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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・通信録 8

     ←蒼天剣・通信録 7 →蒼天剣番外編 その3
    晴奈の話、第400話。
    悟った瞬也。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     瞬也が村を離れて2時間後、ミューズたちは彼の前に現れた。
    「久しぶりだな、シュンヤ」
    「ミューズさん! それにヘックスさん、キリアさんも!」
    「よお、元気しとるみたいやな」
     瞬也とヘックスは堅く握手をし、再会を懐かしんだ。
    「脱獄したって聞いたから、不安だったんですが……。何ともなさそうですね」
    「ああ。お前と違って、刑が確定すれば数年は服役することになっていただろうからな。一足先に、出させてもらったのだ」
    「……その、それで、どうして今更、僕の前に?」
     瞬也は武器を携えた三人を見て、警戒している。
    「殺刹峰の『正しき』遺志を全うしようと、な」

     ミューズから説明を受けた瞬也は、首を横に振った。
    「すみませんが、お断りします」
    「……そうか」
     残念そうに返したミューズの横で、ヘックスが納得の行かない様子を見せる。
    「何でや? 元々オレたちの目標やったし、金やら評判やらも……」「ヘックスさん」
     瞬也は困った顔をしつつ、ヘックスの話をさえぎった。
    「お金とか名声とか、それは『もしもカツミに勝ったら』の話ですよね。今の僕らが勝てる可能性、どれだけだと見ているんですか?
     組織が潰れて兵力はもうありませんし、個々の実力を考えても互角だとは、到底思えません。全員フローラさんに敵わなかったんですし、そのフローラさんはコウに敗れていますし。さらに言えばそのコウも、カツミに手も足も出なかったと言う調査結果がありますし。
     もし強さのランク付けをしたとしたら、僕たちはカツミに到底、手の届く距離に無いんじゃないですか?」
    「ん、まあ、その……」
    「それに」
     瞬也は責めるような眼差しでヘックスを見つめた。
    「ヘックスさんって下手でしたよね、戦い方が。コウに競り負けてたし、アジトではずっとオロオロしてましたし。
     正直言って、ヘックスさんは戦いに向いてないんじゃないかと思ってるんです」
    「おいおい、そんなこと……」
     ヘックスは反論しかけたが、妹からも同意されてしまう。
    「ええ、確かに。兄さんは腕はいいけど優柔不断だし、戦況を読むのが下手だし、ポリシーも人に言われてコロコロ変えるし、兵士としてはまったく駄目な人だと思うわ」
    「ちょ」
    「でも、一度だけでも優秀な兵士として、戦わせてあげたいのよ。
     だって、私も含めて、このまま大したことをせずに殺刹峰の生活を、培ってきた技術を無かったことにするのは、嫌だから」
    「キリア……」
    「……そうですか」
     瞬也たちの議論が止まったところで、ミューズが場を締めた。
    「……意見の相違はともかく、日が暮れようとしている。今日はどこか近隣の街へ寄り、宿に泊まろう。そこで今夜、改めて我々の要請を考えてほしい」
    「分かりました」
     瞬也はその後も何か言いたそうにしていたが、結局街に着くまで、何もしゃべらなかった。

     そして、次の日の朝。
     ミューズたちが起きた時には既に、瞬也の姿は無かった。
    「……これが、答えのようだ」
     ミューズは瞬也が残した手紙を読み、ため息をついた。



    「やっぱり、僕にはお手伝いできません。
     理由は、もう戦いたくないからです。

     父の死を目にした時、僕は確かにフローラさんを恨みました。そしてコウが倒してくれたと聞き、確かに感謝し、喜びました。
     でもその夜、フローラさんが僕に優しく接してくれた時のことを、夢に見て……。何だか、非常に自分が嫌になったんです。

     拘留中に一度、コウが見舞ってくれたことがありました。
     その時、コウから色々と、父のことを聞かされました。そのうちにコウが涙ぐんできて、泣いて謝ってきました。『父を助けることができず、すまない』と。本当に優しい人なんだなと、そう思いました。

     殺された父。殺したフローラさん。さらにそれを殺したコウ。みんな、普段は優しくて穏やかな人だったはずです。
     なのに、何故、殺し合いになったのか。それはきっと、『戦い』だったからです。この三人の間に戦いが無ければ、誰も死ななかったのは間違いないでしょう?

     あなたたち三人は、自分の力量を試したいから、そして、富と名声を得たいから戦うと言っていましたが、僕には、そう言う気持ちがありません。
     僕には戦う理由が、まったく無いんです。

     もう無闇に戦いたくないんです。協力できず、本当にすみません。

    楢崎瞬也」

    「……無闇に、戦いたくない、か。……グサっと来たわ、なんか」
    「そうね……。シュンヤは私たちよりはるかに、大人になっていたのね」
     手紙を読み終えた兄妹は、尻尾と耳をだらりと垂らして落ち込んでいた。ミューズは立ち上がり、剣を手に取る。
    「だが、……私には、戦う理由がある。知っているだろう、私が『造られた』理由を? カツミを倒すこと。それが私の存在理由なのだ。
     理由がある以上、それは無闇とは言わない」
     その言い方はまるで、ミューズが己自身を説得しているようだった。
    「もし、お前たちが『もうやめたい』と言うのならば、……私は止めはしない」
    「……ミューズ」
     ぽつりと、ヘックスが名前を呼んだ。
    「何だ?」
    「お前まで勝手言うなや」
     ヘックスは目を真っ赤にして、ミューズをにらんだ。
    「ずっと、オレは周りの勝手に流されて生きとった。
     ドミニク先生が半分無理矢理にオレを拾ってきて、強制的に訓練受けさせられて、海賊とか嫌やって言うたのに、結局やらされて。殺刹峰で生きてた時、オレはアンタ以上に『人形』扱いやったんや。
     そんで今、『やめたきゃやめろ』? ふざけんなや、オレはそこまで流されて生きひんぞ」
    「……だから?」
    「行くって言うたやろが! 一度言い出したこと、そう簡単にコロコロ変えてたまるかっちゅうねん!」
    「それも、元はと言えば私が言い出したことだ。だから……」
    「だから、行くって言うたやろ!? オレは『選択した』んや、行くってな!」
     ヘックスの剣幕に、ミューズは戸惑う。
    「なぜ、それほどまでに怒る?」
    「……分からんっ!」
     ヘックスは尻尾を怒らせたまま、部屋を出て行った。
     残されたミューズとキリアは、顔を見合わせる。
    「兄さんが戦うなら、私も戦うわ。私も、そう選択したから」
    「そうか。……助かる」
     ミューズはほっとしたような顔を浮かべ、キリアに頭を下げた。



     2日後の夜、央北最北端の港町、ノースポート。
     大火は中央政府からの要請を受け、北方ジーン王国の海軍と戦うために、この街に滞在していた。
     とは言え現在は海が凍りつく時期であり、実戦は行われない。やることと言えば陸での訓練、演習であり、それに精を出すような大火ではない。
     半ば適当に指示を出しつつ、大火はほとんどの時間を自分の研究や修行に費やしていた。

     その晩も大火は軍港を離れ、岬の端で座禅を組んで瞑想していた。
    「……なるほど」
     と、人の気配を感じ取った大火は目を開け、立ち上がった。
    「お前らが、殺刹峰とか言う組織の残党か?」
     海に目を向けたまま、大火は背後の者たちに問う。
    「そうだ。やっと会えたな、カツミ」
     大火はそこでようやく振り返る。
     夜の闇に覆われてはいたが、大火はその三人の姿を、きっちり把握できた。
    「聞くまでも無いことだが、一応聞いておこう。俺に何の用だ?」
    「お前の命を、もらう」
    「結局それか。……くだらん」
     大火は呆れつつ、刀を抜いた。

    蒼天剣・通信録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    ついに来ちゃいました、400話目。
    ほぼ毎日更新し、番外編などもあるので、
    ざっくり考えると連載1年も余裕で突破。
    つくづく、ながーい話になっちゃったもんだと、
    我ながら感心するやら呆れるやら。

    まだまだ、もうちょっと続くので、読者の皆様、
    これからもよろしくお付き合いくださいませ。

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    2016.09.18 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    人それぞれであるが故に、瞬也は戦いませんし、三人は戦うことを決意したわけで。

    NoTitle 

    戦う戦いたくないは人によりますけどね。
    生きること自体戦いと定義できなくもないですけど。
    この辺は何のために生きるかと言うのが大切になりそうですね。
    人生を何に費やすかは人それぞれですからね。
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