「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・白色録 6
晴奈の話、第391話。
「炎剣舞」を超えるもの。
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6.
光弾を弾いていた、その刹那。
晴奈の脳裏に、ウィルと話した時の景色がよみがえってきた。
(……星……)
あの河原で見た、無数に落ちる星。その様子が、この光弾の海と重なった。
(あの星は、一体何だったのだろうか?)
晴奈の体は勝手に、光弾を弾こうと動き回っている。だが、頭の中はどこか、別のところにあった。
(虚空を滑り、無限に墜ちていく星々。星は通常、夜空を翔けるものだ。だがあの星たちは、ずっと沈み続けていた。
では、あれは星ではないのだろうか?)
晴奈は無意識的に光弾を弾き、かわし、避け続ける。
(もしかしたら、あれは魂? 冥府に墜ち行く人々の魂なのだろうか?)
その動きは既に、常人の理解を超えていた。
「……何で当たらないの?」
フローラのいぶかしげな声も、没頭している晴奈の耳には入らない。
(それとも、あれは地上からの光? 空からの光が地に沈むと、あのように緩やかな動きになるのだろうか?)
フローラは何度も「九紋竜」を撃ち込んでくるが、一発も晴奈に当たらない。
(考えれば考えるほど、分からない。もしかしたらあれは、完全に死んでからしか、理解し得ぬものなのかも知れぬ)
「何で、当たらないのよ!?」
フローラの、苛立たしげに叫ぶ声に、晴奈の意識は呼び戻される。
(ん……。ああ、そう言えば戦っていたのだった。
……えっ!?)
そう思った瞬間、晴奈は驚いた。
先程まで、あれだけ怖くて仕方の無かった目の前の敵が、急に小さく、瑣末なものに思えたからだ。
(こんなもの……、だったのか? 先程苦戦していたのは、一体……?)
この時、晴奈の脳内を、ひどく奇妙な感覚が駆け巡った。
晴奈は見下ろしていた。
必死になって光弾をばら撒くフローラ。
通路を埋め尽くす光弾。
そして、それをひらりひらりと避ける自分を。
(え……。今、ここにいる私は、一体?)
まるで天空から眺めるかのように、晴奈は自分自身を見下ろしていた。
(ああ、おい……。そっちじゃない)
眼下の自分が、光弾の密集したところに突っ込もうとしている。
(そっちじゃない、右だ)
天空からの自分の声が聞こえたかのように、下の自分はくるりと体勢を変えて右に避けた。
(そうだ、それでいい。……おい、また危ないところを)
下の自分は、見ていて非常に危なっかしかった。何度も声をかけて、光弾を避けさせる。
(ああ、もう! もどかしいっ!)
晴奈は下の自分の動きに段々イラつきを覚え、つい、ひょいと手を伸ばしてその体をつかんだ。
ふたたび現実と、晴奈の意識が一つに合わさる。
「……こうだろう、こう……!」
突如晴奈は、フローラに向かって一直線に走り出す。だが「九紋竜」の無数の光弾は当たるどころか、一発もかすりすらしない。
「なっ……!?」
飛び込んでくる晴奈を見て、フローラが表情をこわばらせる。
「そう……、こうだッ!」
晴奈はさらに加速し、フローラの眼前まで迫った。
瞬間――晴奈の姿が、消える。
「……ッ!」
フローラは狼狽した様子ながらも刀を構え、晴奈の攻撃を受けようとする。
だが構える前に、晴奈の攻撃がフローラの胴を打っていた。
「あ……っ?」
剣が既に曲がっているためか、威力はきわめて低く、致命傷にはならない。だが、フローラは目に見えて慌て出した。
「み、見えない……っ」
続いて二太刀目。今度はいきなり背中を打たれる。
「げほ……っ」
三太刀目、四太刀目、五太刀目と食らっても、フローラは晴奈の姿を捉えられない。
「な、何故……!?」
潰れた剣といえども、立て続けに攻撃されればダメージは積み重なっていく。
「何で、何で……!?」
六太刀目がゴリ、と音を立ててフローラの、鋼鉄製の右腕に食い込む。
「何で、あなたが見えないの……!?」
七太刀目が左脚を潰す。八太刀目がもう一度右腕に当たり、粉砕する。
「どうして? どうして……ッ!?」
そして九太刀目が、フローラの額を割った。
勝負は決した。
突如、晴奈が目にも留まらぬ、いや、目にも映らないほどの速さで縦横無尽に斬りかかり、狼狽するフローラを切り刻んだ。
傍目には、そうとしか見えなかった。
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「炎剣舞」を超えるもの。
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光弾を弾いていた、その刹那。
晴奈の脳裏に、ウィルと話した時の景色がよみがえってきた。
(……星……)
あの河原で見た、無数に落ちる星。その様子が、この光弾の海と重なった。
(あの星は、一体何だったのだろうか?)
晴奈の体は勝手に、光弾を弾こうと動き回っている。だが、頭の中はどこか、別のところにあった。
(虚空を滑り、無限に墜ちていく星々。星は通常、夜空を翔けるものだ。だがあの星たちは、ずっと沈み続けていた。
では、あれは星ではないのだろうか?)
晴奈は無意識的に光弾を弾き、かわし、避け続ける。
(もしかしたら、あれは魂? 冥府に墜ち行く人々の魂なのだろうか?)
その動きは既に、常人の理解を超えていた。
「……何で当たらないの?」
フローラのいぶかしげな声も、没頭している晴奈の耳には入らない。
(それとも、あれは地上からの光? 空からの光が地に沈むと、あのように緩やかな動きになるのだろうか?)
フローラは何度も「九紋竜」を撃ち込んでくるが、一発も晴奈に当たらない。
(考えれば考えるほど、分からない。もしかしたらあれは、完全に死んでからしか、理解し得ぬものなのかも知れぬ)
「何で、当たらないのよ!?」
フローラの、苛立たしげに叫ぶ声に、晴奈の意識は呼び戻される。
(ん……。ああ、そう言えば戦っていたのだった。
……えっ!?)
そう思った瞬間、晴奈は驚いた。
先程まで、あれだけ怖くて仕方の無かった目の前の敵が、急に小さく、瑣末なものに思えたからだ。
(こんなもの……、だったのか? 先程苦戦していたのは、一体……?)
この時、晴奈の脳内を、ひどく奇妙な感覚が駆け巡った。
晴奈は見下ろしていた。
必死になって光弾をばら撒くフローラ。
通路を埋め尽くす光弾。
そして、それをひらりひらりと避ける自分を。
(え……。今、ここにいる私は、一体?)
まるで天空から眺めるかのように、晴奈は自分自身を見下ろしていた。
(ああ、おい……。そっちじゃない)
眼下の自分が、光弾の密集したところに突っ込もうとしている。
(そっちじゃない、右だ)
天空からの自分の声が聞こえたかのように、下の自分はくるりと体勢を変えて右に避けた。
(そうだ、それでいい。……おい、また危ないところを)
下の自分は、見ていて非常に危なっかしかった。何度も声をかけて、光弾を避けさせる。
(ああ、もう! もどかしいっ!)
晴奈は下の自分の動きに段々イラつきを覚え、つい、ひょいと手を伸ばしてその体をつかんだ。
ふたたび現実と、晴奈の意識が一つに合わさる。
「……こうだろう、こう……!」
突如晴奈は、フローラに向かって一直線に走り出す。だが「九紋竜」の無数の光弾は当たるどころか、一発もかすりすらしない。
「なっ……!?」
飛び込んでくる晴奈を見て、フローラが表情をこわばらせる。
「そう……、こうだッ!」
晴奈はさらに加速し、フローラの眼前まで迫った。
瞬間――晴奈の姿が、消える。
「……ッ!」
フローラは狼狽した様子ながらも刀を構え、晴奈の攻撃を受けようとする。
だが構える前に、晴奈の攻撃がフローラの胴を打っていた。
「あ……っ?」
剣が既に曲がっているためか、威力はきわめて低く、致命傷にはならない。だが、フローラは目に見えて慌て出した。
「み、見えない……っ」
続いて二太刀目。今度はいきなり背中を打たれる。
「げほ……っ」
三太刀目、四太刀目、五太刀目と食らっても、フローラは晴奈の姿を捉えられない。
「な、何故……!?」
潰れた剣といえども、立て続けに攻撃されればダメージは積み重なっていく。
「何で、何で……!?」
六太刀目がゴリ、と音を立ててフローラの、鋼鉄製の右腕に食い込む。
「何で、あなたが見えないの……!?」
七太刀目が左脚を潰す。八太刀目がもう一度右腕に当たり、粉砕する。
「どうして? どうして……ッ!?」
そして九太刀目が、フローラの額を割った。
勝負は決した。
突如、晴奈が目にも留まらぬ、いや、目にも映らないほどの速さで縦横無尽に斬りかかり、狼狽するフローラを切り刻んだ。
傍目には、そうとしか見えなかった。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
急に覚醒状態になるというのはありますけどね。
人にしても。
自己の能力を超えた能力を発揮するというのは。
潜在能力とでも言えばいいので、そのポテンシャルを引き出せるのは強い者なんでしょうけどね。
人にしても。
自己の能力を超えた能力を発揮するというのは。
潜在能力とでも言えばいいので、そのポテンシャルを引き出せるのは強い者なんでしょうけどね。
- #1587 LandM
- URL
- 2013.03/31 10:25
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地獄の底から何かを拾ってきていたとしても不思議じゃない、
……と言う感じですね。