黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    黒エルフの騎士団 5

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    スピンオフ、5話目。
    南海の町並み。




    5.
    「ペルラ島は主に胡椒や鬱金などの香辛料と、北の小島で採れる上質の岩塩、そして近海で漁獲される魚を主な生産物としており、そのことが上質な食文化を形成している。
     近年では外務大臣、ファイ・ハッシュ卿を筆頭とする貿易・外務対策委員会が政治的実権を握っており、彼らの優れた政治指導の元、島は潤う一方である。……とのことだが」
     ミューズは持って来た資料から顔を挙げ、港の様子を眺める。
    「確かに活気のある港だな」
    「騒々しいくらいね」
    「それと、……なんや薬臭くないか?」
     港には島の各地から集められた農産物が積まれており、香辛料に加工する前のそれらは、非常に独特な匂いを放っていた。
    「もっとこう、スパイスっちゅうたら美味しそうな匂いしてるもんと思てたけど」
    「言ってしまえば、匂いのきつい野菜だからな。そのままでも食べれないことはないだろうが、食べる人を選ぶ作物であるのは間違いない」
     一行が港を進むうちに、ようやく食欲を誘う香りが漂ってきた。
    「お……」
    「いい匂いやな。腹減ってきそうな」
    「……」
     ペルシェはシャロンを抱えたまま、ぼんやりとした表情を見せる。
    「どないしたん?」
    「疲れたかい、ペルシェ」
     ヘックスとウェルスが声をかけたが、ペルシェは反応しない。
    「……」
    「ねえ?」
     キリアがトン、と肩を叩く。
    「ひゃ? ……ん、なにー?」
    「どうしたの、ぼーっとして……?」
    「ううんー、懐かしい匂いだなーって」
     ペルシェは近くの店に足を向け、褐色の粉が詰まった樽の前で立ち止まる。
    「この国の名産、レッドペッパー……。この香り、ホントになつかしー……」
     と、ペルシェの様子を眺めていたらしく、奥から店主らしき猫獣人がやってきた。
    「(奥さん、ここの出なのかい?)」
     店主の言葉は当然、南海語である。
    「あ、えっと、……(そうなんです)」
     ペルシェの口からも、自然に母国語が出てきた。
    「(そうかそうか、うんうん。……じゃ、これも懐かしかろう)」
     そう言って店主は、傍らにあった縞模様の瓜をざくりと切り、差し出した。
    「(わあ、スイカですね)」
    「(そう、そう。ほれ、サービスだ)」
    「(ありがとうございます)」
     ペルシェは嬉しそうに、真っ赤なスイカをほおばった。
    「(……あっまぁい)」
    「(ふふふ、他にもうまい果物はたっぷりあるし、良かったら買ってってくれよ)」
    「(はいっ)」
     半ば舞い上がっているらしく、ペルシェは抱きかかえたシャロンにあれこれと指差して見せている。
    「ほーら、これは林檎だよー。こっちは葡萄。食べたいー?」
     ペルシェは葡萄を一粒つまみ、シャロンの口に運ぶ。
    「……うふふ、おいしいー? おいしいよねー。一杯食べてねー」
     ヘックスたちも、ペルシェ親子の様子に和んでいた。
    「うわぁ……、ほっぺた、もっきゅもっきゅしとる」
    「ああもう、可愛すぎるっ」
    (……毎度毎度、ヘックスとキリアときたら)
     ミューズは皆の輪から離れ、香辛料に目を向けていた。
     と、それに気付いたヘックスが、ミューズの袖をぐいっと引っ張る。
    「ミューズもこっち来いや、かわえーよー」
    「いいよ、私は」
    「そんなこと言わんと、ほれ」
     ヘックスはミューズの手に無理矢理、梨一切れを渡した。
    「食べさせてあげてー」
     ペルシェもニコニコしながら、シャロンの顔をミューズに向けさせる。
    「む、……じゃあ、……はい」
     ミューズは恐る恐る、シャロンに梨を差し出す。近付いてきた梨をもしょ、と食べたシャロンを見て、またヘックス兄妹とリモード夫妻が騒いだ。
    「かーわいーい」
    「……やれやれ」
     ミューズは肩をすくめてみせた、が――。
    (まあ、確かに可愛い、……と、思う)
     ちょっとだけ、ヘックスたちが騒ぐのに納得した。

     とは言え、この島には観光目的で来たのではない。
    「さっさと城に行くぞ」
    「あいあい」
     放っておいては道草を食う人間ばかりなので、ミューズが一行の後ろに立って急き立てる形をとった。
    「……と、意外に近かったな」
    「本当ね、港から20分も歩いてないわ」
     市街地の中央と思われる場所に、それなりに飾られた宮殿が建っているのが確認できた。
    「……?」
     ところが、それを見てなぜか、ペルシェは首をかしげていた。
    「どうしたんだ?」
     いかにも腑に落ちなさそうなペルシェの様子に、ウェルスが声をかけた。
    「……違うー」
    「ん?」
    「あれ、お城じゃない」
     ペルシェははっきりと、その建築物を否定した。
    「お城じゃない、って?」
     尋ねたウェルスに、ペルシェは小さく首を振る。
    「あたしの記憶に、こんなのなかったよー」
    「そう言われれば、確かに……」
     城は建てられてから数年も経っていないらしく、壁も装飾も痛んだりはげたりした様子が無い。
    「少し待て。調べてみる」
     ミューズはかばんから資料を取り出し、ぺらぺらとめくって情報を探す。
    「……ああ、あった。この城は15年ほど前に建てられたようだ。
     元々王族が住んでいた古い城は東の方、砂漠地帯と市街地の境に建っていたが、砂の侵食によりこちらに移転したとか」
    「じゃあ、そっちに行こー。あたしが見たの、多分そっちの方だろうしー」
     一行はペルシェの意向にうなずき、砂漠地帯へと向かった。
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