「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・黒色録 6
晴奈の話、第406話。
平和な女二人旅。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
殺刹峰崩壊後に起こった一連の事件から、時間は少々さかのぼって――。
双月暦520年2月。
晴奈たちは西方の港町、ブリックロードに寄港し、久々に地面に降り立った。
「……わあ」
晴奈の目に、様々な「毛玉」が映る。
「んふふ、言った通りでしょ?」
「ええ、……何だか、夢のようだ……」
港に下りた時点で、あちこちに兎獣人の姿が目に付く。少女時代にその可愛らしい耳と尻尾を見て感動したことのある晴奈は、珍しくうっとりしたため息を漏らした。
「……いいなぁ、この大陸」
「あと1週間くらいココに船止まるから、しばらくは目の保養になるわね。んふふふふ……」
「ああ……いいなぁ……」
いつに無く浮かれた様子の晴奈を見て、小鈴はクスクス笑っていた。
ヘレン総帥から西方大陸経由、北方大陸への航路を手配された晴奈は、フォルナたちとの別れを惜しむ間もなく、すぐに乗り込んだ。
大急ぎだったのは、1年近くも旅を足止めされていたこともあるが、戦争中につきその航路は、ほとんど特別便に近いものであり、手配されてすぐに出港が決まっていたからである。
順調に行けば、後3ヶ月ほどで北方の港町、グリーンプールに到着すると言う。
「……はぁー……」
浮かれきった晴奈を見て、小鈴は笑いが止まらなかった。
「んふふ、……ふっ、ぷふふ。……ダメだ、笑えるわ」
「……あ。……い、いかん。少々浮つきすぎたか」
晴奈は我に返り、ポンポンと頬を叩く。
「……にしても、今のはホントに女の子、女の子してたわね」
「そ、そう、かな?」
「うんうん。滅多に見られないもん見ちゃったわ、ホント」
小鈴にからかわれ、晴奈は顔を真っ赤にした。
「うぅ、不覚」
「いーじゃん別に。……それにさ、そろそろアンタもお年頃、過ぎちゃうわよ?」
「え?」
「だって、来年にはもう27になるんでしょ? ロウだったらもう、結婚してた歳よ?」
「……それは、確かに。いや、しかし、あいつはあいつ、私は私だからな」
晴奈はぷい、と顔をそらす。
「私と恋愛など、水と油も同然。相容れぬものだ」
「そーかなー」
「……そうだとも」
「んなコト言っちゃって、来年、再来年には子持ちになってたりして」
「はは、馬鹿な」
「いや、あるかもよ? あたしの友達にも、剣の道一本って豪語してたけど、年下の男の子と結婚しちゃった子がいるしー」
「……私の師匠のことだろう、それは」
「あはは、当ったりー」
取り留めの無いことを話しているうちに、晴奈も笑い出した。
「……はは、平和すぎるな」
「んっ?」
「少し前まで、大陸の北で生死を賭けた戦いをしていたと言うのに」
「そーねー……。ホント、嫌な戦いだったわ」
そうつぶやいた小鈴の目から、ぽろっと涙がこぼれた。
「あ……」
「こ、小鈴?」
「……ううん、何でもない。……ほら晴奈、可愛い『兎』さんよ、ほらほら」
顔を拭い、平静を装った小鈴を見て、晴奈は殺刹峰のことはそれ以上、話題に上げないようにした。
こんな風にのんびりとした旅路を歩みつつ、晴奈と小鈴は5月末に、無事に北方までたどり着くことができた。
だが、この間に世界は大きく動いていた。
世間では、いよいよ克大火と日上風中佐の正面衝突が起こるとうわさされ、北方と央北を結ぶ海上――北海では、日に日に緊張が高まっていた。
後に「黒炎戦争」と呼ばれるこの戦争の終局は、近づいていた。
蒼天剣・黒色録 終
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平和な女二人旅。
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6.
殺刹峰崩壊後に起こった一連の事件から、時間は少々さかのぼって――。
双月暦520年2月。
晴奈たちは西方の港町、ブリックロードに寄港し、久々に地面に降り立った。
「……わあ」
晴奈の目に、様々な「毛玉」が映る。
「んふふ、言った通りでしょ?」
「ええ、……何だか、夢のようだ……」
港に下りた時点で、あちこちに兎獣人の姿が目に付く。少女時代にその可愛らしい耳と尻尾を見て感動したことのある晴奈は、珍しくうっとりしたため息を漏らした。
「……いいなぁ、この大陸」
「あと1週間くらいココに船止まるから、しばらくは目の保養になるわね。んふふふふ……」
「ああ……いいなぁ……」
いつに無く浮かれた様子の晴奈を見て、小鈴はクスクス笑っていた。
ヘレン総帥から西方大陸経由、北方大陸への航路を手配された晴奈は、フォルナたちとの別れを惜しむ間もなく、すぐに乗り込んだ。
大急ぎだったのは、1年近くも旅を足止めされていたこともあるが、戦争中につきその航路は、ほとんど特別便に近いものであり、手配されてすぐに出港が決まっていたからである。
順調に行けば、後3ヶ月ほどで北方の港町、グリーンプールに到着すると言う。
「……はぁー……」
浮かれきった晴奈を見て、小鈴は笑いが止まらなかった。
「んふふ、……ふっ、ぷふふ。……ダメだ、笑えるわ」
「……あ。……い、いかん。少々浮つきすぎたか」
晴奈は我に返り、ポンポンと頬を叩く。
「……にしても、今のはホントに女の子、女の子してたわね」
「そ、そう、かな?」
「うんうん。滅多に見られないもん見ちゃったわ、ホント」
小鈴にからかわれ、晴奈は顔を真っ赤にした。
「うぅ、不覚」
「いーじゃん別に。……それにさ、そろそろアンタもお年頃、過ぎちゃうわよ?」
「え?」
「だって、来年にはもう27になるんでしょ? ロウだったらもう、結婚してた歳よ?」
「……それは、確かに。いや、しかし、あいつはあいつ、私は私だからな」
晴奈はぷい、と顔をそらす。
「私と恋愛など、水と油も同然。相容れぬものだ」
「そーかなー」
「……そうだとも」
「んなコト言っちゃって、来年、再来年には子持ちになってたりして」
「はは、馬鹿な」
「いや、あるかもよ? あたしの友達にも、剣の道一本って豪語してたけど、年下の男の子と結婚しちゃった子がいるしー」
「……私の師匠のことだろう、それは」
「あはは、当ったりー」
取り留めの無いことを話しているうちに、晴奈も笑い出した。
「……はは、平和すぎるな」
「んっ?」
「少し前まで、大陸の北で生死を賭けた戦いをしていたと言うのに」
「そーねー……。ホント、嫌な戦いだったわ」
そうつぶやいた小鈴の目から、ぽろっと涙がこぼれた。
「あ……」
「こ、小鈴?」
「……ううん、何でもない。……ほら晴奈、可愛い『兎』さんよ、ほらほら」
顔を拭い、平静を装った小鈴を見て、晴奈は殺刹峰のことはそれ以上、話題に上げないようにした。
こんな風にのんびりとした旅路を歩みつつ、晴奈と小鈴は5月末に、無事に北方までたどり着くことができた。
だが、この間に世界は大きく動いていた。
世間では、いよいよ克大火と日上風中佐の正面衝突が起こるとうわさされ、北方と央北を結ぶ海上――北海では、日に日に緊張が高まっていた。
後に「黒炎戦争」と呼ばれるこの戦争の終局は、近づいていた。
蒼天剣・黒色録 終
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さて、第6部も終わりです。
そこで恒例のスピンオフ、掲載します。
が。
その前に、溜まっていたいくつかのトピックを消化したいと思います。
スピンオフは恐らく、来週初めくらいから開始です。
乞うご期待。
あ、それから告知。
7部に晴奈は、一切出てきません。(晴奈の話~、と言っているのに)
晴奈と絡んでくる、重要な人物の話です。
こちらも、乞うご期待。
さて、第6部も終わりです。
そこで恒例のスピンオフ、掲載します。
が。
その前に、溜まっていたいくつかのトピックを消化したいと思います。
スピンオフは恐らく、来週初めくらいから開始です。
乞うご期待。
あ、それから告知。
7部に晴奈は、一切出てきません。(晴奈の話~、と言っているのに)
晴奈と絡んでくる、重要な人物の話です。
こちらも、乞うご期待。



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双月千年世界 3;白猫夢

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今日の旅岡さん

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NoTitle
まあ、のんびりするのは大切ですからね。
戦いの間のプライベートは必要ですからね。
誰であろうとも。
もふもふかんは重要ですね。
戦いの間のプライベートは必要ですからね。
誰であろうとも。
もふもふかんは重要ですね。
- #1623 LandM
- URL
- 2013.05/15 20:35
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NoTitle
晴奈の身が持ちませんからね。
もふもふしてなきゃケモノっ子とは呼べません。