合に耐え切れず、融解しかかっているのだ。
「ほらほら、どうしたの!? またあの世が恋しくなったのかしら!?」
「なるか、外道め! 真に彼岸がふさわしいのは、貴様の方だッ!」
それでも晴奈の気合、そして魔力は加速度的に膨らんでいく。剣の赤みがさらに増し、薄暗い通路がぼんやりと照らされるほどに明るく輝き始めた。
「言っても分からないようね、クス、クスクス……。10分どころじゃないわ。もう2、3分でその剣は限界に達する!
その時があなたの果てる時よ、セイナ!」
「いいや、果てるのは……」
晴奈は一層気合を込め、剣に膨大な熱量を与え続ける。
「貴様だーッ!」
この瞬間、剣はほとんど真っ白と言ってもいいほどに輝き、同時に空気が煮え立つ。
「『炎剣舞』ッ!」
その瞬間、通路は真っ赤に照らされ、フォルナの視界がさえぎられる。
「う……っ」
屋内から白日の下に躍り出た時のように、目の前が真っ暗になる。
「……」
光が消えたところで、フォルナは目をしばたたかせて視力を取り戻そうとする。だが、あまりに激しい輝度の変化で、すぐには様子が見えない。
「……ハァ、ハァ……」
晴奈の呼吸する声が聞こえてくる。フォルナは一瞬、晴奈が勝ったのかと期待した。
しかし――。
「……ほら、言ったじゃない」
フローラの勝ち誇ったような声が、耳に飛び込んでくる。
「面白いものが見れたわね。
何よ、その剣? まるで溶けかけたチョコレートみたい」
ようやく視力の戻ってきたフォルナの目に映ったのは、どろりと刀身が曲がった剣を握り締めた晴奈の姿だった。
晴奈の剣は融け、最早原形を留めていない。対してフローラの刀は、見たところ何の変化も無い。
彼女たちの体力も、武器に反映されているようだった。晴奈はゼエゼエと肩で息をしていたが、フローラはわずかに胸が上下している程度である。
どう見ても、劣勢に立たされているのは晴奈だった。
「どうするの、セイナ?」
「ハァ……ハァ……」
「剣、使い物にならなくなったわね。そこからどうやって、わたしに勝つと言うのかしら?」
「ハァ……すぅ……」
しかし、晴奈の心は折れるどころか、曲がりも軋みもしていない。欠片も臆することなく、フローラをはっきりと見据えつつ、静かに呼吸を整える。
「今度堕ちるのは、一体誰かしらね? どう見ても、あなただと思うのだけれど」
「すぅ……すー」
「あら、まだ何かするつもり?」
晴奈は融けた剣を構え直し、もう一度火を灯す。
「もしかして、気が狂ったのかしら? そんなドロドロの剣に火を灯して、何になるの?」
「おしゃべりは終わりか?」
晴奈はギロリと、フローラをにらみつけた。
「……あなたもいい加減、黙ったらどうかしら? あなたと話をしても、もう不愉快なだけ」
フローラが刀を構える。
「今度こそ死ぬがいいわ! 『九紋竜』!」
フローラの放った光弾が、晴奈を狙う。
「……すー」
晴奈はもう一度深呼吸し、その光弾へと飛び込んだ。
「……ぉぉぉおおおおおッ!」
曲がった剣を振り回し、その光弾を蹴散らしていく。
「まだ『九紋竜』を弾くだけの気力は残っているようね。でも、それだけじゃわたしは倒せないわよ!」
フローラはもう一度、「九紋竜」を放つ。そして立て続けにもう一度、二度と、大量の光弾を撒き始めた。
「この『弾幕』に耐え切れるかしら!?」
晴奈の前に、無数の光弾が迫ってくる。
先程赤く染まった通路は、今度は青く染まった。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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おお、白熱する戦いですね。
しかし、フローラも少し油断が過ぎるような気がしますが。。。
この辺りは戦いを純粋に楽しみすぎている嫌いがありますけどね。いや、それとも戦いそのものに没頭にしているのですかね。
いずれにせよ、こういうところの慢心で負けるのが常ですね。
しかし、フローラも少し油断が過ぎるような気がしますが。。。
この辺りは戦いを純粋に楽しみすぎている嫌いがありますけどね。いや、それとも戦いそのものに没頭にしているのですかね。
いずれにせよ、こういうところの慢心で負けるのが常ですね。
- #1581 LandM
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- 2013.03/23 07:47
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NoTitle
油断しないわけが無いですね。
戦いを楽しむ云々と言うよりも、フローラにとって晴奈は絶対に殺したい、殺さなければならない相手です。
詳しくは後の話ですが。