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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・通信録 7

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    晴奈の話、第399話。
    自立。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     320年、1月上旬。瞬也は央北の刑務所から釈放された。
     年少者だったのと、元々殺刹峰でも悪事に加担しておらず、むしろ公安に協力しており、また、刑務所でも非常に品行方正に過ごしていたため、他の者に比べて大幅に減刑され、わずか1ヶ月で釈放となった。
    「……えっと」
     収監されていた間、瞬也はずっと、あることを気にかけていた。だが、それを口外すれば彼女に迷惑がかかると考え、釈放までの間ずっと黙っていた。
     そして釈放後すぐ、瞬也はその「あること」を確かめるため、その場所へ向かった。
    「ここだと、……思ったんだけど」
     確かに、その平原にはしばらく人が過ごしていたらしい形跡がある。だが、そこには現在、誰もいなかった。
    「あれ……?」
     と、その形跡の中央辺りに、札が立っている。瞬也は小走りに駆け寄り、立札を確認した。

    「あたしたちの仲間へ

     誰も来てくれないので、あたしたちは何が起こったのか調べました。
     そしたら、もう組織が潰れていると言ううわさを聞きました。びっくりしました。
     それで、もう一回よく調べてみました。うわさは本当でした。
     どうしようもなくって、あたしたちは泣いていました。
     でも、泣いてばかりいられないので、とりあえず場所を移して、生活することにしました。
     生活はうまく行っています。最初はみんな戸惑っていたけど、何とか自給自足できるくらいにはなりました。
     なんか村っぽくなったので、名前を付けました。村の名前は(ちょっと恥ずかしいけど)『ペルシェビレッジ』としました。
     もう半月経ちますが、中央軍とか政府とかの人たちは忙しいみたいで、今のところ何にも文句は言われてません。
     良かったら、来てください。何が起こったのか、詳しく知りたいから。

     なぜか村長になっちゃいました ペルシェ・リモード」



     瞬也はその立札に描かれた地図をたどり、その村に着いた。
    「あ、あの」
     とりあえず、近くにいた人間に声をかける。声をかけられたその男は、目を丸くして驚いた。
    「……ジュンくん?」
    「は、はい。あの、えっと」
    「一体、今まで……。い、いや。
     ともかく、村長のところまで連れてくよ。何が起こったのか、詳しく聞かせてくれ」
     元兵士に連れられ、瞬也は村の端にある、一番大きな掘っ立て小屋に入った。
    「今、村長を呼んでくる。待っててくれ」
    「はい」
     少しして、人が大勢詰め掛けてきた。
    「ジュンくんが来たって!?」
    「なあ、一体殺刹峰はどうなったんだ!?」
    「ドミニク先生が死んだって聞いたけど……」
    「公安が潰したとか、フローラさんが謀反を起こして失敗したとか」
    「何が何だか分からないんだ。教えてくれよ、ジュン」
     矢継ぎ早に質問され、瞬也は目を白黒させた。
    「あ、あの、えっと、みなさん、落ち着いて……」
     瞬也がしどろもどろになっているところに、代表者が現れた。
    「……ジュンくん、だよねー?」
    「ぺ、……ペルシェさん。お久しぶりです」
     瞬也はペルシェの顔を見るなり、涙があふれてきた。ペルシェも同様に、ボタボタ涙をこぼしていた。

    「そっかー、色々あったんだねー」
     瞬也を中心にして、元兵士の村人たちは3時間かけ、殺刹峰壊滅の顛末を聞き終えた。
    「それにしても、……ご愁傷様、だな」
    「はい……」
     ちなみに村人たちは、瞬也から父親が死亡したことを聞いたところで、黙祷までしてくれた。
    「それにしても、……その、僕も良く分かってないんですけど、教えてくれますか?
     一体みなさんは、なぜ村を?」
     すっかり代表者の顔になったペルシェが、ゆっくりと説明してくれた。
    「えっとねー。あたしたちー、ずっと待機してたのよー。でも、誰も来てくれなくってー……。
     それでおかしいなって思ってー、あたしたちが使った『移動法陣』のところに行ってみたんだけどー、反応しなくってー。何かあったのかなってー、近くの街に行って調べてみたらー、もう潰れちゃったって聞いたのよー。
     その後はー、看板に書いてあった通りー」
    「い、いや、その。その辺りも聞きたかったんですけど、何で村を作ろうって?」
    「あー……、だってあたしたちー、どこにも行くところ無いんだもん。
     こんな大勢だからどこかの街にも住めないしー、記憶とかさっぱりだから故郷も分かんないしー。じゃあ仕方ないし、住めるところ作ろうかってー。
     それで、あっちこっちから苗とか家畜とか木材とかー、色々もらってー」
    「なるほど……」
     話し疲れたらしく、ペルシェはふらっと立ち上がった。
    「ジュンくん、……じゃなかった。シュンヤくんはー、どうするのー?」
    「えっと、……その、央南に戻ってみようと思います。父が亡くなったことも伝えなきゃいけませんし、それに11年も前で、子供の頃の思い出しかありませんが、やっぱり故郷は恋しいですから」
    「……だよね。あたしもー、思い出せないけど恋しいもん」
    「ミューズさんが来てくれたら……」
     そう言いかけた瞬也の口を、ペルシェは人差し指を当ててふさいだ。
    「ううん、いいの。……今の、この生活も楽しいからー。それに、……えへへ」
     ペルシェは隣にいた村人の手を取り、恥ずかしそうに笑った。
    「何だかんだでー、あたし今、この人と付き合ってるのー」
    「そ、そうなんですか」
    「だからー、あたしの、……ううん、あたしたちのことはー、心配しなくていいよー」
     少し見ない間に、ペルシェは見違えるほど大人びていた。
     そんな彼女の様子を見ていた瞬也は、ただただ驚くしかなかった。

     掘っ立て小屋の外から様子をうかがっていたミューズたちは、小さくため息をついた。
    「そうか……。ペルシェも皆も、新しい生活を見つけたのだな」
    「何ちゅうか、……楽しそうやな」
     ヘックスののんきそうな、しかしうらやましそうにつぶやいたその言葉に、キリアも深々とうなずく。
    「これじゃ誘えないわね。
     ジュンは、……っと、シュンヤはどうなのかしら?」
     依然、様子を眺めていたミューズは、未練がましそうな声でキリアに返した。
    「あいつの雷の術はカツミに有効なはずだ。この村を離れたところで誘ってみよう」

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    2016.09.18 修正
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