「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・通信録 3
晴奈の話、第395話。
賢者と悪魔の会談。
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3.
「……お、小鈴からだ」
弧月、風虎亭――橘一家、風木の店。
妹、小鈴からの手紙を受け取り、風木は早速封を切った。
「兄さんへ
久しぶり、元気してた?
あたしは元気。ちょー元気してる。鈴林もいつも通り。
今、あたしは西方への船に乗ってます。やっぱいいわ、西方。服かわいいし。アクセもキレイだし。
そして、実は……まだ晴奈と一緒に旅してまっす!
いやね、やっぱ頼りになるって言ってくれたし、あたしも晴奈と一緒なら、安心だし楽しいし。
でも、ちょっと残念なコト。前の旅でずーっと一緒してたフォルナが、ゴールドコーストに残るって言っちゃったの。お偉いさんからヘッドハントされたんだってさ。
まだしばらく帰れないけど、兄さんも元気でね。
小鈴より
あ、いつも通りお土産は期待しないよーにねっ」
「ははっ、手紙なんて久々だな。小鈴、何かあったかな……?」
風木は苦笑しつつ、手紙を箪笥の中にしまおうと立ち上がった。
と、そこで客がやってくる。
「お、いらっしゃい」
「邪魔するね、店主」
その狐獣人の客は、垢じみたローブにほつれた三角帽子と言う、いかにも胡散臭い魔術師風の格好をしていた。
一目で、飯を食いに来た客ではないと分かる。
「……何をご所望で?」
「鴉を見たいんだけどね、どこに行けば会えるかねぇ?」
鴉と聞いた瞬間、風木に緊張が走った。
「その、生憎ですが、鴉は時期じゃありません」
「いつなら時期になるね?」
「4、いえ、5日待っていただければ、夕方には」
「ん、それじゃまた5日後に。よろしゅ」
それだけ言って、その胡散臭い女性は店を出た。
「……何だぁ、ありゃ? 今まで見てきた客の中でも、五指に入る胡散臭さだな」
ともかく、依頼は依頼であるし、「合言葉」も知っていたため、風木はすぐに手配を取り、その人物を呼び寄せた。
そして、約束の日。
「いらっしゃ……、い」
客の姿を見て、風木はゴクリとつばを飲む。
(親父の代以来、この方を呼んだことは無かったから、半信半疑っちゃ半信半疑だった。
……けど、本当に来ちまいやがったぜ)
「どうした、店主」
その真っ黒な男は、静かにカウンターへ座った。
「あ、いえ。約束の方は、そろそろ来るかと」
「了承した。しばし待たせてもらおう」
風木は緊張から来る冷汗を拭い、厨房から離れた。
「はーっ、はーっ……」
(ま、マジに来たぜ、克大火。……つくづく、ひいばーちゃんはすげー人だったんだな)
と、またも店の戸を開く音がする。風木は慌てて厨房に戻った。
「いらっ、……しゃ、い」
タイミングよく、あの胡散臭い女もやってきた。
「よお、克。相変わらず黒いね」
「また姿を変えたか、モール。落ち着かん奴だ。お前も相変わらずだ、な」
大火の言葉に、風木はまた全身に汗をかいた。
(ちょ、モール!? モールってあの、『旅の賢者』モール・リッチか!?
……あああ、ひいばーちゃあん! 俺、とんでもない会談セッティングしちまったよぉ)
風木の動揺など意に介する様子もなく、モールはカウンターに腰掛ける。
「店主、とりあえず酒。銘柄とアテは何でもいい、辛口で」
「あ、は、はい。承知しましたっ」
風木は大慌てで、酒と猪口を用意する。
その間に、大火とモールの会談が始まった。
「それでモール、何故俺を呼んだ? 俺が忙しくしていることは知っているはずだが」
「いやね、ちょっと話がしたくってね。殺刹峰って知ってる?」
「……?」
大火は首をわずかにひねり、けげんな表情を浮かべる。
「何だそれは?」
「知らないか。あんたを殺そうとしてた組織の名前なんだけどね」
「ほう」
「ま、蓋を開けてみれば、ただのごろつき集団でしかなかったけどね」
「嘘をつけ」
大火は運ばれてきた酒をくい、と口に含む。
「単なる雑兵の話で俺を呼ぶほど、お前も酔狂ではあるまい。何があった?」
「こいつさ」
モールは肴の干物を噛みながら、懐から一冊の本を取り出した。
「ほう」
大火はそれを手に取り、ぱらぱらとめくる。
「なるほど。これがお前の言っていた、『魔獣の本』か」
「そうだ。ずっと探し回ってたけど、ようやくその組織の首領が持っているのを見つけたんだ」
「成果はあった、と言うことか。……それで、話はこれだけか?」
「いいや」
モールはチラ、と風木を見る。
「は、はい。何でしょう」
「……読めって、空気」
モールはあごをしゃくり、厨房の出入り口を指す。
「あ、ああ。失礼しました、すみません」
「30分くらい話すから、人払いよろしゅー」
モールの横柄な態度に少々カチンとは来たが、それでも風木は内心ほっとした。
(まあ、良かったかも。これ以上こんな二大伝説の前にいたら俺、倒れちまうよ)
その後30分、風木は店の外に立っていた。
そのため大火とモールが何の話をしていたのか――それは彼には、まったく分からなかった。
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賢者と悪魔の会談。
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「……お、小鈴からだ」
弧月、風虎亭――橘一家、風木の店。
妹、小鈴からの手紙を受け取り、風木は早速封を切った。
「兄さんへ
久しぶり、元気してた?
あたしは元気。ちょー元気してる。鈴林もいつも通り。
今、あたしは西方への船に乗ってます。やっぱいいわ、西方。服かわいいし。アクセもキレイだし。
そして、実は……まだ晴奈と一緒に旅してまっす!
いやね、やっぱ頼りになるって言ってくれたし、あたしも晴奈と一緒なら、安心だし楽しいし。
でも、ちょっと残念なコト。前の旅でずーっと一緒してたフォルナが、ゴールドコーストに残るって言っちゃったの。お偉いさんからヘッドハントされたんだってさ。
まだしばらく帰れないけど、兄さんも元気でね。
小鈴より
あ、いつも通りお土産は期待しないよーにねっ」
「ははっ、手紙なんて久々だな。小鈴、何かあったかな……?」
風木は苦笑しつつ、手紙を箪笥の中にしまおうと立ち上がった。
と、そこで客がやってくる。
「お、いらっしゃい」
「邪魔するね、店主」
その狐獣人の客は、垢じみたローブにほつれた三角帽子と言う、いかにも胡散臭い魔術師風の格好をしていた。
一目で、飯を食いに来た客ではないと分かる。
「……何をご所望で?」
「鴉を見たいんだけどね、どこに行けば会えるかねぇ?」
鴉と聞いた瞬間、風木に緊張が走った。
「その、生憎ですが、鴉は時期じゃありません」
「いつなら時期になるね?」
「4、いえ、5日待っていただければ、夕方には」
「ん、それじゃまた5日後に。よろしゅ」
それだけ言って、その胡散臭い女性は店を出た。
「……何だぁ、ありゃ? 今まで見てきた客の中でも、五指に入る胡散臭さだな」
ともかく、依頼は依頼であるし、「合言葉」も知っていたため、風木はすぐに手配を取り、その人物を呼び寄せた。
そして、約束の日。
「いらっしゃ……、い」
客の姿を見て、風木はゴクリとつばを飲む。
(親父の代以来、この方を呼んだことは無かったから、半信半疑っちゃ半信半疑だった。
……けど、本当に来ちまいやがったぜ)
「どうした、店主」
その真っ黒な男は、静かにカウンターへ座った。
「あ、いえ。約束の方は、そろそろ来るかと」
「了承した。しばし待たせてもらおう」
風木は緊張から来る冷汗を拭い、厨房から離れた。
「はーっ、はーっ……」
(ま、マジに来たぜ、克大火。……つくづく、ひいばーちゃんはすげー人だったんだな)
と、またも店の戸を開く音がする。風木は慌てて厨房に戻った。
「いらっ、……しゃ、い」
タイミングよく、あの胡散臭い女もやってきた。
「よお、克。相変わらず黒いね」
「また姿を変えたか、モール。落ち着かん奴だ。お前も相変わらずだ、な」
大火の言葉に、風木はまた全身に汗をかいた。
(ちょ、モール!? モールってあの、『旅の賢者』モール・リッチか!?
……あああ、ひいばーちゃあん! 俺、とんでもない会談セッティングしちまったよぉ)
風木の動揺など意に介する様子もなく、モールはカウンターに腰掛ける。
「店主、とりあえず酒。銘柄とアテは何でもいい、辛口で」
「あ、は、はい。承知しましたっ」
風木は大慌てで、酒と猪口を用意する。
その間に、大火とモールの会談が始まった。
「それでモール、何故俺を呼んだ? 俺が忙しくしていることは知っているはずだが」
「いやね、ちょっと話がしたくってね。殺刹峰って知ってる?」
「……?」
大火は首をわずかにひねり、けげんな表情を浮かべる。
「何だそれは?」
「知らないか。あんたを殺そうとしてた組織の名前なんだけどね」
「ほう」
「ま、蓋を開けてみれば、ただのごろつき集団でしかなかったけどね」
「嘘をつけ」
大火は運ばれてきた酒をくい、と口に含む。
「単なる雑兵の話で俺を呼ぶほど、お前も酔狂ではあるまい。何があった?」
「こいつさ」
モールは肴の干物を噛みながら、懐から一冊の本を取り出した。
「ほう」
大火はそれを手に取り、ぱらぱらとめくる。
「なるほど。これがお前の言っていた、『魔獣の本』か」
「そうだ。ずっと探し回ってたけど、ようやくその組織の首領が持っているのを見つけたんだ」
「成果はあった、と言うことか。……それで、話はこれだけか?」
「いいや」
モールはチラ、と風木を見る。
「は、はい。何でしょう」
「……読めって、空気」
モールはあごをしゃくり、厨房の出入り口を指す。
「あ、ああ。失礼しました、すみません」
「30分くらい話すから、人払いよろしゅー」
モールの横柄な態度に少々カチンとは来たが、それでも風木は内心ほっとした。
(まあ、良かったかも。これ以上こんな二大伝説の前にいたら俺、倒れちまうよ)
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そのため大火とモールが何の話をしていたのか――それは彼には、まったく分からなかった。



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