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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・通信録 5

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    晴奈の話、第397話。
    新たなフォルナ。

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    5.
     フォルナは金火公安に入局することになり、その面談をヘレンと行っていた。
     もっとも、多忙なヘレンがわざわざ、こうして面談に赴いたのは――。
    「どないやろ?」
    「残念ですけれど……」
    「やっぱアカンかー」
     エランとの縁談をもう一度、勧めるためである。
    「ええ……。この半年で多少は大人になったと思いますけれど、やっぱりお相手としては見れなくて」
    「本人目の前にして言いますか、それ……」
     憮然とするエランをよそに、フォルナとヘレンは話を進める。
    「まあ、帰ってきたらいきなりヒゲ面になっとったり、肩に色付いとったり、色々驚かされましたけどなぁ。話してみたら前のまんまで、がっかりするやら安心したやら、っちゅう感じですわ」
    「殿方はいくつになっても変わらない、と言いますものね。
     でも、もう少し大人になったら、考えさせていただきたいですわ。わたくしを何度も護ってくださいましたし、そのお気持ちにはいずれ、お応えしたいですから」
    「うんうん、その気になったらいつでも言うてや。
     ……と、もう一個話しといた方がええかな。殺刹峰のことなんやけどね」
     ヘレンはフォルナに、殺刹峰壊滅後のことを話した。

     央北から戻った後、金火公安は数ヶ月に渡って中央大陸中を駆け回った。
     投降した殺刹峰の残党からその構成、末端組織、活動場所などを細かに聞き出し――首領と幹部が軒並み死亡しているため、全容解明には至らなかったものの――金火狐財団の政治力・経済力を活用し、他地域における警察組織とも連携を組んで、徹底的にこの組織の撲滅を実行した。
     だが、殺刹峰の創始者と目されるバニンガム伯に関しては、殺刹峰内に彼との密接なつながりを示す証拠がなく、また、捜査を強行しようにも直接的な影響力がないことから、彼に対しては何もすることができなかった。

    「……っちゅう訳ですわ」
    「そうですか……。すっきりした解決、とは行かなかったのですね」
    「ま、仕方あらへんわ。あんまり小突き回して、中央政府を敵に回すっちゅう話になるのんも泥沼やしね」
    「うーん……」
     エランは肩を押さえながら――怪我が治って随分経ったものの、時折痛みが走るのだそうだ――悔しそうな顔をする。
    「モヤモヤしちゃいますね……。あれだけ死にそうな目に遭ったっちゅうのに、親玉はどうにもできないんですね」
    「んー、どないもならへんなぁ。割り切るしかあらへんね」
    「うーん……」
     ヘレンのあっけらかんとした応答に、エランも、横に座っていたフォルナももやもやとした気分になる。
     それを見抜き、ヘレンは優しい口調で二人を諭す。
    「ま、ま、そこらへんは私に任しとき。公安からはどうにもならへんやろけども、経済的、政治的にやったら、少しくらいは叩けるやろし」
    「うーん、まあ、……うーん」
    「うんうんうならへんの、呪いの人形かいなアンタは」
     ヘレンはうなるエランの額を、ピシッと指で弾く。
    「いてっ」
    「ホンマに変わらんなぁ、アンタ」
     ヘレンはクスクス笑いつつ、話を切り上げた。



    「お父様へ

     ご無沙汰しておりました、フォルナでございます。
     長い間、お膝元を離れてご心配をおかけいたしましたが、まずは、我が身が無事であることを伝えさせていただきます。

     ずっと私の行方を知らせなかったのには、やむをえない事情がございました。ある事情からゴールドマン財団の当主、ヘレン女史と懇意になり、また、彼女からのたっての願いを受けたため、私はしばらく央北へ滞在しておりました。
     そのことで女史からの厚い信頼を得たため、現在私は彼女の元で、秘書のような仕事をしております。もうしばらくゴールドコーストに滞在することになりますが、いずれまた、故郷に顔を出したいと考えております。
     一年という長い間、音信不通にしていたことをお許しいただけますよう、お願い申し上げます」

     フォルナは故郷へ宛てた手紙を、ポストに投函した。
    「……これでよし、と」
     フォルナはポストの前でじっと立ち止まり、胸の前に手を合わせる。
    「どないしたん?」
    「……いえ、無事届きますように、と」
     付き添ってくれたシリンに笑いかけ、フォルナはポストの前を離れた。
    「心の整理が付きましたわ。これで、気持ち良く新生活を迎えられますわね」

     そして、翌日。
    「本日から配属になりました、フォルナ・ファイアテイルです。よろしくお願いいたします」
     ぺこりと頭を下げたフォルナに、バートが椅子に座ったまま、軽く手を挙げて応える。
    「おう、よろしくちゃん」
     隣にいたフェリオは、きちんと立ち上がって挨拶する。
    「よろしくっス、フォルナ。席は、えーと……」
     央南に出張しているジュリアから渡されたメモを確認し、自分の席の向かいを指差す。
    「あそこだな。あ、お茶とかはみんなで勝手に飲んでるから」
    「はい」
    「当面の仕事は、資料整理になる。とりあえず今日は、エランの指示を仰いでくれ」
    「分かりました」
     フォルナは席に座り、目の前の机を撫でた。
    「……うん、頑張ろうっと」



     フォルナの肩書きは、「金火狐財団公安局捜査部 第1調査室職員」となった。
     後に同局局長に就任したり、次代・次々代総帥の相談役になったりと、様々な活躍を見せるが――それはまた、別の話である。

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    2016.09.18 修正
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