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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・通信録 2

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    晴奈の話、第394話。
    遠い約束。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「と言うわけでして」
     ジュリアは紹介状を渡し、重蔵をじっと見すえる。
     対する重蔵は、忌々しげにうなった。
    「……何とも腹立たしい。まさか我が紅蓮塞の直下で、そのような犯罪が行われていたとは」
     殺刹峰の壊滅後に行われた捜査で、紅蓮塞の温泉街にその手先の一つがあることが判明したため、ジュリアは晴奈に紹介状を書いてもらって央南に渡り、重蔵を通じて焔流に協力を仰いでいた。
    「委細、承知しました。捜査の旨、全力でご協力いたしましょう」
    「ありがとうございます」
     焔流の全面協力により、その手先――兵士の洗脳に使われていた温泉宿はすぐに摘発された。
    「……」
     逮捕された虎獣人の店主が、呆然とした顔で連れられて行く。
     それを眺めながら、重蔵がジュリアに声をかける。
    「それで、スピリットさんと言いましたかな」
    「はい?」
    「晴さんは元気にしておりましたか?」
    「ええ。……でもつい先日、街を発ってしまいました。北方大陸へ向かうとか」
     ジュリアの話に、重蔵は首を傾げる。
    「ふむ? 晴さん、ずいぶん旅が続いておるんじゃのう」
    「ええ、何でもまだ『本懐を果たしていない』とか。
     ……あ、そうだ。コウさんから、もう一つ頼まれていたことがありました、そう言えば」
    「うん?」
     ジュリアはかばんから包みを取り出し、重蔵に尋ねた。
    「リョータ・ホムラと言う人物をご存知でしょうか?」
    「わしの孫じゃが……、頼まれごととは?」



    「我が弟 良太へ

     お主の積年の恨み、無事晴らして候

    姉より」

    「……」
     晴奈からの短い手紙と、ガラスの腕輪を受け取った良太は、突然涙を流した。
    「あ、あの? ホムラさん?」
    「……うっ、うぐっ、うう」
     何かを話そうとしているようだが、嗚咽混じりで言葉にならない。
    「あ、えっと……」
     横に付き添っていた雪乃が、代わりに応対する。
    「実は、かくかくしかじか……、と言うわけでして」
    「なるほど、殺刹峰は両親の仇だったんですね。……心中、お察しします」
    「うえ、え、えぐっ……、はっ、うぐっ、はひ……」
     良太は涙を流しながら、首をガクガクと振る。見かねた雪乃が、手ぬぐいを差し出す。
    「ほら、良さん。大の大人が、そんなに泣かないの」
    「うっ、は、はいっ、すびばぜん……」
     二人のやり取りを見て、ジュリアはクスッと笑った。
    「……おっと、失礼。
     それでですね、コウさんからこの手紙を渡す時、一言付け加えるように言われていたんですが」
    「ああ……。何となく分かりました。大方、『良太、いい加減泣き止め』とか、その辺でしょう?」
    「ええ、ご明察です」
     大泣きする良太をよそに、ジュリアと雪乃は笑っていた。

     央中からの長旅の疲れを癒すのと、焔夫妻からの誘いもあって、その日ジュリアは紅蓮塞に泊まることにした。
    「ふうん……。天空から見下ろすような、不可視の剣舞ねぇ」
    「また姉さん、一段と腕を上げたと言うか、人間離れしたと言うか」
     晴奈が極限状態で閃いた技の話を聞き、雪乃も良太も腕を組んでうなる。
    「コウさん自身も、良く分かってないんだそうです。何でも、『死の淵で見た星のことを思っていたら、いつの間にか……』とか」
    「……晴奈、いつから詩人になったのかしら」
     雪乃は呆れた声を上げつつ、膝に抱いていた自分の娘、小雪の頭をくしゃくしゃと撫でる。
    「今度会ったら、たっぷりからかってあげないと。ね、小雪」
    「うん。……あーあ、あたしも晴ねーちゃんにあいたいなぁ」
    「そうね。もう1年以上、会ってないものねぇ」
     仲良く会話する親子を見て、ジュリアはほんわかした気持ちになる。
    「……いいなぁ」
    「えっ?」
    「何だか、理想の家族って、こんな感じなんだなって」
    「そう、ですかね?」
     良太は頭をポリポリかきながら、きょとんとした顔を向ける。
    「そうでも……」「そうでもないですよ、あはは……」
     良太が謙遜しようとしたところで、雪乃が口を挟んだ。
    「この人、泣き虫でひ弱で、優柔不断で。修行してた時はいっつも、わたしか晴奈の後ろを付いて歩くような人だったんですよ。結婚しても、全然変わらなくて。大事なことはみんな、わたしが決めてますし」
    「……あはは、はは」
     雪乃にこき下ろされ、良太はしゅんとなる。そこで雪乃がにこっと笑い、良太にしなだれかかる。
    「でも、わたしはそんな、泣き虫でひ弱で優柔不断で、優しい良さんが大好き」
    「……えへへ、へへっ」
     途端に笑顔になった良太を見て、小雪がそっと雪乃の膝を離れ、ジュリアに耳打ちした。
    「毎日、こんなのばっかりしてるのよ」
    「あら、クスクス……」
    「……あ、そうそう」
     のろけていた雪乃は我に返り、ジュリアに向き直る。
    「その、星を見て閃いたと言う技。晴奈は名前を付けたんですか?」
    「あ、はい。そのまま単純に、『星剣舞』と。
     ただ、まだ自由自在に発揮できるまでには至ってないとか。また余裕ができた時に、じっくり練習してみたいと言っていましたね」
    「なるほど、そうですか……」
     雪乃はそっと、心の中で愛弟子の身を案じた。
    (晴奈……。無事に旅を終えてちょうだいね)

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    晴奈が「この約束」を誓ったのが第55話の、双月暦513年。
    339話前、6~7年前の話になります。
    思えば遠くに来たもんだ。

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    2016.09.18 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    そちらの世界でも、歳をとった雪乃を見てみたいですね。

    NoTitle 

    久々ユキノさんですね。どうにもグッゲンハイムで主人公で突っ走って書いていたんで、この描写を見ると年齢を感じてしまいますね。もっとも、グッゲンハイムも月日が立てば、このようになるのでしょうが。
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