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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・黒色録 2

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    晴奈の話、第402話。
    鴉のように黒い人形。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     散々なじられて、なおにらみつけてくるミューズを見て、大火は「ふむ」とうなった。
    「まだ戦う気でいる、か。勝つ算段があると言うことか?」
    「ああ。……反省したよ、カツミ。なるほど、一人で仕留めるつもりが、確かに無かった。剣が当たらないのは、そう言うわけか。
     良く理解した」
     そう答えるなり、ミューズは大火に飛び掛った。
    「……ほう?」
     ミューズの攻撃自体は直線的な特攻だったので、大火は大して苦労する様子も見せず、簡単に受け切っていた。
     だが、その顔は先程の面倒臭そうな表情とは打って変わって、興味深そうに目を光らせている。
    「面白い」
     大火は刀を脇構えに構え直し、距離を取る。そしてミューズとの間合いから二倍ほど離れたところで薙ぎ払った。
     するとパシュ、と言う音が鳴り響き、ミューズのコートの裾が突然千切れた。
    「えっ……!?」
    「何や、今の!?」
     その千切れ方は、どう見ても鋭利な刃物で切り裂かれたとしか思えない。
     仕掛けた大火は、ミューズの目を見据えてニヤリと笑う。
    「これも『参考に』してみるか、ミューズとやら?」
    「ああ」
     そう言うなり、ミューズも剣を脇に構える。
    「はあッ!」
     そして薙ぎ払った瞬間ヒュンとうなり、ミューズの剣閃が大火へと飛んでいった。
    「……ふむ」
     飛んでいった斬撃は、大火の頬をかすめて海上へと過ぎ去っていった。

     ミューズの攻撃を受け、大火は頬の血を拭いながら考察する。
    「なるほど、今ので確信した。
     お前はある人物をモデルにして造られている。そうだな?」
    「そうだ」
     ミューズは素直に答えた。
    「誰が言ったか――『怪物を殺すには、己も怪物とならねばならぬ』と言う言葉がある。
     怪物を倒すためには、その怪物の領域、領分に踏み込んで行かねばどうしようもない。空を飛ぶ鳥を落とすには、どんなに良く切れる剣を振り回しても意味は無い。まずは弓を持たねば、話にならん。それと同じことだ」
     大火とミューズの話の意図が分からず、ヘックスたちは首をひねっている。
    「どう言う……?」
    「さあ……?」
     だが、ミューズは深くうなずき、大火に応える。
    「そうだ。鳥が相手ならば、空を飛ぶ武器を使わねばならない。魚が相手ならば、水を突っ切る武器を使わねばならない。
     相手と同じ領域で戦える武器が無ければ、倒すことなどとても無理な話だ。
     だから殺刹峰は、私を用意した。私と言う『武器』を」
    「ククク……、俺を殺すには、俺しかいない。そう考えたわけだな」
     そこでようやく、この察しの悪い兄妹にも話が理解できた。
    「そう言えば、ミューズ……」
    「褐色の肌に、黒い髪、黒いコート、……まるで」
    「そう言うことだ、愚かな兄妹たちよ」
     大火はニヤリと笑い、刀の先でミューズを指した。
    「この人形は、俺をモデルにしているのだ。俺を倒すために造られた、この俺の粗悪なコピーだ」
     その言葉にミューズの耳がピク、と跳ねる。
    「粗悪、か。だが粗悪と言えど、オリジナルを超えればそれはコピーと言わぬ。
     私はお前を超え、新たな『黒い悪魔』になってやる」
    「……烏滸がましいぜ」
     それまでニヤついていた大火の顔が、険を帯び始めた。
    「本気で言っているのか? お前は脳みそもおが屑でできているのか?
     俺を、超えるだと? 俺の十分の一も、何十分の一も生きていないような、お前が? 俺と同じ領域にすら立っていない、足元にさえはるかに及んでいない、木偶のお前が、か?
     その言葉、どれほど不遜か……」
     大火のまとっていた怠惰な空気が、ガラリと変わる。
     かつて黒炎教団で竜を倒した時と同様の、黒いすすのような空気が立ち上っているのが、この闇夜でもはっきりと、三人には見えた。
    「その身でじっくり、噛み締めるがいい……!」

     パシュ、と空気を切り裂く音が二重に響く。大火とミューズが同時に、先程の技を放ったのだ。
     だが、どちらの攻撃も互いに当たらない。双方とも、放った直後に移動して、敵の攻撃をかわしている。
    「りゃ……ッ!」
     続けざまに、ミューズは大火からコピーした「飛ぶ剣閃」を放つ。パン、パンと空気が立て続けに弾かれ、次々と大火に襲い掛かる。
    「……フン」
     だが、大火にひらりひらりとかわされ、剣閃は海に向かって霧散していく。
    「俺の技を安っぽく使うな、二流が」
     一通り避けきったところで、大火が同じ技を使う。
    「使うなら、こう使え」
     放たれた剣閃は地面を砕き、無数のつぶてがミューズに襲い掛かる。
    「……!」
     ミューズは飛翔術「エアリアル」で上空に飛び上がり、つぶてをやり過ごそうとする。だが、大火はミューズがこう動くことを読みきっていたらしく、二発目を上空に向けて放っていた。
    「う……ッ」
     ミューズは慌てて剣を構え、攻撃を防ぐ。しかし予想以上に重たい衝撃を受けて、ミューズは地面に墜落した。
    「く、……そ」
     ミューズが劣勢に見えたヘックスとキリアは顔を見合わせ、心配する。
    「や、やっぱりアカンのちゃう?」
    「そう、よね。何とかしないと、ミューズが……」
     ところが、ミューズに打撃を与えたはずの大火は、怪訝な顔を浮かべてミューズを見つめている。
    「……?」
     普通に立ち上がり、剣を構えたミューズを見て、大火がボソッとつぶやいた。
    「妙だな」
    「何がだ」
    「今の一撃、剣が砕け散るくらいの衝撃を与えたはずだが」
    「えっ……? でも……」「剣、握ってる」
     その言葉を聞いて、ヘックスたちはまた顔を見合わせる。
    「……ククッ」
     そしてミューズは、ニヤリと笑った。

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    2016.09.18 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    怪物の話、どんな内容なのか気になりますねw

    連載、お疲れ様でした。
    次回も楽しみにしています。

    NoTitle 

    そういえば昔のダークファンタジーでも、怪物のたぐいの話はありましたね。その内容を書こうと思ったら、不正投稿とみなされて感想が書けなかった。。。うむむ。申し訳ありません。 
      現在の連載小説終わりました。また来週から連載始まりますのでよろしくお願いします。今度は地球のサバイバル(?)の話を書きますので、興味があればよろしくお願いします。
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