「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・黒色録 3
晴奈の話、第403話。
「人」を「かたどる」、即ち「人形(ひとのかたち)」。
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3.
拘留から数日後、看守の緊張も薄らいできた頃に、ミューズは「テレポート」を試みた。
勿論、小鈴と、モールから方法を教わっていたフォルナの二人が高度の封印術「シール」をかけていたはずだったが――。
(流石にモールの見立てと言えど、術式を誤ったか)
人間でも、無生物でもない、その中間の存在であるミューズに、人間が魔術を使えないようにする、もしくは無生物に込められた魔力を封印する術は効果が無かった。
「テレポート」は何の問題も無く成功し、彼女は易々と街に繰り出すことができた。
ミューズは大火を倒すために何度か街を回り、その準備を整えていた。当然、大火がどこにいるのか、何をしているのか、と言うような情報を収集していたのだが、そのうちに「神器造りのミツオ」のうわさを聞きつけた。
(私はカツミを真似て造られた。奴が使うと言われる高出力の魔術も、体内に高魔力濃度の結晶を埋め込むことで使えるようにはなっている。
だが、武器はどうだ? 奴の使う武器は『雪月花』――古今無双の神器だ。ただの武器で向かっても、それはカツミを真似たことにはならない。真似ると言うなら、どこまでも近付いて行かねば)
ミューズは銀行に忍び込んで大金を奪い、その金でミツオに武器を造るよう頼み込んだ。
「この『ファイナル・ビュート』、そこいらのなまくらと思うな」
ミューズの構えた剣から、菫色の光がにじみ出ている。
「ふむ……?」
大火はわずかに首を傾け、注意深い目つきでその剣を眺めた。
「ほう、なかなか珍しい剣だ」
「分かるのか、これが?」
ミューズは大火の口調を真似て、大火に笑みを向ける。大火は目の端をピク、と震わせたが、そのまま応答する。
「その剣はお前の魔力を吸って、硬度・靱性・弾性を高めている。
だが常人、と言うか、並程度の修行や経験を積んだ者ではまともに使いこなせまい」
「そうだ。ただの魔術師では剣術が伴わず、振り回すことさえできない。しかしただの剣士でも、魔力が無ければただの剣としてしか使えない。
お前や私のように、魔術と剣術を修めし者にしか、その本当の力は発揮できない剣だ」
「二度も言わせるな」
大火の目の端がまた、ピクリと跳ねる。
「この俺を、お前などと同列に置くな。何一つ取っても、俺の足元にも及ばぬ木偶が」
「さっきから木偶だ、二流だと……」
ミューズも怒気の混じった声を張り上げる。
「思い上がるな、大鴉ッ!」
ミューズはもう一度、「飛ぶ剣閃」を放った。だが、それは一発だけではない。
「む……」
無数の剣閃が、大火に迫る。
「……ふむ」
が、大火も同様に、無数の剣閃を発射した。双方の剣閃はぶつかり合い、両者の丁度中間で相殺された。
「『一閃』だけではなく、そこから『五月雨』を派生させたか」
「ほう、この技は『一閃』と言うのだな。そしてその派生技が、『五月雨』と。……私は十分に、お前に追いつけるようだな。
もう一度言わせてもらうぞ、思い上がるなカツミ。お前の技などいくらでも吸収し、昇華させて返してやる!」
ミューズは得意満面に、大火に向かって叫ぶ。
だが、どう言うわけか――大火の表情はまた、先程の気だるそうな顔に戻っていた。
大火が表情を暗くしたのを、この時ミューズは「相手が恐れ入ったのだ」と感じ、慢心した。
しかし実際のところはまるで逆だったと、直後に気付かされた。
「……はあ」
あからさまに興が冷めたと言うため息をつき、大火は刀を脇に構えた。
「俺が鴉と言うなら、インコかオウムだな、お前は。訳も分からず真似を繰り返す、檻に囚われた愛玩動物でしかない」
「何?」
大火の反応と言葉の意味が読めず、ミューズは身動きできない。
「まだ分からないのか? お前は俺を超えるどころか、その足元にさえ、いまだ到達していないことに。
剣術を真似て、魔術を真似て、言葉遣いを真似て、格好も真似て。まるで大スターに憧れる無垢な少女だ。お前はまだ模倣の域に留まっているのに、その模倣で培った拙い技術を、さも自分のもののように得意げに振りかざすなど、思春期の少年少女そのものだろうが。
よしんばそこから一つや二つ、何かを自分で編み出したとしても、だ。一発ずつの『一閃』から連射の『五月雨』へなど、誰でも思いつく過程だろう? そしてそれは、俺が既に編み出し、持っている技だ。即ち、それはまだ模倣の域。お前自身の創意工夫が無い、粗悪なコピーの領域に過ぎない。
何が『お前の技などいくらでも吸収し、昇華させて返してやる』だ。そんな真似事ばかりで俺が倒せると、本当に思っているのか? 考えてもみろ――スターの芸の真似事を本人に見せて、そのスターは賞賛するか? あまつさえ『参った』などと思うか?」
「う……」
「俺を超えるなどと寝言を抜かす前に、真似・模倣から脱却しろ。話はそれからだ」
大火は散々罵倒し倒し、刀を納めた。
だが、ミューズはあきらめず――。
「くそ……ッ、くそーッ!」
剣を構え、大火に襲い掛かった。
「おいおい、今度は自棄か。本当に年端も行かぬ小娘だな」
ミューズの剣をひょいと紙一重でかわした大火は、彼女の頭をつかんだ。
「う……ッ」
「そもそも、お前はその『手足』と『内臓』のせいで、真似ることしかできない。成長ができないのだ」
大火はミューズの頭をつかんだまま、呪文を唱え始めた。
「な、何、を……!?」
「成長できる体になってから、もう一度修行をやり直せ」
大火がそう言うと同時に、ミューズの体に電流が走った。
「ひ、あ、あッ……!」
大火に手を離され、ミューズはどさりと地面に倒れる。
「ミューズ!?」「だ、大丈夫!?」
「命に別状は無い。さっさと抱えて帰るがいい。……では、夜も更けてきたので、これで失礼する」
大火はうろたえる二人に目もくれず、そのまま立ち去ってしまった。
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「人」を「かたどる」、即ち「人形(ひとのかたち)」。
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拘留から数日後、看守の緊張も薄らいできた頃に、ミューズは「テレポート」を試みた。
勿論、小鈴と、モールから方法を教わっていたフォルナの二人が高度の封印術「シール」をかけていたはずだったが――。
(流石にモールの見立てと言えど、術式を誤ったか)
人間でも、無生物でもない、その中間の存在であるミューズに、人間が魔術を使えないようにする、もしくは無生物に込められた魔力を封印する術は効果が無かった。
「テレポート」は何の問題も無く成功し、彼女は易々と街に繰り出すことができた。
ミューズは大火を倒すために何度か街を回り、その準備を整えていた。当然、大火がどこにいるのか、何をしているのか、と言うような情報を収集していたのだが、そのうちに「神器造りのミツオ」のうわさを聞きつけた。
(私はカツミを真似て造られた。奴が使うと言われる高出力の魔術も、体内に高魔力濃度の結晶を埋め込むことで使えるようにはなっている。
だが、武器はどうだ? 奴の使う武器は『雪月花』――古今無双の神器だ。ただの武器で向かっても、それはカツミを真似たことにはならない。真似ると言うなら、どこまでも近付いて行かねば)
ミューズは銀行に忍び込んで大金を奪い、その金でミツオに武器を造るよう頼み込んだ。
「この『ファイナル・ビュート』、そこいらのなまくらと思うな」
ミューズの構えた剣から、菫色の光がにじみ出ている。
「ふむ……?」
大火はわずかに首を傾け、注意深い目つきでその剣を眺めた。
「ほう、なかなか珍しい剣だ」
「分かるのか、これが?」
ミューズは大火の口調を真似て、大火に笑みを向ける。大火は目の端をピク、と震わせたが、そのまま応答する。
「その剣はお前の魔力を吸って、硬度・靱性・弾性を高めている。
だが常人、と言うか、並程度の修行や経験を積んだ者ではまともに使いこなせまい」
「そうだ。ただの魔術師では剣術が伴わず、振り回すことさえできない。しかしただの剣士でも、魔力が無ければただの剣としてしか使えない。
お前や私のように、魔術と剣術を修めし者にしか、その本当の力は発揮できない剣だ」
「二度も言わせるな」
大火の目の端がまた、ピクリと跳ねる。
「この俺を、お前などと同列に置くな。何一つ取っても、俺の足元にも及ばぬ木偶が」
「さっきから木偶だ、二流だと……」
ミューズも怒気の混じった声を張り上げる。
「思い上がるな、大鴉ッ!」
ミューズはもう一度、「飛ぶ剣閃」を放った。だが、それは一発だけではない。
「む……」
無数の剣閃が、大火に迫る。
「……ふむ」
が、大火も同様に、無数の剣閃を発射した。双方の剣閃はぶつかり合い、両者の丁度中間で相殺された。
「『一閃』だけではなく、そこから『五月雨』を派生させたか」
「ほう、この技は『一閃』と言うのだな。そしてその派生技が、『五月雨』と。……私は十分に、お前に追いつけるようだな。
もう一度言わせてもらうぞ、思い上がるなカツミ。お前の技などいくらでも吸収し、昇華させて返してやる!」
ミューズは得意満面に、大火に向かって叫ぶ。
だが、どう言うわけか――大火の表情はまた、先程の気だるそうな顔に戻っていた。
大火が表情を暗くしたのを、この時ミューズは「相手が恐れ入ったのだ」と感じ、慢心した。
しかし実際のところはまるで逆だったと、直後に気付かされた。
「……はあ」
あからさまに興が冷めたと言うため息をつき、大火は刀を脇に構えた。
「俺が鴉と言うなら、インコかオウムだな、お前は。訳も分からず真似を繰り返す、檻に囚われた愛玩動物でしかない」
「何?」
大火の反応と言葉の意味が読めず、ミューズは身動きできない。
「まだ分からないのか? お前は俺を超えるどころか、その足元にさえ、いまだ到達していないことに。
剣術を真似て、魔術を真似て、言葉遣いを真似て、格好も真似て。まるで大スターに憧れる無垢な少女だ。お前はまだ模倣の域に留まっているのに、その模倣で培った拙い技術を、さも自分のもののように得意げに振りかざすなど、思春期の少年少女そのものだろうが。
よしんばそこから一つや二つ、何かを自分で編み出したとしても、だ。一発ずつの『一閃』から連射の『五月雨』へなど、誰でも思いつく過程だろう? そしてそれは、俺が既に編み出し、持っている技だ。即ち、それはまだ模倣の域。お前自身の創意工夫が無い、粗悪なコピーの領域に過ぎない。
何が『お前の技などいくらでも吸収し、昇華させて返してやる』だ。そんな真似事ばかりで俺が倒せると、本当に思っているのか? 考えてもみろ――スターの芸の真似事を本人に見せて、そのスターは賞賛するか? あまつさえ『参った』などと思うか?」
「う……」
「俺を超えるなどと寝言を抜かす前に、真似・模倣から脱却しろ。話はそれからだ」
大火は散々罵倒し倒し、刀を納めた。
だが、ミューズはあきらめず――。
「くそ……ッ、くそーッ!」
剣を構え、大火に襲い掛かった。
「おいおい、今度は自棄か。本当に年端も行かぬ小娘だな」
ミューズの剣をひょいと紙一重でかわした大火は、彼女の頭をつかんだ。
「う……ッ」
「そもそも、お前はその『手足』と『内臓』のせいで、真似ることしかできない。成長ができないのだ」
大火はミューズの頭をつかんだまま、呪文を唱え始めた。
「な、何、を……!?」
「成長できる体になってから、もう一度修行をやり直せ」
大火がそう言うと同時に、ミューズの体に電流が走った。
「ひ、あ、あッ……!」
大火に手を離され、ミューズはどさりと地面に倒れる。
「ミューズ!?」「だ、大丈夫!?」
「命に別状は無い。さっさと抱えて帰るがいい。……では、夜も更けてきたので、これで失礼する」
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短編・掌編

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今日の旅岡さん

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相変わらずタイカの安定感ですね。強いなあ・・・と思えるところですね。この辺がタイカの余裕ともいえるところなのかもしれませんが。
- #1617 LandM
- URL
- 2013.05/08 06:41
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紛れも無く本作最強のキャラですから。