「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
蒼天剣番外編 その3
晴奈の話、……じゃありません。
賢者の約束が実ったお話。
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蒼天剣番外編 その3
いくつになっても、彼女は人懐っこい性分であるらしい。
「へぇ……、それじゃ、恋人さんとは長いのね」
「ええ。周りからは、『いい加減結婚したらどうだ』と言われているんですが」
央南、紅蓮塞。
この地での仕事が一段落したジュリアは、晴奈の師匠である焔雪乃に興味を抱き、彼女の部屋を訪れていた。
部屋にいた彼女はニコニコと笑いながら、取り留めのない話に興じてくれる。
「言われるわよね、ある程度の歳になってくると」
「ええ。でもまだ、そんな気分になれなくて。いい人なんですけれど、どうもカリカリしたところが多くて」
「まだまだ若い、ってことね。
でも人生の先輩として言っておくと、そう言う風に『ここさえなんとかなればなぁ』って細かい問題点を気にしていると、機会を逃しちゃうこともあるわよ。
思い切って、えいやっと展開を進めちゃうのも一つの手よ」
「はは……、ええ、参考にしておきます」
話しているうちに、ジュリアは目の前の長耳がずっと大人びた、経験豊かな女性であると感じていた。
(コスズと2歳違いと聞いていたけれど、それより一回り、二回り、いいえ、もっと歳を取っているような雰囲気があるわね。
何だか、同年代の人と話しているような気がしない)
ふと、ジュリアは彼女の背後の棚に、物々しい箱が置いてあるのに気が付いた。
いかにも頑丈そうな、銀色に鈍く光る金属製の箱だ。さらに、その箱は鎖が何重にも巻かれており、それがさらに物々しさを強めている。
「どうしたの、ジュリアさん?」
ジュリアの様子に気が付いた彼女は、その目線を追う。
「ああ、これね」
「何か危険なものが入ってるんですか?」
「ええ。この中身一つで、何千、何万の人が不幸になったの。わたしも、その一人」
彼女はすっと立ち上がり、その箱を手に取った。
(……あれ?)
ジュリアはその立ち姿に、わずかな違和感を覚えた。
(ユキノさん、確かもう少し、背が高かったような……?)
「中に入っているのは、一冊の本なの」
彼女は箱を小さく揺らし、カタカタと音を立てる。
「でも、ただの本じゃない。これは、古代の魔術書なの。ある人に処分をお願いしたんだけど、燃やすことも溶かすこともできなくて、仕方なくこうやって、厳重に封印したのよ」
「そうなんですか……」
「……でもね」
彼女は箱を元の場所に置き、ジュリアの前に座り直した。
「わたしもこの本を使ったんだけど、……とっても、不思議な体験ができたわ。色々怖くて、悲しい目に遭ったけど、使った価値はあった、……と思う。
それに、この本とその人のおかげで、わたしは思ってもいなかった幸せを手に入れられたもの。人を不幸にしたこの本だけど、結局は使い方次第じゃないかしら。そう思うの」
「へえ……」
一体どんな体験をしたのだろうと、ジュリアが強い興味を惹かれたその時だった。
「あれぇ?」
開いていた戸から、雪乃の子供である小雪がぴょこんと顔を出した。
「あら、小雪ちゃん」
「……」
ジュリアの正面にいた彼女が手を振ったが、なぜか小雪は近寄ろうとしない。それどころか、半ば逃げるように離れていってしまった。
「あら、あら……」
「どうしたんでしょうか、コユキちゃん」
「あの子、なかなか勘が鋭いのね、クスクス……」
少し間を置いて、とたとたと言う子供の足音と、とんとんと言う体重の軽そうな大人の足音が聞こえてきた。
「ね、お母さんのまねしてるの。変でしょ?」
「……」
入ってきたのは小雪と、ジュリアの前に座っているはずの雪乃だった。
「え、え……、あれ?」
同じ顔に挟まれ、ジュリアは困惑する。
と、入ってきた方の雪乃が、今までジュリアを相手していた方の雪乃を見て、呆れた表情を見せた。
「……母さん。お客さんをからかっちゃダメじゃない」
その言葉に、彼女は笑い出した。
「ごめんね、クスクス……」
母と同じ格好をする彼女を見て、小雪はこうつぶやいた。
「……雪花おばーちゃんも、変わり者だね」
終
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賢者の約束が実ったお話。
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蒼天剣番外編 その3
いくつになっても、彼女は人懐っこい性分であるらしい。
「へぇ……、それじゃ、恋人さんとは長いのね」
「ええ。周りからは、『いい加減結婚したらどうだ』と言われているんですが」
央南、紅蓮塞。
この地での仕事が一段落したジュリアは、晴奈の師匠である焔雪乃に興味を抱き、彼女の部屋を訪れていた。
部屋にいた彼女はニコニコと笑いながら、取り留めのない話に興じてくれる。
「言われるわよね、ある程度の歳になってくると」
「ええ。でもまだ、そんな気分になれなくて。いい人なんですけれど、どうもカリカリしたところが多くて」
「まだまだ若い、ってことね。
でも人生の先輩として言っておくと、そう言う風に『ここさえなんとかなればなぁ』って細かい問題点を気にしていると、機会を逃しちゃうこともあるわよ。
思い切って、えいやっと展開を進めちゃうのも一つの手よ」
「はは……、ええ、参考にしておきます」
話しているうちに、ジュリアは目の前の長耳がずっと大人びた、経験豊かな女性であると感じていた。
(コスズと2歳違いと聞いていたけれど、それより一回り、二回り、いいえ、もっと歳を取っているような雰囲気があるわね。
何だか、同年代の人と話しているような気がしない)
ふと、ジュリアは彼女の背後の棚に、物々しい箱が置いてあるのに気が付いた。
いかにも頑丈そうな、銀色に鈍く光る金属製の箱だ。さらに、その箱は鎖が何重にも巻かれており、それがさらに物々しさを強めている。
「どうしたの、ジュリアさん?」
ジュリアの様子に気が付いた彼女は、その目線を追う。
「ああ、これね」
「何か危険なものが入ってるんですか?」
「ええ。この中身一つで、何千、何万の人が不幸になったの。わたしも、その一人」
彼女はすっと立ち上がり、その箱を手に取った。
(……あれ?)
ジュリアはその立ち姿に、わずかな違和感を覚えた。
(ユキノさん、確かもう少し、背が高かったような……?)
「中に入っているのは、一冊の本なの」
彼女は箱を小さく揺らし、カタカタと音を立てる。
「でも、ただの本じゃない。これは、古代の魔術書なの。ある人に処分をお願いしたんだけど、燃やすことも溶かすこともできなくて、仕方なくこうやって、厳重に封印したのよ」
「そうなんですか……」
「……でもね」
彼女は箱を元の場所に置き、ジュリアの前に座り直した。
「わたしもこの本を使ったんだけど、……とっても、不思議な体験ができたわ。色々怖くて、悲しい目に遭ったけど、使った価値はあった、……と思う。
それに、この本とその人のおかげで、わたしは思ってもいなかった幸せを手に入れられたもの。人を不幸にしたこの本だけど、結局は使い方次第じゃないかしら。そう思うの」
「へえ……」
一体どんな体験をしたのだろうと、ジュリアが強い興味を惹かれたその時だった。
「あれぇ?」
開いていた戸から、雪乃の子供である小雪がぴょこんと顔を出した。
「あら、小雪ちゃん」
「……」
ジュリアの正面にいた彼女が手を振ったが、なぜか小雪は近寄ろうとしない。それどころか、半ば逃げるように離れていってしまった。
「あら、あら……」
「どうしたんでしょうか、コユキちゃん」
「あの子、なかなか勘が鋭いのね、クスクス……」
少し間を置いて、とたとたと言う子供の足音と、とんとんと言う体重の軽そうな大人の足音が聞こえてきた。
「ね、お母さんのまねしてるの。変でしょ?」
「……」
入ってきたのは小雪と、ジュリアの前に座っているはずの雪乃だった。
「え、え……、あれ?」
同じ顔に挟まれ、ジュリアは困惑する。
と、入ってきた方の雪乃が、今までジュリアを相手していた方の雪乃を見て、呆れた表情を見せた。
「……母さん。お客さんをからかっちゃダメじゃない」
その言葉に、彼女は笑い出した。
「ごめんね、クスクス……」
母と同じ格好をする彼女を見て、小雪はこうつぶやいた。
「……雪花おばーちゃんも、変わり者だね」
終
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2015.06.01 タイトル表記と体裁を修正
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