fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・黒色録 4

     ←蒼天剣・黒色録 3 →蒼天剣・黒色録 5
    晴奈の話、第404話。
    戦い終わって。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「う……あ……」
     倒れたミューズは、ガクガクと震えている。
    「大丈夫!?」
    「ど、どないしたんや!?」
     シグマ兄妹は慌てて、ミューズを助け起こそうと腕を取る。
    「……ぎゃああッ!?」
     ところが腕に触れた瞬間、ミューズが絶叫した。
    「お、おわっ!?」
    「いっ、痛い!? な、何故、痛む!?」
    「え……?」
    「人形の、私の、腕が、……痛い! 痛むのだ!」
    「そ、それって」「まさか……?」
     ヘックスとキリアは恐る恐る、ミューズの袖をめくってみた。
    「……嘘やん」「人間になってる……」
     そこにはすべすべとした、人間の腕があった。だが、どこも怪我をしている様子は無い。
    「ホンマに痛いん?」
     ヘックスはちょん、とミューズの腕を触る。
    「ひっ……、痛い、痛い……っ」
    「んなコト言うても、何もなってないけど……」
    「もしかして、腕が人間のものになって、敏感になってるとか?」
     キリアも、ちょんと突いてみる。
    「痛いっ!」
    「……多分、当たりかも。……えっと、ミューズ。ちょっとごめんね」
     キリアはミューズの衣服をめくり、腹の部分も確かめる。
    「ひゃあっ!?」
    「こっちも、……前は木製だったはずなのに」
     ミューズは大火の術によって、完全に人間となっていた。

    「落ち着いた?」
    「……ああ」
     2日後、ノースポートから少し離れた田舎町。
     ミューズは自分が人間になったことにショックを受け、軽い錯乱状態に陥った。それをなだめるため、ヘックスたちはノースポートからこの街へと、彼女を運んだ。
    「腕、触っていい?」
    「……そっと、なら」
    「うん」
     キリアは指先で、ミューズの腕を触ってみた。
    「あっ……」
    「痛い?」
    「い、いや。最初の頃に比べれば、ずっとましにはなった。……だが、まだ過敏なようだ」
     自分の体が変化したからか、ミューズはしおらしくなっている。
     その様子を眺めながら、兄妹はしみじみとつぶやいた。
    「……それにしても、改めて格が違いすぎると、心の底から思い知らされたわ。技量や魔力はもとより、その精神性、思想においても」
    「ああ……。言われてみたら、ホンマにその通りやもんなぁ。いくら真似したかて、本家本元に敵うわけがあらへんもんな」
    「……」
     大火の言葉を思い出し、三人の気持ちは沈む。
    「……ああ。敵うわけが無かった」
     ミューズがぼそっとつぶやく。その声には、涙が混じっていた。
    「勝ち目など、どこにも無かったのだ。何が、『この世で最高の富と名声を』だ。私はまったく、己が見えていなかった。
     その上、私はもう人形ではなくなってしまった。……私はもう、おしまいだ」
    「あほ」
     ミューズの肩を、ヘックスがつかんだ。
    「いたっ……」「あ、悪い」
     つかんですぐ離し、ヘックスは咳払いした。
    「コホン、……まあ、その、な。何も落ち込む必要、あらへんって。『人形から人間になった』ってだけやんか」
    「だけ、だと……!」
    「そや、そんだけや。考えてみ、オレたちは生きてるんやで? あの『黒い悪魔』相手にして、3人全員がまだ生きとる。しかも、傷一つ受けず。コレ、すごいコトなんやで?」
    「そう言われれば、確かにそうかも。ドミニク先生だって、部隊が全滅した上に大ケガして、数日寝込んだそうだし」
    「せやろ? ……その奇跡に比べたら、お前が人形から人間になったからって」
     ヘックスの言葉に、ミューズは再度声を荒げる。
    「そこが問題だろう!? 私の、私の存在理由が、失われたのだぞ!?」
    「んー……、そんな難しく考えんでもええんちゃう?」
    「なっ……!?」
    「オレたちから見たら、人形のミューズも人間のミューズも、同じようなもんやし」
    「そうね。外から見た限りでは、全然変わった様子もないし」
     兄妹のあっけらかんとした態度に、ミューズは言葉を失った。
    「いや……でも……しかしだな……」
    「ま、とりあえず」
     ヘックスは机に置いてあった盆を手に取り、ミューズの前に持っていった。
    「メシ食べや。あ、まだ手、痛いやろうから、兄ちゃんが食わせてやるで」
     そう言葉をかけられ、ミューズは目を丸くする。
    「な、……に、兄ちゃん、だと?」
    「そやろ? 16歳言うてたし、オレの方が兄ちゃんやん」
    「そっ、それは確かに、そう、だ、が……」
    「ほれ」
     ヘックスはスプーンでスープをすくい、ミューズの口元に持っていく。
    「私は……」
    「ほれ、食べって」
    「……いただき、ます」
     根負けしたらしく、ミューズはスプーンをくわえた。

     その後――ミューズは驚くほどあっさりと、大火への執念を捨てた。
     実際に大火と対決し、その力量差に打ちのめされたのと、「俺の真似ばかりするな」と叱咤されたのが、よほどこたえたらしい。
     幸いと言うか、人間になった後もなぜか、ミューズの魔力に変化はなかった。三人は「テレポート」を使って街を離れた後、どこかの小さな田舎町に移り住み、一緒に、密かに暮らそうと決めた。



     時間と場所は、ふたたびノースポートの岬に戻る。
     一人の短耳が、戦いの終わった岬を訪れた。
    「はっきり言って、茶番だったわね」
     大火とミューズたちの戦いを一部始終見ていたその女は、呆れ混じりのため息をつく。
    「結局殺刹峰って、何にもできてないわね。組織は潰れるし、克大火は倒せなかったし」
     岬をゆっくりと歩きながら、女は独り言をつぶやき続ける。
    「やっぱり今乗るべき波は、あの人のところにありそうね。私も、ウインドフォートに行ってみようかしら?」
     と、女の目にキラリと光る物が映る。
    「あら、ミューズったら忘れていったのね。あれだけお金をかけた、この剣を」
     女は剣――ミューズがミツオに注文した神器、「ファイナル・ビュート」を手に取った。
    「ふうん……。いいじゃない、これ。私が使っちゃおうっと」
     女は仮面を外し、ニヤリと笑った。
    「……でも、綺麗過ぎるわ。私の顔がはっきりと映るくらいだもの。この、醜い顔が」
     紫色に光る「ファイナル・ビュート」の刀身には、楓藤巴景の疵面が映し出されていた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.09.18 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・黒色録 3】へ
    • 【蒼天剣・黒色録 5】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    お久しぶりです。
    展覧会、頑張ってください。

    NoTitle 

    何かと展覧会の準備で忙しくて
    訪問のほう遅れてどうもすいません

    NoTitle 

    ゴールはある意味、次へのスタートラインでもありますからね。

    ちなみにこの3人について、スピンオフを制作しています。
    http://auring.blog105.fc2.com/blog-entry-514.html
    よければご覧ください。

    NoTitle 

    まあ、人生はこれからですからね。全てが終わったからと言って、エンディングがあるわけではありませんからね。死ぬまでエンディングはないですからね。常に希望を持つことが大切だと思います。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・黒色録 3】へ
    • 【蒼天剣・黒色録 5】へ