「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
黒エルフの騎士団 1
さてさて、蒼天剣スピンオフの始まりです。
あの三人組のお話。
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あの三人組のお話。
1.
中央大陸北部、通称「央北」の田舎町、ソフィエランド。
「うーっす」
やや色あせた緑髪の狼獣人が、野菜を満載した手押し車と共に倉庫の中に入ってきた。
「おう、シグマのあんちゃん」
中で帳簿を付けていた、眼鏡をかけた短耳が笑顔で彼を出迎える。
「とりあえず、外にあるのんは全部運んどきました」
「そっか。んじゃ今日は上がっていいよ、お疲れさん」
短耳はそう言って、銀貨の入った小袋を彼に渡す。
「お疲れっすー」
銀貨を受け取り、彼はそそくさと倉庫を出ようと身を翻す。
「あ、ちょいと」
と、短耳が彼を呼び止める。
「何でしょか?」
「再来週末、こっちに旅芸人の一座が興行に来るんだってさ。チケット何枚かもらったから、良かったら見に行ってきたらどうだ? 妹さんとカノジョと一緒に」
「ちゃ、彼女ちゃいますて」
彼は顔を真っ赤にし、バタバタと手を振る。
「あいつもオレにとっては妹みたいなもんですて」
「ま、ま。それはともかく、行ってみるか?」
「……ほな、ありがたく」
彼――ヘックス・シグマは頭をポリポリとかきながら、相手の差し出したチケットを受け取った。
「今帰ったでー」
「お帰りなさい、兄さん」
家に着いたヘックスを、彼の義妹であるキリアが出迎えた。
「ミューズは?」
「いつもと同じ。もう少ししたら帰ってくるんじゃない?」
「そっか」
ヘックスは今日の賃金が入った袋をキリアに投げる。
「ほれ、今日のん」
「はーい」
キリアはそれを受け取って、自分の部屋に入っていった。
ヘックス、キリア、ミューズ三人の「最後の戦い」――大火との対決から、2年半以上が過ぎようとしていた。
落ち延びた三人は農業でにぎわうこの街に隠棲することを決め、共同生活を営んでいた。力のあるヘックスは畑仕事、細かい仕事が好きなキリアは針子、そして博識なミューズは街の資料館で働き、日々の糧を得ていた。
地下組織での生活を半ば忘れたように、三人はのどかで平穏な暮らしを続けていた。
「ただいま」
日が落ちた頃になって、ミューズも帰宅した。
「おう、おかえりー」
今度はヘックスが、彼女を出迎える。
「な、な。ちょっと面白そうなニュース、あるねんけど」
「何だ? ……あ、何?」
組織にいた頃は高圧的な話し方をしていた彼女だったが、少し前にヘックスから「堅いし女の子に似合わへんよー」と言われてから、なるべく柔らかく話そうとするように気をつけていた。
「何か再来週末くらいに、旅芸人がこっち来るらしいねん。興行のチケットもろたから、三人で一緒にどーかなー、思て」
「え」
ヘックスの話を聞き、ミューズは困った顔を見せる。
「どないしたん? そーゆーのん、嫌いやったか?」
「あ、いや、……私も、もらってきてしまった、の」
ミューズは提げていたかばんから、ヘックスが握りしめているのと同じチケットを3枚取り出して見せた。
「おりょ」
「……どうしようか」
「どないしよかなー……」
二人して困った顔を見せ、立ち尽くす。
「……クス」
その様子を眺めていたキリアが、たまらず笑い出した。
こんな風に、三人はのどかに、平和に、そして普通に暮らしていた。
三人の誰もが、「いつまでもこんな風に、穏やかに暮らせたら」と願っていた。
だが――。
「ご飯できたわよ」
「ん、あいあい。ほな、ミューズ呼んで……」
居間で寝転んでいたヘックスが立ち上がった、その時だった。
この田舎町に越してから一度も夕飯時以降に叩かれることのなかった、玄関のドアをノックする音が、どこか遠慮がちに聞こえてきた。
中央大陸北部、通称「央北」の田舎町、ソフィエランド。
「うーっす」
やや色あせた緑髪の狼獣人が、野菜を満載した手押し車と共に倉庫の中に入ってきた。
「おう、シグマのあんちゃん」
中で帳簿を付けていた、眼鏡をかけた短耳が笑顔で彼を出迎える。
「とりあえず、外にあるのんは全部運んどきました」
「そっか。んじゃ今日は上がっていいよ、お疲れさん」
短耳はそう言って、銀貨の入った小袋を彼に渡す。
「お疲れっすー」
銀貨を受け取り、彼はそそくさと倉庫を出ようと身を翻す。
「あ、ちょいと」
と、短耳が彼を呼び止める。
「何でしょか?」
「再来週末、こっちに旅芸人の一座が興行に来るんだってさ。チケット何枚かもらったから、良かったら見に行ってきたらどうだ? 妹さんとカノジョと一緒に」
「ちゃ、彼女ちゃいますて」
彼は顔を真っ赤にし、バタバタと手を振る。
「あいつもオレにとっては妹みたいなもんですて」
「ま、ま。それはともかく、行ってみるか?」
「……ほな、ありがたく」
彼――ヘックス・シグマは頭をポリポリとかきながら、相手の差し出したチケットを受け取った。
「今帰ったでー」
「お帰りなさい、兄さん」
家に着いたヘックスを、彼の義妹であるキリアが出迎えた。
「ミューズは?」
「いつもと同じ。もう少ししたら帰ってくるんじゃない?」
「そっか」
ヘックスは今日の賃金が入った袋をキリアに投げる。
「ほれ、今日のん」
「はーい」
キリアはそれを受け取って、自分の部屋に入っていった。
ヘックス、キリア、ミューズ三人の「最後の戦い」――大火との対決から、2年半以上が過ぎようとしていた。
落ち延びた三人は農業でにぎわうこの街に隠棲することを決め、共同生活を営んでいた。力のあるヘックスは畑仕事、細かい仕事が好きなキリアは針子、そして博識なミューズは街の資料館で働き、日々の糧を得ていた。
地下組織での生活を半ば忘れたように、三人はのどかで平穏な暮らしを続けていた。
「ただいま」
日が落ちた頃になって、ミューズも帰宅した。
「おう、おかえりー」
今度はヘックスが、彼女を出迎える。
「な、な。ちょっと面白そうなニュース、あるねんけど」
「何だ? ……あ、何?」
組織にいた頃は高圧的な話し方をしていた彼女だったが、少し前にヘックスから「堅いし女の子に似合わへんよー」と言われてから、なるべく柔らかく話そうとするように気をつけていた。
「何か再来週末くらいに、旅芸人がこっち来るらしいねん。興行のチケットもろたから、三人で一緒にどーかなー、思て」
「え」
ヘックスの話を聞き、ミューズは困った顔を見せる。
「どないしたん? そーゆーのん、嫌いやったか?」
「あ、いや、……私も、もらってきてしまった、の」
ミューズは提げていたかばんから、ヘックスが握りしめているのと同じチケットを3枚取り出して見せた。
「おりょ」
「……どうしようか」
「どないしよかなー……」
二人して困った顔を見せ、立ち尽くす。
「……クス」
その様子を眺めていたキリアが、たまらず笑い出した。
こんな風に、三人はのどかに、平和に、そして普通に暮らしていた。
三人の誰もが、「いつまでもこんな風に、穏やかに暮らせたら」と願っていた。
だが――。
「ご飯できたわよ」
「ん、あいあい。ほな、ミューズ呼んで……」
居間で寝転んでいたヘックスが立ち上がった、その時だった。
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